鍛錬ラスト!
アリスは自身の周りに赤い球が浮遊する。
以前のように血を出して、という事では無い。
アリスは最初に遭った時、魔術を使う場合に出血を伴っていた。
それがない。ノーリスクで強力な魔術を行使出来ると言う事か。
だがそうと決まった訳ではない。
ここは一つ試してみよう。
「神の息吹」
俺は黒刻剣を掲げ魔法を使う。
だがアリスは微動だにしない。どう言う事だ?俺の使う魔法は神聖魔法。
アリス達魔族にとってはキツイ筈だ。防がなければダメージを受ける。
「神と魔は相反するもの。故に互いが互いの弱点になる」
アリスはそう言うと、右手を突き出し
「黒き大地、赤き空に吹く風よ。来たれ、魔神の怒号(バアルゼブブロール!)」
そう瞬時に唱える。黒い色の霧と共に突風が吹き荒れ、更に雷を纏っていた。
俺の魔法が掻き消され、追撃の雷を相棒で掻き消す。
アリスの周りに浮いていた球が幾つか消えている。
なるほどあれは貯蔵していた魔力の結晶なのか。
うちの相棒みたいに常日頃からエネルギーの収集をしていたとは。
流石パーティの参謀を目指すだけあって用意周到だ。
「では次ね。左右2列、前後各1、詰め!魔姫封印!」
今度はオリジナルか。……浮いている球を6つ、一つ一つ指で突いて詰めと言った。
俺は直ぐに飛び退く。元居た場所の足元には六芒星の魔法陣が出ていた。
詠唱と発動までのタイムラグのお陰で救われたのか?
俺は構えを崩さずに見ていたが、消えずに魔法陣はそこにある。
怖すぎるな。
「魔術の槍」
アリスが手をかざし、球はぐにょーんと伸びて槍の様になる。
6つ槍のような物がこちらへ飛んでくる。俺は魔力を相棒に通して砕こうとした。
だが槍が消えない。地面に刺さってる。しかも左右2つずつに前と後ろ1つ。
俺は直ぐに離れつつ魔法陣があった位置を見るが、案の定ない。
「遅いわ!ロック!」
まったく面倒な技を身に付けたな。魔法陣はいつの間にか魔力の槍の
位置に移動している。そして地面から出した赤い雷で、魔力の槍の間を走った。
「のわっ!」
輪を描く最後の一本の所でギリギリ円から逃れた。
振り返れば円はバチバチ音を立てている。コンロの着火前の様に。
あれ普通に中に居たら死んでるだろ。殺す気か!
「あら逃げられた」
俺はアリスの方を見ると、また魔力の槍を放とうとする。
このままじゃジリ貧だ。やるか。ガス欠になりそうで怖いけど。
―了解―
――承知――
俺は直ぐに相棒に気も通し充電する。そして集中しつつフリスビーを投げるように、
アリスの周りを浮いている魔力の槍へ投げつけた。
水風船が割れるようにパシャッパシャッと消えて行く、魔力の槍。
見た所新たに生成されない。制限があるのだろう。
それにさっきの魔法陣が消えていない。
「また変な物を出して!」
アリスが球を引き連れて間合いを詰めてきた。
蝙蝠の羽を背に生やして突進してくる。
俺は相棒達を手に取らず、連続で槍を砕くのに向かわせる。
最初よりもきつくは無いが、それでもそんなに持たない。
アリスが近距離攻撃を仕掛けてきた。
距離が詰まった事で、相棒達は回転を上げる。
アリスの攻撃を最小限の動きでかわす。
―完了―
――完了――
相棒達の声が同時に聞こえる。相棒、もう一つ頼む、あの魔法陣を!
―行けるか?―
頑張るわ。早めに頼むぞ。
相棒はそれを聞くと俺の上を通り過ぎて、魔法陣を探す。
「残念」
アリスは攻撃しながら微笑む。
なるほど。俺の脚を止める為に近距離戦を仕掛けてきたのか。
アリスは霧のように消える。俺の足元が赤く光る。
「ぬぁっ!」
俺は一か八か足元に右手を当てて自分の魔力を注ぎ込む。
相性的には問題無い。だが魔力の違いがどれだけのものか。
容量や質はアリスの方が高い数値を出すだろう。
でも一か八かだ!
「ってあれ?」
地面の赤い光も槍も消えた。アリスの方を見ると、相棒達が刃先を向けて浮いていた。
「勝負アリね」
俺はそれを聞いてほっとした。尻もちをついてへたり込む。
相棒達も戻ってきて、鞘と腰に納まる。取り合えずこれで終了かな。
「あたち達もやるだのよ!」
「…うん!…」
Ohマジかキリがない。だが年少者だからと言って無下には出来ない。
俺は何とか立ち上がり二人に相対す。後少しもつかな。
二人が俺に対して攻撃を仕掛けてこようとしたその時、
空がゴロゴロと音を立てて泣き始めた。
「旦那!」
傍で見ていたザルヲイが駆け寄ってくる。
次の瞬間、雲を抜けて巨大な竜が姿を露わした。
あれは……ブロウド大陸から変える時に乗せてもらった竜だ。
その背中に竜人が一人乗っている。何かあったのか!?
皆俺の近くに駆け寄ってきた。リムンとハクに支えてもらって身構える。
俺達より少し離れた所に竜は降りた。
そして背中に乗っていた竜人が降りてくる。緊張感が走る。
「ザルヲイ兄さーん!」
情けない声を挙げて半泣きで掛けてくる竜人に、俺達はずっこける。
緊張感が大なしである。
「ザヲルト!何でお前が!?」
「兄さん逢いたかった!」
「逢いたかったってお前!出発より一日早いんじゃないのか!?」
「それが大変なんだよ兄さん!アルブラハさんがやられた!」
「何!?……旦那ちょっと失礼します!」
ザルヲイはザヲルトと呼ばれる、よく似た竜人を連れて少し離れる。
「リムンとハク、それにカグラはまた今度だな。至急準備して発たなきゃならなそうだ」
「しょうがないだのよ」
「…うん…」
「…はいー…」
三人はしょんぼりしている。だがダンジョンでその力は存分に見せてもらう。
「私めもお見せしたかったのですが仕方ありませんな」
「俺……じゃなかった。私もです」
ナルヴィとショウも残念そうである。
だが俺の身が持たない。
「ナルヴィ、ショウ。取り合えずダンジョン攻略の為に準備をしよう。食料と水の確保に消耗品と着替えとか野宿に必要な物を」
「はっ!店の目星なども付いております故、早急に整えられるかと」
「はい!直ぐに。俺の袋に入れれば」
ショウはそう言い掛けて、ナルヴィに睨まれてるのに気付いて止めた。
「別に俺でも構わないけど」
「そうは参りません。部下たるもの、弁えねば下々の者に示しが付きません」
「そ、そうです」
俺は苦笑いをしながら二人を見る。
まぁそうだろうけど、この集団なら構わないと思うんだけどなぁ。
そう思いつつも、ナルヴィに任せる事にした。
騎士としての従い方を学ぶのも、ショウにとって良い勉強になるだろう。
「旦那、早速で申し訳ありません。準備をしてゴルド大陸へ」
「解った。皆鍛錬は切り上げだ。準備に掛かるぞ!」
「「おー!」」
俺はかなり疲れてはいたが、事態が急を要する為リムンとハクを担いで走る。




