サイゼン
見送りつつこの後の行動を考える。
アダマス様の老いと生まれ変わりによって、拮抗していたゴルド大陸の
均衡を崩そうとしている竜が居ると聞いて来た。
しかしどうもそれだけではない。俺にその竜を退治させようという
思惑が働いていた。
今のところ誰かの得にはなっても俺には得はあまりない。
あるのはアルブラハさんに借りを返すという一点だけだ。
何よりこの大陸の詳しい事を知らないというのが一番不味い。
均衡が実際にどのように保たれているのか知らずに
どこか一つを崩すというのは、俺自身が均衡を崩したに他ならないのだ。
ただ実際問題アダマス様の所の竜人を見た限り、彼らの生存本能は
気薄に感じられるので危機管理というか意識は微塵も無さそうだ。
要するにアダマス領に攻めてくる魔物を止めれば良い。
そうなるとロキと直接話す必要がある訳だ。
来るよう仕向けられていたんだろうが、先ずそこを止めないといけない。
もうひとつの問題としてアダマス様と今から話した時に人質を
取られる可能性がある。こっちが自由に選択して動く為にはそれは出来ない。
なので全員揃っていればそのまま出発する。ただしアルブラハさんは
連れて行けない。まさかとは思うが無くはないんだけどどうしようもない。
これについては常に頭に入れておかないといけないだろう。
そしてアルブラハさんが物量で押されて意識不明になったのか。
俺は街へ向けて歩き出す。常に考え最善手を打ち続けなければならない。
更にこの世界において唯一創造した者の枠からはみ出せる者として、何か
対抗手段を持たなければならない。良いように利用されてポイされる訳にはいかないんだ。
歩きながら制約をある程度受けない人物について考えてみる。
「あ、居た居た」
声が飛んできた方向を見る。
其処には恵理が空を浮いてこっちを見ていた。
何て言うか見えそうで絶対に見えないというメカニズムは
どういう物なのか是非知りたいものである。
て言うかあれは世界の神秘の一つではないのかとすら思えてしまう。
魔法か魔術の類なのか。
「どした?」
心配そうに言いながらゆっくりと降りてくる恵理。
真面目な後にくだらない事を考える当たりまだまだ気楽なもんだと思う。
少し気が楽になる。
「見えそうで絶対に見えないメカニズムが知りたい」
「女になれば?」
明瞭な答えである。
そもそも女子でなければ発動しないし要らない能力である。
絶対に見えてしまう能力というのもそれはそれでなんだよなぁ。
「んなくだらない事考えてて遅くなったワケ?」
「いんや。ちょっとヤボ用でね」
「あっそ」
恵理は俺の横に並ぶと興味無さそうにそう言って歩き出す。
うーん。あんまり勘ぐっても仕方が無い事なんだろう。
何しろ如何にかしたいのであれば一瞬にして如何にかされるんだから。
少しずつ少しずつずらして、出来ればゴールは意外な物になったら良い。
「恵理は頑張って俺より強くなってくれ」
「今の段階だと魔法はアタシの方が強いと思うけど?」
「そうだな。出来れば総合力で上回って欲しいな」
「ならまた鍛錬しますか」
「そうだな」
恵理のセンスはロキの技を見て習わず再現した程高い。
あれでもロキは神である。その技を習わずに習得できたのは本当にセンスとしか言いようが無い。
ぶっちゃけると理屈が何もないでやってみせたのだから。
恐らく今でも理屈は理解してないと思う。あまり人の事言えないけど。
「まぁ俺もまだまだ強くなるけどな!」
「いや若さからしてアタシの方が可能性の塊じゃん?」
即効否定してくるドS女子。
他愛もない漫才みたいな会話をしつつ街へ戻った。




