おっさん、解りにくい悪を見つける
おっさん達の前に現れた宰相。
その薄気味の悪さと悪人面は何を語るのか!?
「まてビッド」
俺は身構えたビッドの
腕を掴み制止する。
「宰相閣下は何かお話があるようだ」
そう言って俺はビッドの後ろから
宰相に向かって顔を見せた。
すると薄気味悪い笑みをするのかと
思いきや豪快な笑い声を上げた。
「いやなるほど、どうやら多少の知恵は
あるようだな若いの」
「知恵と言うか、貴方が本気になれば俺を
抹殺する位造作も無いでしょう。
何せ音も立てずに女性の部屋に
入れるんですからな」
「ふふふ。お主の期待に答えて薄気味の
悪い役柄で来ても良かったのだが、
それでは芸が無さ過ぎるであろう」
「なるほど、宰相ともなるとそれなりの芸が
必要になる訳ですね」
「そう、仮面は幾つあっても困らぬ。
ところでわしも席についても構わんかね?」
「どうぞ」
俺は姫の同意を得ずに、宰相に席を
譲る為立ちあがる。
しかし宰相は俺の左側の席につき、
丸いテーブルを囲んだ。
「腹の探り合いも時には楽しめるが、
今回はそのようなやりとりは省こう。
今日ここに至って改革を成すというのは、
長年染み付いた垢を取るよりも難しい。
それはお主たちも承知の上での談判であった
事と思う。そしてこれも解っている事だろう
が、魔物の群れが村々を襲うべく活動を
活発化させている」
「やはりそうでしたか。今一歩遅かった
ようですね」
「そんな事は無い。姫は気分を害される
かもしれんがハッキリ言っておく。
姫以外に王族で人望と才覚に溢れる
人物は居ない」
「でしょうね。居るのであれば王は
退いている事でしょう」
「そう言う事だな。王はただ跡目を
継いだのみで、国の事に関心は無い。
唯一あるとすれば、それは先祖が封じた
竜に生贄をささげる事のみだ」
「……無教養なお坊ちゃまがそのまま
玉座についたと」
「残念ながらな。しかし無能な働き者で
あるよりはマシとも言える。何より先代が
優秀過ぎたのだ。わしも先代の王と共に
戦場を駆け従ったが、あの方を見れば
跡目を継ぐのを誰も嫌がるだろう」
「確かにお爺様は優秀でありました。
しかし慣習を変えようとは
なさらなかったのは何故です?」
姫はそれまで黙って聞いていたが、
突然口を開いた。
「うむ。根が深い問題ではある。実を
言えば先代の王とわしは竜を退治
しようとした」
「え!?あれと戦ったんですか!?」
「流石お爺様だ」
「まぁ生贄にされたお主なら解る通り、
退治には至らなかった。その際に竜が
暴れた事で山が揺れてがけ崩れが起き、
村に被害が多数出た」
「……それを神の怒りに触れたと
思いこんだ……」
「そうだ。先代王もこの慣習を良し
とはしておられなかった。
後で解った事だが、先祖である魔術師は
かなり厳重な封印を施しており、
それを濫りに解こうとすれば、
何かしら起こる仕掛けを残していたのだ」
「先代王の死因は?」
「……不明だ」
「宰相閣下の魔術師としてのお考えは?」
俺は宰相としてでなく、魔術の力も
あるというその点で見ての死因を尋ねてみる。
封印に仕掛けられたもの、それが気になる。
「お主はどう思う?」
「呪いでしょうね、恐らく。それも民の
恐怖と恨みなどが合わさって
発動される類の」
「……凄いな姫の連れてきた者は。
わしの見解も同じだ。先代の死と共に
わしの顔色も悪くなり、先代と共に戦場を
駆けたころの力も消え、鍛えても鍛えても
衰えが止まらなかった」
「今は何故か止まっている、と」
「そう政務が取れる位には、な」
俺と宰相が見つめ合い、
お互いに考えていた事の
一致を見たが口には出さなかった。
「コウ、お主が連れて居た竜は人を喰わん。
それを逃がしていたのも知っている。
しかしその生贄とされた人々は生きていない」
「あれ、何で俺の名前を?」
いきなり宰相が俺の名を口に
したのに驚いた。ここに捕らえられた時も、
今も名乗っては居ない。
なのにどうして……。
「さてな。姫、事は大分複雑です。先ずは
竜が居た近辺を魔物討伐と共に調べるのが
良いと思います。そこに何かが
あるかもしれない」
「何故宰相閣下が」
「解りました。早速向かいましょう」
俺は姫の問いを妨げ素早く席を立つ。
何が起きているのか調べる為に。
解り易い解決方法があるかと思ったが、
そう甘くは無いらしい。
「うむ。心遣い感謝する。表に案内の者を
寄越してある。大軍は動かせんが、
それに匹敵する腕前の二人組だ」
俺はそれを聞いて、誰だろうと考える。
「ありがとうございます。では早速」
「よっしゃ!小難しい話は解らんが
冒険なら俺に任せろ!」
ずっと押し黙っていたビッドの
声を久々に聞いた。
確かにこの所小難しい話が多かったからな。
冒険となれば元気になるだろう。
「コウ殿」
俺はビッドのうきうきした姿を見て
微笑み席を立つと、姫が俺の前に来て
改まって片膝をつき、右腕を左胸にあてて
頭を下げた。
「ちょっ、姫!」
「どうか貴方様のお力をお貸しください」
「解ったって。俺は俺に関知して
くれないならそれでいいんだから、
さっさと解決しちゃおう」
「有り難き幸せ。貴殿の心の広さの前には
我が心の何と狭き事」
……時代劇が始まったのかこれは。
俺はむず痒くなったので姫を立たせて
ビッドと共に3人で城を出た。
これは宰相の計らいだ。
お供の中に何かが居るかもしれないという判断だ。
俺もそれに同意し、素早く城を出た。
追走されるかもしれないが、今回も兵は
拙速を尊び、善は急げだ。
「おっと旦那方、そんな急いで何処へ
行くのかな? 肉を仕入れるなら
ウチにしておきなよ!安くしとくぜ?」
「何を言ってるんだ全く。しかしそんな軽装で
物事にあたるとは、軽率だなコウ」
俺とビッド、そして姫が門を出て
城下を通り過ぎようとした時、
そんなに離れていないのに
とても懐かしい声が耳に届いた。
真相を掴む為に、旅立つおっさん二人と
姫の前に現れたのは最強の援軍だった!?