灰色の彼女
黒隕剣に気を通し、黒刻剣に魔力を通し直す。
魔力のみ気のみだけでは貫通するどころか傷を付ける事すら無理かもしれない。
取り敢えず充電完了……。
精神集中……。
「吹き飛べっ!」
何か忘れた気がしたが兎にも角にも全力だ!
「あひゃ」
何かが踏ん張ってる俺の左踝を、叩くでもなく殴るでもなく、
絶妙な加減でスコーンと押されたのだ。俺の最大出力は
渦を描いて明後日の空へと吸い込まれて行く。俺の視界は地面と空が半々になっていた。
「おい、誰だこんな真似した奴は」
巧い具合に気配を殺してはいるが、微弱に存在している。
こいつも何か一つではない。複雑な生き物のようだ。
「御免なさいね。急いでたの。生まれたてだから加減が解らなくて」
子供の声と共に、地面に足が映る。革靴……?
「……君は何処から来たのかな」
「さぁ。さっき言ったでしょう?生まれたてなの私」
最初の一撃からして、攻撃するつもりは更々ないようだ。
いきなりトップギアまで入れられるような相手なら、
致命傷以外なら一撃貰っても良いし。
兎に角寝そべってるこの状況はどう考えても死亡フラグだ。
「別に起きても平気よ? 寝ながら喋りたいならそれでも。気持ち解るから」
何の気持ちが解るのだろうか。俺はどうもみょうちくりんな声の主に
自然と頬が緩んでしまった。
「そらどうも」
やれやれと思いつつ、仰向けになってからゆっくり体を起こす。
「どうもこんにちは」
それは一瞬目を疑う姿をしていた。下から徐々に視線を移していったのだが、
また異世界人かぁどこの制服だこれは、と思ったのは顔に移るまで。
「わかめとは違うよな、それ」
「違うね」
顔色は血が通っている色。少し八重歯がキツめ。ここまでは疑う余地も無い。
しかし眼が赤い。瞳孔が縦長。髪がわらわらしている。ドレッドヘアーの毛先に
無数の顔があった。
「ちなみに何で出て来たのか聞いても良いか?」
「それだけで良いの?」
「良くは無いな。だけど先ずそこから聞きたいと思ってな」
「あっそう」
イマイチ感情が伝わってこないなぁ。何かちぐはぐしている。
素っ気なく返事をした後、空をじっと見ている。
「き、貴様ら! さっきのは一体何なんだ!?」
門兵が声を上げた。てか今更何を言い出したんだ。
俺は面倒だと思いつつ黙らせようとする。
が、いつの間にか少女が前に立っていた。
手を彼女がかざすと門兵はそのまま停止。
何の魔法だ?
「巧く行かない……面倒」
エライ低い声で言ったかと思うと、セカイは次第に色を変えて行く。
灰色。濃さは灰色の域を出ない、単色に近い世界。
ただ不思議な事に、俺は動けている。指は動く。体も即動かせる。
しかしどうも違和感が凄いな。こういう場合俺はこの娘を攻撃するべきなんだろう。
だがそうは思う事は無い。どーしたもんか。
「これで良い」
「良くは無い」
俺は敢えて食い気味に突っ込んでみた。その発言に首をかしげる少女。
傾げたいのは俺だっつーの。
多少いらつきはしたものの、俺は思い出す。そんな場合じゃないんだ。
「所で俺は色々と忙しいんだが、手短に用件を聞いても良いか?」
「手短は難しい」
「そこをなんとか頼むよ」
「解った」
「解るんかい」
何とまぁゆるやかな漫才だこと。このセカイに来て初めてなんじゃなかろうか。
「ようこそ私達の地下迷宮へ」
短くて意味が解らない。要求には答えてくれたが、謎が謎を呼んだだけだ。
これ以上呼ばれても、謎のエレク○リカルパレード状態で処理しきれないオッサン的に。
無理だなぁこれは無理だわ。
「御免短くなくて良いから、解り易く早めにお願いしゃす」
「無理」
「はやっ」
そこは早いんかい。……悩むとか考えるとか思考の部分をカットしてる感じだなぁ。
取り敢えず話を聞くしかなさそうだなこれは。




