孤軍奮闘
女性陣の会議は割とあっさりと終わった。
次に案内をしてくれた兵から、ダンジョンについて教えてもらう。
具体的な階層は不明なものの、やはり30階以上あるとの事。
俺はマジックアイテムに関して尋ねたが、イマイチ芳しい答えが
返ってこない。あるにはあるが、具体的には言えないと。
何とも歯痒い感じである。恐らく危機感が無いのだろう。
見た目的には押されているとは言え、負けた訳ではない。
竜としてのプライドが、邪魔をしている可能性も捨てきれない。
解決はして欲しいけど、アルブラハさんほど俺達に期待していない
と言った所だ。
話をして行くうちに段々とファニーの機嫌が悪くなってきたが、
手を握って落ち着かせる。キレた所でしょうがない。
そこも狙ってアルブラハさんに止めを刺さなかったような気もする。
俺達が来た事は、先方も承知しているだろう。
次の手としては、俺達が来る事を望んでいるなら一時兵を引く。
望んでいないのであれば、兵を更に増してくる。
俺の予想では前者だ。
「所で我らの宿舎は何処か?」
「は、はい。ここをお使いください」
「……コウ殿はアルブラハ殿に頼まれてきた、言わば賓客である。それが病気を治す場所と同じとは、これがゴルド大陸流の接待なのかね?」
ナルヴィが背筋を伸ばし淡々と抗議すると、
兵士は一瞬嫌な顔をした後、上司に確認して来ると部屋を出た。
どうやら歓迎はされていないようだ。
格下の種族に求めるものなど何も無いと言わんばかりに。
きっと洞窟へ潜る事も、成功したらしたで万々歳。
失敗しても当然位に思っているのだろう。
孤軍奮闘かぁ。規模がデカイし長いだけに色々大変だ。
「コウ殿如何なさいますか?」
「そうだな。恐らくここが宿舎なのは、あっちが監視し易いかどうかで決めたんだろう。人風情に何が出来ると言わんばかりなのは見ての通りだ。アルブラハさんに世話になってなかったら、こんな危険な戦いには参加しない……と言いたいけど、ロキが何をたくらんでいるか解らないから結局は行くしかないね」
「ここに残して行く人員ですが」
「それは止めておこうか。この状況でこっちの味方を残しても、こっちには何の旨味も無い」
そう言った後、女性陣が湧き立つ。
身の危険は取り合えず去ったらしい。
「ではこのまま発たれますか?」
「そうしたいところだけど、少し状況をみたいんだ。あっちがこっちに増員するのか、それとも洞窟へ引くのか」
「敵が地上で決着を望むならここで、引き込みたいなら洞窟へですか」
「そう言う事だ。ナルヴィの言った後者だと俺は睨んでいる。ただ我々としてもこのまま乗り込むのは得策じゃない。そこでナルヴィ、出来れば交渉を頼んでも良いかな」
「最大限の援助ですな」
「出来ればあまり使いたくないけど、ある程度強引に押して構わない。アルブラハさんがこのままなら、我々はくたびれ儲けになる。情報も与えられないまま。最大限生存確率を上げるためにも、出来る事はしておこう。俺達は俺達が生き伸びる為に」
「心得ました。コウ殿の臣として功績を必ずや挙げて見せます」
「あまり気張らないでね。向こうは自分達が優位に立っているから、煽っても意味がないだろうし」
「承知しております。この与えられた機会を存分に生かし、我が身が臣たり得ると言う事をご覧にいれましょう」
うーむ。爽やかな笑顔で言い切っているけど、大丈夫かしら。
俺は苦笑いしながら頷く。
「コウ殿、出来れば私もナルヴィ殿のお手伝いをしたいのですが」
静かだったカグラが名乗りを上げる。
最近女性陣に混じって毒されてきたと思ったけど、
流石一国の姫。顔付きが変わった。
「コウ殿、出来れば私も」
ショウも名乗りを上げる。ナルヴィ一人では手詰まりになる事もあるかもしれない。
とすれば冷静な者が傍にいる事で、より援助を引き出せるだろう。
ナルヴィへのブレーキとしても良い。部下のようなショウに、姫のカグラ。
普通の人間が行くよりも効果が期待できる。
「なら早速お願いしよう。宿の件も含めて。さっきの兵士はどうも信用出来ないんでね」
「心得ました!では早速に」
ナルヴィとショウ、カグラは連れだって部屋を出る。
そして残るザルヲイ。俯いて黙っていた。
「さてっと……。じゃあ皆アルブラハさんの警護ついでにナルヴィ達の交渉が終わるまでここにいてくれ」
「コウ、何処に行くの?」
「何、交渉をより有利に運ぶためには、それなりの物が必要だと思ってさ。俺達に出来る事とと言えばそう多くない」
「ならアタシも行く」
「ダメだよ。あんまり大勢でやっても意味がないんだ。これは俺の仕事。あんまりやりたくないけど、俺が目立たないと交渉にならないし」
アルブラハさんがどう言う宣伝をしていたか解らないが、
それなりに評価してくれての宣伝だったと思う。
ただアルブラハさんが敵によって倒れた事や、
やはり竜という立場から眉唾だろうと考えるのは自然な流れだ。
ならそれを見せる他無い。丁度戦場は目の前にある。
俺は部屋を出ると、足早に建物を出る。そして竜に乗った時に見た
戦場まで移動する。どうも街中にも緊張感があるようには思えない。
戦場が間近に迫っている街では無い。
滅ぶべくして滅ぼうとしているのかもしれない。
盛者必衰の理か。
街を出て進んで行くと、砂煙が見える。
竜人に群がる魔物達。劣勢も良い所である。
英知を授けられたのは竜のみなのか。
指揮系統も混乱している。戦いの方法を模索していない。
何かの間違いだ、負ける筈がない。そんな声が聞こえてきそうだ。
これは助けるべきなのか……。でもまぁ援助を引き出す為にやるか。
俺は相棒達を引き抜いて、戦場の中へと歩を進める。
竜人達にまとわりつく魔物を、なるべく苦しまない様に
次々と斬り伏せて無に帰して行く。
気と魔力を全開にしてスピードを上げて行くと、
最初は誰も見ていなかったが、次第に視線を集めて行く。
魔物達も俺に対して攻撃して来る者達もあったが、
スピードを落とさず捌いて行く。
竜人達の最前線まで行き、寄せてくる魔物に対して
魔法を放ち吹き飛ばす。
竜人達から離れて寄って来た魔物を斬り伏せる。
戦場は竜人と魔物の間に俺が入り、境界線となった。
魔物たちは徐々に撤退を始める。
竜人達は追撃しようとするが、俺が竜人達に相棒達を向ける。
愚かな。今まで追い込まれていた状態で追撃なんてしたら、
全滅の憂き目に遭う。指揮官は居ないのか。
俺は暫くして魔物たちの気配が遠くになると、
相棒達を納めて街へと戻る。




