引きこもり、暴れる
引きこもりに襲い掛かる
異世界の怪人達!
引きこもりは生き抜く事が
出来るのか!?
一人怪人を倒した所で次の怪人が
駆け寄ってくる。振り下ろされた斧を
何とかかわしたところで、物陰から見ていた
この町の住人が目に入った。
その人達は俺が怪人に襲われたのを
確認してからあさっての方向へ逃げ出した。
それを見てふと両親を思い出す。
こんな腐った引きこもりを
よく生かしてくれたものだと。
いやもしかするともう死んでいて、
それで異世界に来たのかもしれない。
死んだ世界も楽園じゃなかった、
なんて笑えてくる。
怪人の横っ面を思いっきり殴り飛ばした後、
その手に持っていた斧を取ろうとして止めた。
本当はあった方が助かる確率は
高いのだろうけど、
殺めることに抵抗があった。
そんな感情が出た事にも笑えてきた。
相手は自分の命を奪おうとして来ているのに。
何と言う偽善。
殴っても殺めているかもしれないのにだ。
「あはははは」
俺は笑いながら背後に気配を感じ振り向くと、
怪人は俺に驚き静止した。
その隙を逃さず殴りつける。
後何回これを繰り返せば
この騒ぎは終わるのだろうか。
ただ村を襲撃するだけに数は多いだろう。
一人で戦い続けるには知恵が要る。
引きこもりだった所為で息が粗くなってきた。
体力が無さ過ぎるにも程がある。
それにも笑えた。
こんなに笑っているのはいつ以来だろう。
小さい頃に希望していた
プレゼントを貰った以来だ。
あの時は嬉しかった。
これもプレゼントだとしたら
喜ぶべきなのか。
生まれ変われるチャンスを
与えられたのだとしたら、
それは望んでいた事なのかもしれない。
だから来たのかもしれない、
異世界に。
「テメェ、ヨクモオレノブカヲ」
振り返るとそこには先程までの怪人より
3倍くらい大きな怪人が居た。
緑色の裸に交差させたベルトを付け、
大きな斧を持っていた。
それには血がべっとりと付いており、
殺戮の気配を感じさせる。
仲間意識はあるのか。
この世界の生態系は人間よりも強い物があると感じ、
新しい事実を発見した喜びを感じもした。
「だからなんだデカイの……やれるもんなら
やってみろ。引きこもりに怖いものなんて
人間以外ない!」
とても威張れる様な事ではないが、
啖呵を切って堂々として向かい合う。
その言葉に不可解だという表情を
浮かべた恐らく怪人達のボスは、
首を傾げた後襲いかかってきた。
俺は予想以上に素早かった斧の振り下ろしを、
無様に転げながらかわした。
地面に突き立てられた斧を引きぬくのに
手間取っている怪人のボスの膝に
思い切り拳をぶち込んだ。
「ヒィ」
情けない悲鳴を挙げて倒れる怪人のボス。
その隙を見逃さず、
俺は急所があるであろう場所をけり上げる。
断末魔と共に泡を口から吹いて
白目をむく怪人のボス。
巧い事行って良かった。
体力はそれほど消費していないのを確認し、
雄叫びを挙げる。
すると遠くから怪人達がこちらを注目し、
ボスが倒れているのを見ると、
一目散に逃げ出した。
引きこもりが怪人を退治したという、
前の世界なら有り得ない結末を迎えたのだった。
引きこもりはついに怪人を
撃退して見せた。
しかし
「怖いのは人間だ」
と言ったことは、
この後に待ちうける運命を
予言しているように思えた。