灰色の先行き
彼女の結界に接触しそうになった瞬間、野生の勘が働く。
足を踏み入れたが最後、俺も時を止められていたかもしれない。
この大陸に来てから寒さを全く感じた事が無いのに、
今俺は冷えを感じている。底冷え。
この手の結界は、説く方法としたら展開している本人の意思による停止か、
直接的に停止させるかしかない。ただこれが曲者なんだなぁ。
竜人の街の時もそうだが、展開者の結界なので指定した条件の中で
制限された活動となる。俺だけ動けたのは、それを許されていたからだ。
……恐らく気絶というより放心状態だったのかもしれない。
手を妙に動かさなくて正解だったんだな。
そう思ってひやっとした。
さて、そうと解ればどうするか。
ダンジョンに侵入していないのに、スタートしてしまった気がするよ。
俺は手にあった果実を結界内に放り込む。が、葉の部分の先っちょが
入っただけで動きを止めて、まるで樹になっているように結界外の実がふらりと
ゆれて、また少しだけ入って止まる。コンクリートの壁にアートっぽく
埋め込んだ感じなっている。めっちゃ怒っとるやんけ。
気を全開にした所で、彼女の所へ辿り着ける訳も無い。
となるとここは本体である彼女に交渉した所で取りつく島も無い。
だとすれば、他を当たるよりほかない。
エウリュアレーは思考的ものぐさなので、運が良いと一本釣り出来なくもない。
そう考えたが残念ながら彼女を釣る為の餌が期間が短い為に解らない。
何しろものぐさなのだ。極力面倒な動きをしたくないのだ。
そらこの距離の移動は無理かなぁと思った。
で、次にメドゥーサだが、彼女は基本冷静だ。
唯一怒らせる事が出来るとすれば、ヘラクルスさん位だろう。
後は姉を侮辱すれば良いんだろうが、今は一緒にいるし簡単にブレーキを掛けられて御終いだ。
そして最後にステンノー……こいつは助けてくれそうだ。
くれそうだが助けられたくない……。
余りにも利益以外の損が半端ない気がする。
何しろドSだ。女神だからと助言を聞いたらいつの間にか地獄めぐりしていた、
なんてのは可愛らしいってレベルで相手に試練を与え、むせび泣くのを喜ぶほどだ。
そら誰も神殿に近付かなくなるっつーの。そして八当たりと雑務をぶつけられるメドゥーサさん。
……一度ダメもとでメドゥーサさんに助けを求めてみるか……。
「メドゥーサさーーん、へるぷみぃーーーー!」
ありったけの声で助けを請うてみた。
「風と共にステンノー推参」
シャラーンと髪サラーンと光を撒き散らしながらドSが来た。
推参というか水酸の間違いじゃなかろうか。劇薬以外の何物でもない。
「……だから私言ったのに。触るなって」
「ごもっともで」
そうは言いつつもご機嫌ステンノー。碌でもない。
「という訳でペナ1ね」
「えー」
「えーじゃないわ。心の中の悪態込みで譲らない。本来なら2付けても良い位」
oh……そいつはヤバい。1ですら地獄めぐり確定位の質量ありそうなのに、
2倍の2何て宇宙の果てまでゴーゴゴー位の事いわれそうである。
「……貴方思った以上に頭と口と言葉が悪いわね」
「かなり重症ですね」
「他人事!? ……まぁ良いわ。私女神だし許してあげる。とても気分が良い」
涎すら見えそうな嫌らしい微笑みをしておられる。
「じゃあ取り敢えず無かった事になる感じで?」
「のー」
……何だこいつ。
「……無かった事になる訳ないじゃん馬鹿じゃないの」
「はいはい」
「……反省なさいよ反省を」
「はーい。どうもすみませんした!」
話が進まないので斜め四五度で謝ってみた。勿論反省すべき点があるのも事実だし。
「まぁ良いわ。取り敢えず暫くは変わらないで抑えておくから、私達に御奉仕なさい」
最悪だ。何をさせられるか不安しかない。
「さぁ先ずはとっとと洞窟入口まで戻るわよ! 道中で材料とか食材とか拾っていくから
頑張んなさい!」
「へーい」
どーせエライ量担がされるんだろうなぁ……。
鼻歌交じりで先を悠々シャラーンシャラーンと歩くステンノーの後を追う。




