冒険者、凶人に襲われる
原因を究明する為に、冒険者コウ達は旅立った。
そこで待ち受けていたのは!?
俺とビッド、イリア姫にダンティスさん、
リードルシュさんの一行は
城下町を出てひたすら北上し、
森の中に入った。
森の中は騒がしく、魔物の巣に
飛び込んだような状態だった。
「ビッド、突破口を開いてくれ!
ダンティスさんとリードルシュさんは、
ビッドが開けた突破口の両サイドから
崩して広げてください!
姫、俺と一緒にビッドの両サイドに
ついてフォローを!」
「了解!」
ビッドは俺の指示を聞くと、
ハンマーを振りまわして魔物を薙ぎ払う。
次々と飛び散っていくゴブリンや
紫の肌にコウモリの羽根を生やし、
鬼のような角を小さく生やした生き物。
どうやらこの森の先に何かあるのは
間違いないようだ。
それに恐れて森を出てきたのか、
煽られて凶暴化し街を襲いに来たのか。
俺はビッドの開く突破口から逃れた
魔物を殴り飛ばし蹴り飛ばして、
ビッドのハンマー攻撃の障害を除く。
即席のパーティにしては巧く行く。
俺以外の戦闘経験者が多いからだと思う。
ダンティスさんは中華包丁二刀流で
魔物を切り刻み、リードルシュさんは
抜刀術で、魔物たちをカマイタチの
ようなものを起こして切り刻んでいた。
姫は俺とビッドの間合いより更に奥へと、
竜槍で突いて行く。
だけど数が減った気はしない。
進んではいるがキリが無い。
「コウ、魔法は使わんのか?」
リードルシュさんは汗一つ掻かずに
魔物を斬りつつ俺に尋ねた。
「いや、魔法の使い方とか解らないです」
「それだけの魔力量があれば使えない事は
無いだろう。何らかの加護を受けている
のではないか?」
加護……。
そう言われると、あの絶世の美女の
気まぐれの祝福によって誕生した黒隕剣。
それを所有する事が認められたと言う事は、
あの人の加護を受けているのだろうか。
凄く威厳があり偉い人っぽかったし。
俺が頭にその姿を思い浮かべると、
その美女が俺に向かってほほ笑み、
手を突き出した。
「うぉ!?」
「キャア!?」
その声にハッとなり前を見ると、
魔物の群れが吹き飛んでいた。
というか木も草もなぎ倒されている。
台風が通り過ぎた後のように。
「コウ、いきなり魔法を使うのは
ダメだろう」
ダンディスさんが俺の肩に手を置き
苦笑いしながらそう言った。
魔法?
どうやって?
詠唱とかそういうものが
必要じゃないのか魔法って。
「まさか詠唱無しで風の渦を呼びだして
吹き飛ばすとは。あれはなんだ一体」
「いや、さっぱり……。
何だったんでしょうね」
俺も解らない。魔力量があると
言われていたが、それをどう使うか
なんて知らない。しかも風を起こしたいとも
思っていない。
ただ突破口を開こうとは思っていたが。
「見たところそう魔力量は減っていない。
あれだけの威力の魔法を放って減らないとは
底なしなのかお前の魔法量は」
リードルシュさんが呆れたように
俺に言った。しかしあれを自由に
使えなければ、意味が無いんじゃ
ないかな。
”神の吐息”
頭の中に声が飛んで来る。神の吐息?
ゴッドブレスってことなのか?
厨2病全開だな。
「いたたたた……取り合えず前は空いたし、
第一波は凌いだ。これからどうする?」
ビッドは俺が放った魔法によって
吹き飛ばされていたが、
立ちあがり俺に尋ねてきた。
「ですね。この後も続くとすると、
私達の体力が持つかどうか」
姫は何とか飛ばされず、竜槍を地面に
突き立て踏ん張ったようだ。
地面から竜槍を抜くと片手で持ちながら、
そう言った。
「兎に角前に進みましょう。もう少し行けば、
俺とファニーがエルツへ向けて出発した
洞窟の裏手近くに着きます」
「了解。ビッドの旦那、リードルシュの旦那も
後衛を頼む。俺と姫は前衛でコウは臨機応変に
動けるように警戒しておいてくれ」
「ダンディスさん了解です」
「流石元軍人と言ったところか。了解した」
「任せろ!」
「はい!参りましょう」
俺達は警戒しつつも早歩きで森を進んで行く。
明らかに眼が真っ赤になり凶暴化している
イノシシやオオカミに度々襲われるも、
難なく退け突き進む。
そして麓の近くに出ると
「何ヲシニ来タオ前ラ」
そこには紫色の肌にコウモリの羽根を生やし
鬼の角を小さく生やした集団が居た。
「さっきも混じっていたが、魔族だ」
リードルシュさんがそう言いつつ、前に出る。
「これはいよいよきな臭くなってきやがった」
ダンディスさんも前へ躍り出る。
「ホウ、生贄ニシテハ、威勢ガ良イナ」
甲高い声が頭に響く。
「何が目的だ?」
「ソレハコッチガ聞ク事ダ。マダ生贄ガ
足リナイトイウノニ、最近途切レテイタ所へ
オ前達ノヨウナ奴ラガ」
「森の魔物たちを操っていたのはお前たちか?」
「ソレハ……」
「俺が使役したのだ」
俺達の後ろから声が飛んでくる。
森の中から現れたのは、
ビッドと似た姿の大男だった。
「あ、兄者!」
俺はビッドの方を向く。兄者?
って事はリムンの……。
「久しいなビッド。まさかこんな所で逢うとはな」
その姿は筋骨隆々で、体には小さな痣から
大きな傷まで無数にあり、
右眼は斬られたような跡が付いていた。
「らしくない得物を持っている。俺の右眼を
奪った自責の念にでも駆られたのか?」
「ば、馬鹿な……兄者は死んだはず!?」
「そう、死んださ一度な。しかし俺は蘇った。
恨みを晴らす為にっ!」
大剣が唸りを上げてビッドに襲いかかる。
「くあっ!」
俺は寸での所で鞘から抜けた
黒隕剣を掴み防ぐ。
しかしその衝撃は体を突き抜け、
地面にクレーターを作る。
「ほう。ドラフト族でも最強である俺の
一撃に耐えうる人間がいるとはな」
「何故……」
「何?」
「何故娘の所へ戻らない!リムンは一人ぼっちで、
どれだけ辛い思いをしたか!」
「何故お前が娘の事を?」
「リムンは寂しさを忘れる為に悪さをしてな。
俺が叱って仲間にした」
「そうか……」
ビッドの兄、ビルゴはもう一度大剣を
振り上げた。俺はもう一度受ければ腕が
持っていかれると思い、避ける。
しかしその衝撃で吹き飛ばされる。
「願いを成就させる為に、俺は悪魔に魂を
売った。解り易いだろう?」
「大体解ったが、納得はいかない!
娘を置き去りにすることが、親のやることかよ!」
「妻が……」
「何?」
「妻が蘇れば娘を迎えに行く」
俺はその言葉にキレた。
黒隕剣を思い切り真っ二つに
するつもりで薙ぐ。
「やるようだな。だが足りない」
黒隕剣はビルゴの剣に受けとめられる。
そんな!?
何でも斬れる剣である
黒隕剣が止められた!?
「止まるなコウ!」
「邪魔だぜおっさん!」
へたりこむ俺の前にリードルシュさんと
ダンディスさんが躍り出て、
ビルゴへ襲いかかる。
「馬鹿が。あいつに無理なものがお前達で
どうにかなると思うな」
ビルゴの大剣は唸りを上げ、
突風を起こし俺達を吹き飛ばす。
「俺の怨念と妻の無念、そして俺達の魂を
吸ったこの魔剣、ゴブルディスは斬れない代わりに
折れず如何なる物も叩き潰す」
黒隕剣がどんなものでも斬れないものは無い。
魔剣ゴブルディスは折れない代わりに斬れない。
力任せのドラフト族に最適な剣だ。
そしてこれは矛盾か。矛と盾ではないが。
「人間、お前が如何に優れた剣を持とうとも、
元々が弱ければ強い方が勝つ。自明の理だ。
大人しく生贄になるが良い」
どうする!?
この敵をどう退ける!?
ビルゴを倒さなければ先に進まない。
だが倒せるか!?
折れずに如何なる物も叩き潰す事の出来る魔剣。
俺は黒隕剣を杖のようにして立ちあがる。
ビッドを凌ぐドラフト族最強の戦士ビルゴ。
思わぬ強敵と魔剣にどう立ち向かうのか!?