灰色の怨念と引き籠り牛
「お待たせ。何とか耳は聞こえそうだ」
俺は暫く悪戦苦闘しつつも、自然と聞こえるようになってきた時に、
側にいた彼女に声を掛けた。
「大して待ってはいないわ。それより御免なさいね。普通の人間なら死んでいたわね」
「良かったな俺が普通じゃ無くて。感謝してくれ」
「そうね。危うく取って食われるところだったわ」
「ティアマトさんにか?」
そういうと目を丸くした後
「幾ら女神から竜に落とされたとはいえ、さん付けで呼ぶなんて貴方色々普通じゃないのね」
と感心されてしまった。まぁ異世界から来たんだから規格外ではあるけれども。
色々な体験をさせてもらってる御蔭で、そういう格付けとかに感覚が
緩くなってきているのかもしれない。何しろ神様にも度々あっているんだから。
「それよりその取って食われる相手に何を言われてきたんだ?」
「言っておくけどティアマトではないわ。簡潔に言うとね、私達帰れなくなったの」
……うーん簡潔と言えば確かに簡潔。しかし無駄もないけど、必要な所も無いわ。
「はしょりすぎ」
「何処から話したものかしら……貴方引き籠りって知ってる?」
「I know」
「何で英語?」
「動揺した」
「なら話が早いわ。今ティアマトダンジョンは引き籠りの部屋なの」
「全然早くない。動揺してても飛び過ぎてる位解るっつーの。騙されるか!
理解出来る感じで頼む」
「意地悪してるだけよ」
「知ってる」
イニシアチブを取ろうとしているのは明白だ。
コイツ何か俺に余計な事をさせようとして、大事な所を避けまくってる。
頭が悪い訳ではない。寧ろコイツは知能担当だ。それが行き過ぎて簡潔に言ってる訳ではない。
此方が聞かなければ言わないで黙っておいた良い事があるんだろうな。
「ティアマトさんにダンジョンを形成する事なんて出来ないだろう?」
「何なら出来るのかしらね」
「禅問答でも始めるつもりか?」
「嫌ね。さっきも言ったじゃない? 貴方に意地悪しているだけよ」
「意地悪は結構だが話が進まない。本来なら無視したい所だが、この世界に閉じ込められている
以上そうはいかない。だからお前さんが話すまで幾らでも付き合うぞ」
「……へぇ気付いてたのね」
「気付いていたと言うか、当て勘」
「酷いわね」
ホントに当て勘だ。髪からして大ヒントである。髪の毛の先端の顔は蛇。
ただロキが面倒になったのか、3人混ざってる。そして本体は異世界人。
本来であれば、直視した相手を石化して相手の運命を止める。
それが手をかざしてこの一帯を覆って止めている。
薄く広くという効果の違い。簡単に言うとそうだが、それはほぼ神に近い力。
ゴルゴーン3姉妹と異世界人。確かにそれ位混ぜたら出来るんだろうなぁと
漠然と思った。俺の問いにうっかり正解と言ってしまうあたり、元々女神なだけある。
「貴方の推測は当たっているわ。元々は私達のエリアに見慣れない格好をしたこの娘が来た事が
発端だったの。私達的には挑んでくる愚か者が居ない、この竜の土地での生活は
其れなりに満喫していたしね」
「まさかこの娘が3人を取り込んだのか?」
「半分正解で半分外れ。この娘の怨念を媒介にして、ロキが生成した力によって融合したの」
「アイツ無茶苦茶しやがるな」
「そしてまぁ迷宮造りの名人とは言えない私達に、更に迷宮大好き生物を連れて来たわけよ」
「ああ……」
嫌な予感しかしない。引き籠りに迷宮大好き生物。全て嫌味だが解り易い。
「ミノちゃんは元々あった状況にプラスして、この娘から分けられた怨念により、この先
一千万年位は有に引き籠れるくらいの迷宮を生成しちゃったわけよ」
「生成て。どんだけひねくれたんやミノちゃん……ほっとけないじゃないか」
「ズバッと解決出来なかったのね色々。今は何だか魔物を狩るゲームをやってるわ。世界が滅ぶまで
そのゲームやるそうよ? 魔物が魔物を狩るゲームって」
ぷぷっと笑っておられる。これは呆れたのを通り越した感じかね。
「笑いごとちゃうわ。ロキの野郎そんな攻略不可能っぽいものを作りやがって」
「なんでも、引き籠りなら通じる所があるんじゃね? っていってたわ」
……あぁ、そう言えば俺元々引き籠りだったわ……




