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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
ダンジョン攻略準備編

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飛び立つ鳥

「よう、口が聞けるようになったんなら喋ってくれ。一人で喋ってると馬鹿みたいじゃないか」

 俺は恵理に問い掛け続ける。

 何処かに隠れてやり過ごせるならそうするが、

 明らかに俺の首を狙っている。

 困ったなぁ。

 一撃一撃の重さが魔法か魔術と解った以上、

 受け方も変える。

 なるべく避ける。

 これが魔法剣に対する対処法だ。

 接触しなければ良い。

「恵理ちゃーん。聞こえてる?」

「だ……ま、れ!」

「嫌だね。何を苦しんでるのか知らんが、お前らしくもない」

「お、お前に……な、にが解る」

「今までの付き合いで解る範囲だけな。恵理はさー、意地悪いけどその分直接的って所しか知らない。そう言う意味では今の恵理は恵理っぽくないな、と。引きこもりか何かなら解るが、恵理は違うだろ?」

「お前などに……!」

「何だ。お前などにの後は。言ってみろ何時ものように。聞いてやる。聞いてやるだけだけどな何時も通り」

 俺は微笑む。

 恵理は涙を流しながら、

 苦しむ顔をして斬りかかってくる。

「何がそんなに苦しい。何がそんなに悲しい。何がそんなに恨めしい。お前がお前を苦しめた所で、お前が傷付けた人も、お前を傷付けた人も何にもならない。ただの自己満足、自己憐憫、自己陶酔だ」

「うぉああああああ!」

「来い。何度でも。前までの俺なら持たんかったが、今の俺なら付き合える。師父達に鍛え上げられた俺と言う人間が相手をさせてもらおう」

「大量殺人者の癖に!」

「だから何だ。俺はそれを肯定も否定もしない。今この足で立っているのは、犠牲の上、屍の上だ。それを正当化するつもりは無い。かといって開き直りもしない。事実は事実として受けとめて先を見る」

「お前こそ自己満足だ!」

「そうだ。だが恵理よ。生きてるってのはそう言うもんじゃないのか?誰かにとって何かをした所で、それが相手に伝わらなければ全てが自己満足だ。善行の全てが。そしてそれは受け取る相手次第。俺は神様じゃないから、相手を変えられない。だから俺は俺の進むべき道を進む。……この世界に来るまでそんな事にも気付けなかった」

「偉そうに!」

「偉そうか……。そうかもな。そうならざるを得ない。俺は俺の進むべき道を進む為に、皆と一緒に行く。その為には偉そうにならなきゃな。このパーティという家族の中で、家長として皆の前を歩く。俺はそう決めた。もうそこに迷いは無い」

「お前も……」

「ん?」

「お前も何れ私を捨てる!!」

「捨てないが」

「何故そんな事を言いきれる!」

「お前を捨てたら俺じゃ無くなるからだ」

「綺麗事を!」

「綺麗事じゃない。俺がこうなったのも、元はと言えばお前達が居てくれたからだ。そうでなきゃ物乞いでもしていた」

「何だと!?」

「お前と初めて会った時、俺はキモイおっさんだった。あの頃はこの世界に来てどう生きて行くかなんて考えても居なかった。ある程度片付けたら、旅をしようと思っていたし。根なし草で。リムンも親に返して一安心したのもあったから」

「私と何の関係がある!」

「関係あるよ。ファニー以外は帰る場所があったんだ。でもそこに恵理が加わった事で、根なし草をやる訳にはいかなくなった」

「私の所為か!」

「そうだお前の所為だ。俺はお前達を護りたくなった。何も無い俺、無気力な俺がだ。目立つ事が嫌いな俺が、王に……王になると決めたのはお前達が居たからだ!」

 俺は力を入れて恵理を吹き飛ばす。

 恵理は直ぐに間合いを詰め、

 鍔迫り合いを始める。

「恵理、お前の言う通り俺は大量殺人者だ。ブロウド大陸を救う為とは言え、自分の思いを遂げる為に力の弱い者達を犠牲にした。そこにどんな言い訳も慰めも悲哀も必要無い。そこから俺は逃げない。逃げた所で何も変わらない。……恵理。お前が抱えているものが何なのか俺は知らん。だが俺に話してみろ。お前が抱えている物を少しは持てるかもしれない」

「私は……私は……」

「恵理。俺にはお前が必要だ。じゃなきゃこんな所まで来ない。ロキの野郎の誘いになんて乗らない。お前が困ってると言われたら喜んでではないが来るさ」

「何故必要だ」

「ここから先、危険はより濃くなる。一人も欠けることなく行くには、恵理の力が必要だ。俺と同じ異世界人てだけでも俺としてはホッとするしな」

「なら、何故私を置いて行った!」

「答えは単純で情けない話、あの時の俺が弱いかったからさ。俺が死ぬのは構わないが、お前達を死なせる訳にはいかない。ファニーはいざとなれば竜に、アリスは魔族。最悪俺が頼めば逃げられるから連れて行っただけだ」

 その答えに泣きながら怒る恵理。

 なるほど。

 次回からなるべく連れて行こう。

 置いて行かれた事に対して憤慨してる。

 理屈じゃないようだ。

「恵理。お前が何に囚われているか俺は知らん。だがな。お前が罪の意識を感じて荒れて、この世界で無差別に殺して何の意味があった?お前が如何に生きた所で、お前が苦しめた人達、お前を苦しめた人達には何一つ伝わっていない。これもお前の自己満足なんだ。解るか?」

「あああああ!」

「泣け、叫べ!俺にその思いをぶつけて来い!受けとめてやる。だからその場所から飛び立て!お前の償いも未来も、飛び立ったその先にしか無い!」


 俺は恵理をはじき飛ばすと、

 視界をずらす。

 そして頭に力を入れて、

 強引に視界のズレを戻した。

 俺の相棒達が帯電する。

 どこまで固定できるか解らないが、

 恵理の全力を受けとめる為にはこれしかない。

 素のまま受けていたら腕を持っていかれる。

 俺も全てを掛ける。

 その意思を示すんだ。

「うああああっ!」

 恵理の鎌は青白い光を放つ。

 俺は相棒でそれを弾く。

 帯電させても魔力を相殺出来ない。

 俺は魔力の貯蔵量は底なしらしいが、

 質で言ったら恵理の方が上。

 それを受けながら感じる。

 だが我慢比べだ。

 俺が折れる訳にはいかない。

 意地でも恵理より先にバテる訳にはいかないんだ!

「でぇぃやぁああ!」

 受けるだけでなく攻勢にも出る。

 相棒2振りの連撃を恵理は鎌の刃と柄を使い、

 巧く凌いだ。

 後ずさりながらも、踏ん張っている。

 強くなった。

 初めて会った時とは別人な位。

 恵理は解っている筈だ。

 自分の背中に誰かが居る事で、

 強くなった事を。

 子供達だけじゃ無く、仲間が居る。

 そう思ったからこそ、

 ロキを仲間に近付けない為に一人で行ったのだろう。

 刺し違える覚悟で。

 ならば俺も全力で答える。

「うぉおおおお!」

 俺は気を更に解放し、全てを絞り出すように念じる。

 相棒達もそれに答え光を放つ。

 今の俺はクロウディス王と戦った時より強い。

 この強さが安定すれば、クロウディス王が本気でも、

 前よりマシになる。

「あああああ!」

 恵理の涙は止まっていた。

 そして俺にというより自分自身に挑むように、

 飛びかかってくる。

 もう少しだ。

 もう少しで飛び立てる。

「勝負!」

 俺は恵理との間合いを詰めて、

 全力で相棒を振るう。

 2振りの剣を凌ぐのは辛いだろう。

 実際俺も4本の剣を凌ぐのに苦労した。

 一つでも多ければそれは速度が段違いになる。

 でも手は抜かない。

 手数を増やす為に最短のルートで斬りつけ、

 リズムの隙間がないように畳み掛ける。

「たぁああああ!」

 恵理が斬り付けた鎌を弾く。

 次の瞬間空いた恵理の手から、

 炎の球が飛び出て来た。

 そしてそれをはじいた後、

 鎌が俺の頭に向かって振り下ろされる。

 恵理の手は無いのに。

 魔力で動かしているのか!?

 体をひねり、寸での所で避ける。

 左頬が熱い。

 すっぱりやられたか。

 俺は避けて逸らした体を戻しつつ、

 恵理の懐に飛び込む。

「見事だ恵理。初めて体に傷が付いたよ。お前は強い!」

 そう告げて俺は相棒2振りを、

 恵理の鎧目掛けて斬りつける。

 恵理の体に傷がつかない様に。

 鎧は粉々に砕かれた。

 相棒を仕舞った後、

 素早くロキからふんだくった布を巻き、

 ゆっくりと地面に座らせる。

「お見事」

 背後から声が掛かる。

「楽しんで頂けたかな?」

「勿論。君は強くなったよ。出来れば早く習得すると良い。更に先に進むにはね」

「更に先?」

「そうだよ。ヒントはあったじゃないか。君が魔法を使えるのは、そう言う理由があるからだよ。魔法は火を起こし水を大気から拾い集め、空気を連動させ風を起こし、振動を利用して大地を動かすだけじゃない。無尽蔵にある魔力を君らしく使う方法をちゃんと出来ると良いね」

「……何だ?ロキが親切だが」

「僕は前から親切だよ」

「ラグナロクが起きたその隙間に新たな世界、可能性を模索するつもりか?」

「どうかな。君の進む道次第とも言える」

「俺一人の歩みが世界に影響を与えるのか?」

「そういう事で君が呼ばれたんだと僕は思っているよ」

「そうか。まぁその時によるな。てかもういい加減元の世界に帰せ。俺は忙しい」

「解った帰すよ。そう言えばその傷はそのままで良いの?」

 ロキに言われてまだ血が流れる頬を擦る。

 そして気持ちよさそうに寝ている恵理の顔を見た。

「良いよこのままで。女の子ならまだしも、男の傷は勲章」

「女に付けられた傷なのに?」

「ああこれも絆の一つ」

 俺はロキに笑って見せる。

 ロキは苦笑いして空を薙ぐ。

 恵理を抱えながら壊れゆく世界を見る。

 現れたのは綺麗な月と夜空だった。

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