冒険者、旅立つ
おっさん達を待ち受けていたのは、
少ししか離れていないのに懐かしい人達だった!
「ダンティスさん!リードルシュさん!」
俺は二人の姿を見て駆けだし、
二人の手を取った。
「いやはやまさかこんな事になるなんてな」
「全くだ。いつの間にかこんな大事に
係わる事になっているとは。流石俺が
剣を託した奴だけの事はある」
「成り行きで」
「正体をばらすのがこんなに早いとは、
流石の俺の獣の勘も働かなかったよ」
「俺は武器屋である事に変わりは無いがな。
アグニスと先代の王の剣を鍛えた縁が
あって、平穏の為に情報をくれてやった
だけの事だ」
「でも二人が力を貸してくれるなら
百人力です!」
俺がそう言うと、ダンティスさんと
リードルシュさんは顔を見合わせ笑った。
「そんならその期待に応えさせてもらうさ」
「だな。これで役に立たなければこんな国に
わざわざ来た甲斐もないからな」
「有難う御座います!」
俺は本当に嬉しかった。
意外ではあったが、
これほど嬉しい事は無い。
「コウ、その二人は?」
「コウ殿、宜しければご紹介を」
ビッドとイリア姫も近くに来て
そう俺に言った。
「ご挨拶が遅れました。
私はアイゼンリウトの
元軍人ダンティスと申します。
姫君、そしてドラフトの剛戦士殿、
以後お見知りおきを」
ダンティスさんは敬礼しつつ挨拶した。
肉屋のダンティスさんとはまた違う姿を見て、
人には色々な顔があるんだなと感じた。
「俺はリードルシュだ。姫とは小さい頃に
会った事がある。見知りおかんでも構わない。
俺はコウのお抱え鍛冶屋だからな。
雇い主がくたばると食いっぱぐれるので
助太刀に来たにすぎない」
リードルシュさんはそっけなく挨拶するも、
最後の方は冗談めかして言っていた。
「リードルシュさんそれは?」
姫とビッドがダンティスさんと
リードルシュさん、それぞれと
握手を交わした後、俺はリードルシュさんが
背負っていたリュックに目が行って尋ねた。
「おいおい忘れたのか?お前に前に言った
ものを持って来てやったのだ」
嬉しそうに微笑みながらリュックを下ろし
中のものを出すと、それは黒くツヤのある
鎧だった。
「お前用にあつらえた鎧だ。剣と良く合う」
そう言うと鎧をばらして
俺の体に付けてくれた。
リードルシュさんらしい、無骨ながらも
シンプルで余計な飾りのない
動きやすい鎧だった。
「籠手と肩に胸、腰回りに脛と膝に足の甲を
保護するプレートという構成だ。
軽鎧の部類に入るが、材質は重鎧を凌駕する」
「え!?それはまたエライ値が
張りそうな感じが……」
「当たり前だ。剣と良く合う素材に
粗末なものを使えるか。剣と素材は
少し違うが、ミスリルと隕鉄の混合で
出来ている。値が付けられん」
リードルシュさんは腕を組んだまま
胸を張った。それは困った。
そんな代金を今は支払えない。
「リードルシュ殿。その請求書は私に下さい。
コウ殿の身に付けるものなら是非」
姫は俺とリードルシュさんの間に
割って入ってきた。有り難いけど
後が怖そうだ。
「姫よ、これは俺とコウとの契約だ。
俺はこいつの為だけに心血を注いだのであって、
お前達王族にでは無い。それに代金を払う
と言ってもそれは民の税でだろう?
それを良しとする男ではあるまいこいつは」
「勿論」
俺も胸を張って言った。
こうなったらクエストをガンガン
こなさないとな。
その為にもこの件を早く解決しなくては。
「おい、時間は惜しいんだ。さっさと行こうぜ!」
「いやそれは良いけどビッドさん、
アンタ真っ裸で行く気か?」
「あ」
ダンティスさんのツッコミにビッドは
間抜けた声を出して一同笑いに包まれた。
その後俺達は武器屋に立ち寄り、
ビッドさんに会う軽鎧とハンマーを手に入れ、
道具屋で薬草や毒消しなどの回復剤を手に入れた。
こうして準備が整い、俺達はファニーと会った
洞窟の近辺へと向かうのだった。
準備万端冒険者達は旅立つ。
このアイゼンリウトの根を張る事態の
解決へ向けて。