適性
何と言うか。
折角ショウに追いついて、
フォローしようと思った所へ
「やあ久しぶり」
渦中の人物が飛び出して来た。
何も無い所から。
「逢いたくないんだが。今忙しいんだが」
「こんなコソコソ人の後をつける仕事はナルヴィに任せて、僕と一緒に良い所に行こうよ」
「お前コイツの責任者だろ。コイツ後をつけるだけなら出来るだろうが、それ以外の事出来ないじゃねーか」
「そうかな。コウが居なくなればやるしかないんだから出来るよ。余計なプレッシャーも無い訳だし」
「俺の存在がプレッシャーとは初めて聞くな」
「今後は気を付けたが良いよ」
なるほどなぁ。
確かに名前だけが上へ上へと上がってるから、
人によってはプレッシャーがかかるのか。
ショウもそうかもしれないな。
「一理ある。ならナルヴィに任せるよ」
「お任せを。必ずやご期待に答えて見せます」
「……ショウを排除しようとかするなよ?」
「心得ております。それが叶わないとなれば、使えるようにするほかありますまい」
「それはそれで怖いんだけど」
「さぁコウ。問題が解決したなら僕とお出かけしようか」
俺は眉間に皺を寄せてロキの顔を見る。
コイツどうせ碌な事考えてないんだろうな。
恵理が手に余るからとかそんな理由しか思いつかない。
「お前匙投げた訳じゃないだろうな」
「勿論!やっぱここは主人公の役目かなと思ってさ」
身も蓋もない。
だけどここで拒否しててもしょうがない。
恵理はどの道連れ戻すし、
リューの結界も破れた訳だから、
万が一閉じ込められても打開できるだろう。
「解った。さっさと案内しろ」
「物解りがよくて助かるよ」
「人質を取っておいてよく言う」
「恵理が聞いたら喜ぶね。人質なんて言ってもらえて」
「どうでもいいからさっさと案内しろ。俺も忙しい」
「そんなに簡単に終わらないと思うけど」
「だからさっさと案内しろって言ってんだよ。お前がらみであっさり終わる筈がない」
「御名答。では行きましょうか英雄殿」
ホントコイツらは俺を煽る為に
生きてるとしか思えない。
俺はロキに手を引かれ、
突然現れた黒い闇の中に入って行く。
息とか止めた方が良いのかな、
などと思っている暇もなく辿り着く。
そこは黒い雲に覆われ、
黒い大地に所々赤土が見える
荒廃した世界だった。
これは別の大陸ではない。
何か作られた感じのする世界だ。
リューと同じ結界内の可能性がある。
目の前にゴツゴツしたフルフェイス甲冑が、
大きな鎌を持って突っ伏していた。
「おい……何だあれは」
「見ての通り」
「見ての通りであんなに苦しむとか呪いの鎧か?」
「ある種呪いの鎧かもね」
「あれの解除方法は?」
「恵理が自分の中にあるものと見つめ合えたら脱げるんじゃない?」
「……雑過ぎるだろ」
「僕の場合別に脱着は何か意識しなくても出来たからなぁ」
「はいはい。で、あれは砕いたらダメとかあるのか?」
「それも砕かれた事ないから解らないや」
俺は頭痛しかしない。
まぁ元々敵な訳だし?
そんな親切設計な間柄では無い事は承知している。
取り合えず脱げる事は確認したし。
「ロキ、何か布を持ってないか?」
「布?」
「必要だろ。どう考えた所であれ脱げたら一糸纏わぬ姿なんだろ?バレてる」
「……君は浪漫の無い男だね」
「浪漫は日々満喫している」
「脱げた時のお楽しみってのはダメかな」
「ダメだろ。お楽しみどころか俺はあの世に旅立つ事になる」
「それは無いでしょ。喜ぶよきっと」
「良いから布出せ布」
俺は恵理の攻撃を受けつつ、
ここまでの経緯を振り返りった。
振りかえった所で具体的な解決策が
思いつかない。
恵理が自分自身と向き合うなら、
気が済むまで攻撃を受けていれば良いかな。
だが人は自分と向き合い続けて、
前を向いて行ける人間と、
後ろを向いて悪くなる人間のどちらかだ。
この場合恵理は間違いなく後者だろう。
なので問いかけてみる。
がフルフェイスで表情も見えなきゃ
喋れもしないようだ。
倒す事自体は大変じゃない。
だがこれはそういうものではないだろう。
となると兜だけ割る方法を考えないと。
相棒、何とかならないか?
―解析中―
――我は難しい――
難しいか……となると、
あれは魔法で作られた鎧。
しかも黒刻剣よりも高位の
魔法物質で作られている。
となると相棒、魔法成分を中和して、
ただの兜にすることはできないか?
――剣身の腹で叩いてくれれば試す事は可能――
ならそれで行こう。
黒隕剣はその中和が完了した時に、
兜のみ割るのを協力してくれ。
―解析完了。協力了解―
さて行きますか。
「恵理、悪いが俺はお前と話をしたいんだ。だから少し痛いかもしれないが我慢してくれよ」
恵理は構わず大鎌を振るい続ける。
シャープにはなっているが、
武器の特性上どうしても隙が大きい。
それに師父の元で学んだ俺としては、
鎌の柄や長さを使った攻撃位では怯まない。
寧ろ間隔は研ぎ澄まされる。
「行くぞ相棒!」
――了解――
俺は鎌の返しを見定め、
黒刻剣の剣身の腹で、
恵理の兜を強打する。
インパクトの瞬間黒刻剣は光を放つ。
鎧の黒さが兜とそれ以外で変わった。
俺はそれを見逃さず、
黒隕剣で峰打ちするように兜を叩く。
バカッという音と共に現れた顔。
恵理の顔だが酷い顔をしている。
涙でぐちゃぐちゃ。
出会った頃の様な顔をしていた。
「よう久しぶり」
俺は呑気に声を掛けるが、
そんなものお構いなしに攻撃を仕掛けてくる。
「どうした口も利けないのか?怒ってるのか?」
俺は煽る。
その攻撃は大雑把になるが、
一撃一撃重い。
滑らせて受け流すが、
衝撃が手に残る。
この気を解放し、
ステータス的には跳ねあがっている。
だがそれがあってもダメージを与えられる。
この鎧思った以上に厄介だ。
そして恵理の攻撃を受け続けていると、
ある事に気付く。
道理で手にダメージが残る訳だ。
魔力を帯びている。
薄らと魔力が通っている。
恵理はそれに気付いていない。
だが思う事で魔法か魔術を行使している。
という事はこの鎧……。
「恵理ちゃーん起きてますか?喋れますか?聞いてますか?」
「うぁあああああ!」
剣撃が結界内に響き渡る。
どうも恵理は武器を振るって何かをするというのは、
向いていないのかもしれない。
それよりも困った。
俺がイマイチ習得できていない魔法剣。
それを恵理がバンバン繰り出している。
魔法を物質に通すのには魔力も必要だが、
その技術も必要だ。
定着させる。
これが簡単に見えて難しい。
気を通すのとは別のチャンネルになっている。
それが頭痛と視界のブレの原因だ。
それを難なくこなしているのは、
適性が高いからだろう。
恵理は魔法についてうちのパーティで
一番優れているのかもしれない。
その恵理が縛られている。
それを解除する方法は何なのか。
立ち合いながら解決策を探る。




