パーティの戦力を改めて振り返る鍛錬
「マジでやるんすか!?」
「マジもマジだ大マジである!」
恵理と元の場所に戻った時には、既に囲まれていた。
逃げようとしたけど、逃げられなかったのである。
という訳で鍛錬をすることになりました。
体力的にも少し消耗しているのだけど、
そんな事で止まってくれる程皆さん冷静ではないのである。
「そっすか。わかったっす。やるっす」
俺がヘラヘラしていると、ファニーの鉄拳が風圧を纏って
顔の横を通り過ぎる。
「ヘラヘラすんな!」
「……すいません」
こわっ!
ファニーの拳と言えばエルフの里で、
マジパンチを食らったのを思い出す。
そして目の前で真剣に睨まれておる。
怖いよー竜人というか竜マジ怖い。
真面目にやると言っても、ファニー素手だしなぁ。
竜とは言え女性ですし殴るのもあれだし。
何とか引き倒して終わりにしてもらえないかしら。
そんな事を考えていると、また拳が飛んでくる。
「次は当てるぞ」
しょうがないなー。
俺は相棒を仕舞った状態で構える。
師父達に鍛えてもらっているから、武術もそこそこだ。
ほぼ我流のファニーなら相手を出来るだろう。
飛んでくる拳は早い。タイミング的にはのんびり1を数えて居たら、
直撃する。早過ぎるとずれて掴もうとした手が吹っ飛ばされる。
「遅いぞ!」
ファニーは拳と足を使いリズムよく攻めてくる。
このままの状態では吹っ飛ばされる。
気を解放して多少ステータスを上げるしかない。
俺は丹田に集中し気を解放する。
フリッグ様達からさされた目薬のお陰で、動体視力はバッチリだが
体がそれに少し遅れている。
攻撃を避けながらタイミングを修正していく。
「はっ!」
俺はファニーの胴を突く右拳を体をひねりかわし、その腕を脇に挟む。
そして肘の曲がらない方向へ、そのままの勢いで引っ張り倒そうとする。
「ぬぁっ!」
だが流石竜である。そんなものはお構い無しとばかりに、
腕をひねり肘を曲げ、腕を立てて俺を持ちあげようとする。
それを避ける為に腕を離し、直ぐにその腕を首にかける。
「小賢しいわ!」
何と言うか体術で竜を倒すって無理じゃね?と思う。
首にかけた腕を、顎を引かれて固定された。
そしてブリッジの要領で倒れる寸前まで耐え、
今度は飛び上がり俺を引き倒そうとする。
それを耐えた所で足が飛んでくるのは明白である。
ただ倒れれば寝技に持ち込まれる。
力の差が大きすぎて落とされるのも明白。
でもなぁファニーを叩く事自体抵抗あるし。
どうしたもんかなこれは。
と考えている暇は無いので、気を解いて力を抜き、
ファニーの首から手を抜く。
「遅い!」
飛んできた足をかわしたが、ファニーはそのまま立ちあがると
俺にタックルしてきた。かわせませんわこれは。
俺はそのまま朽木倒しのように倒される。
何とか顎を引いて後頭部を強打するのを避けたが、
背中がめちゃくちゃ痛い。
今日は鎧を着てないのでダイレクトにダメージが来る。
「んふ。頂きます」
なんか邪悪な顔をしてるぞこの竜。
目を閉じて顔を近づけてきた!何してんのこれ!
「ちょっ!まっ!おい!」
「どっせーい!」
首を振って逃げようとしたが固定され万事休すかと思いきや、
ファニーが横へ吹っ飛んだ。
「次は私の番ね」
素早く不格好にその場から逃れる俺は、さっきの場所に立つ人物を見る。
流石魔族。竜だろうとお構い無しか。生命体的に魔族と竜は差があるのだろうか。
「おのれアリス!何の真似だ!」
「これは鍛錬でしょ鍛錬!交代よ交代!」
「ふざけるな!我はまだ負けも勝ちも決めておらぬ!」
「鍛錬じゃ無い事をしようとした罰ですー!」
「何を!?」
おぉ始まった。我がパーティの十八番魔族対竜。
生命体的には頂上対決の感すらある。
これはチャンスだ逃げよう。
俺はそう決めて逃げようとするも
「じゃ今度僕ね!」
回り込まれていた!
今度はロリーナが墜天剣ロリーナを構えて立っていた。
ロリーナの剣の実力はどれ位なのか。
ダンジョンマスター候補としてパーティの面子では考えていたので、
実力がどれ位なのか知る機会が無かった。
これは良い機会だ。最初の頃に助太刀したアイゼンリウトの元第一王女にして、
アリスの姉でもあり、墜天使と魔族の混血。魔力も備わっているだろう。
「生憎と恵理みたいに結界は張れないけど、僕の方が鍛錬になるよ?」
そうロリーナが言うと、恵理とは違う赤い気を墜天剣ロリーナに纏わせ、
俺に斬りかかってきた。
我流では無い綺麗な太刀筋だ。とても鮮麗されている。
それ故に連動性が高く隙がない。これ程の剣士とは。
ロリーナをここまで育てた育てのお母さん!苦労したろうなぁきっと。
「今また失礼な事を考えたね!?」
ついつい涙もろくなった所に一閃。前髪が少し落ちた!
「あっぶね!」
「真面目にやってよね!」
うぬ。そう言われると面目ない感じである。
俺はロリーナの剣をかわして距離を取ると、相棒達を引き抜く。
交差させてロリーナの剣を受けとめる。
これはヤバイ。恵理の鎌とは違う。
ロリーナの生みの親から生成された剣だけあって、
ロリーナと相性は抜群である。剣人一体となった技は、
恵理の攻撃よりも重さも威力も倍くらい違う。
急いで魔力を注ぐも吹き飛ばされた。
魔力だけじゃない。天使の力、神性も備えているのか。
パーティの4番打者に成れる存在じゃねこれ!
俺は急いで魔力を増大させるとともに、気を解放。
相棒達も周囲の粒子を集め始める。
「おいおい。真打ち登場には早いんじゃないのか?」
「そうでもないよ!僕の実力を示しておかないとね!この前みたいに問答無用で置いて行かれたら堪らない!いくよ!」
マジか。何か背中に小さな羽みたいのが見えたが、今は消えている。
そしてそれを推進力として風を纏い突進してきた。
何とか受けとめはしたが、大分後ろまで押された。
これはマジでやらないと一方的にやられるまであるぞ。
「良いね良いね!そうこなくっちゃ!僕が一番相応しいと言う事を思い知らせてあげるよ!」
ふふんと言った感じで笑うロリーナ。
ビックリなんてもんじゃない。ここにもチートが居る!
元々の軽さに魔力や神性等が加わり攻撃力を増している。
隙がない攻撃だ。……だが!
「でやっ!」
ロリーナは一本。俺は二本。
この違いは大きい。徐々に互いの回転力は上がるが、俺の方が早くなる。
攻め合っていたものが、ロリーナの防戦一方になった。
「はぁっ!」
ロリーナがガードした一瞬を突いて、一気に相棒達を叩きこむ。
ロリーナは吹き飛ばされ、膝をついた。
「ロリーナ凄いな!ビックリしたよ!これならダンジョンマスターとしてだけじゃ無く、前線に一緒に立ってもらいたい位だ!」
「ホントに!?」
「ああ本当だ。それ位戦力になるよ。驚いた!」
「なら僕が第一って事で良いのかな!?」
何やら良く分からん事を言っておる。
相応しいとか第一とか何の話であるか。
俺が首をかしげていると、
「ではコウ様。次は私とお願い出来ますか?」
今度はウーナが背後に居て抱きついて来た。
おっさん鎧着てないのでちょっと困る。
などと思っていると天地がひっくりかえる。
どうやらまだ鍛錬は終わらないようだ。




