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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
ダンジョン攻略準備編

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この素晴らしき世界

 決まって何か決断する時に、頭に流れてくる曲がある。

夕暮れを思わせるような曲調に乗せて、バラよりも染み入ってくる

しゃがれた歌声。

 俺の意識が消えたのは、曲の終わりと同時だった。

素晴らしい世界というものの正反対。自分としては精いっぱいの皮肉。

糞の上に糞を積み上げ、それを吹き飛ばしてまた積み上げていた。

標的をいつからか糞みたいな自分と置き換えた。

今撃ったのは糞みたいな自分。だから誰も犠牲になっていない。

何て素晴らしい世界なのだろう。糞みたいな言い訳も呑み込んでいたのだから。


「ジャンさん、大丈夫ですか?」


 肥溜めの中に沈めた自分に溺れそうだった俺を、救ってくれた友が居る。

この訳の解らない世界に落ちて、初めて会った時から何と無く、

良い友人になれる気がしていた。そして今や運命共同体。

目に見えない国や、俺の積み上げた糞を見て誇る人間達。

そのどれでもない。今や俺はその目に見えない国の一部。

この友人と共に、最初は自分たちの気の向くまま、力を使って

遊ぶように家を立てた。ただ二人で出来る事には限界があった。

この友人の力は、この世界に来て得たものがすべてではない。

元の世界では糞のようだったという友人。

ある意味でこの世界に来て開花したのだろう。

ありとあらゆるものを巻き込んで、荒野に立った一軒家は

段々それを取り囲み、商店市場を作り流通が始まり、

水道などインフラを整備して、いつのまにか国が出来た。


「ああ康紀、大丈夫だ。任せてくれ」


 大丈夫なのだろうか。自分で自分を信じられないのが糞だ。

俺は手を汚す事に何の未練も無い。だがこの友人の御蔭で

手を汚すより難しい事に今まで挑んできた。そして今、俺は、俺たちは

動き出している。状況は絶望的な位糞だった。


 ある女は言った。

何れ交わると。

その後接触があったが、多少交戦した程度だった。

銃と剣。間近に見る英雄。俺の友人よりもおっさん。

何れ超えて見せる。ただの顔見せ程度、

行きがけの駄賃、小遣い稼ぎ、悪党の上前をはねただけに過ぎない。

その筈だった。


 女は言った。

早過ぎたと。

本来なら全て地盤が出来てからのはずだったと。

欲を出したがために小指をしばられた、と。


 またか。

また俺の所為で。

今度は全て総浚いで奪うつもりなのか。


――良いんだよ君は。御自慢の友人と絆で結ばれた軍隊を動かせば――


 俺たちの夢の国は、その国の下はいつの間にか水虫のように根を生やした

悪魔の支配下だった。笑えないジョークだ。

だが笑える。このままで済ませるわけがない。

あの糞の首を必ず取ってやる。

だがそれは心の奥にしまいこんで、

今はジャズのように重厚だけど軽やかに、そして曲の終わりは華やかに締めくくる。


「取り敢えず首都を急襲って事で良いんですね?」

「ああ、こっちとしては取り敢えず俺達の国を認識してもらうだけで良いからな」


 そう嘘も軽やかに。

首都グラディエに眠る秘宝、ギャラルホルンを奪う。

これさえこなせれば国は救われる。

……筈はないさ。解っているそんな事は。野郎は俺たちを生贄にして

何かをしようとしている。百も承知だ。

例え生き残れたとしても、これ以上の事を要求してくるに違いない。

だが俺たちだって、二人じゃない。

黙ってやられてたまるか。

必ず、必ず生き残ってやる。


「さぁ行きましょうか」

「そうだな」


 俺は意を決して手を挙げる。

歓声と共に動き出す俺たちの仲間たち。

ひと旗挙げよう、世界の中に名を残そう。

そんな思いでいる皆。

素晴らしきこの世界。

曲に込められた思いを、願いとは真逆な行為。

そして、幼い頃に憧れた男の願いとは逆の事をする為に吹く事になるだろう。

だがそれでも……。

 俺は銃を召喚し、俺たちの最初で最後の行軍を始めた。

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