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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
ダンジョン攻略準備編

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 頭の中を私を非難する声が木霊する。

 実はこの世界に来て、

 あの男に会ってから忘れていた。

 この世界に来る前の出来事を。

 記憶が鮮明になってきた頃、

 父は母と私を捨てて家を出た。

 記憶の中の父は何処かのおっさんと似ている。

 気だるそうな感じだが、笑うと柔らかな

 太陽の匂いがする人だった。

 母曰く馬鹿正直で、

 人によく騙されていたそうだ。

 離婚原因もそれ。

 自己破産せず、借りたものを返すべきという

 出来もしないご立派な理想を掲げ、

 私と母を他人の借金返済の為置き去りにした。

 貧乏暮らしでも何時か父は帰って来てくれる。

 幼い私は信じていた。

 小学校では母子家庭を弄られ、

 それでも父は帰ってくると言い続けたある日。

 私は信じていたものに裏切られる。

 父が見た事もないアクセサリーや派手な服を着て、

 若い女性を連れて歩いていたのだ。

 私は最初信じられなかった。

 きっと見間違いに違いない。

 呆然としたまま後をつけ、

 辿り着いたマンションのポストの表札を見て

 気を失った。

 目を開けた時家に帰っていた。

 母から聞いた話では父から呼びつけられ、

 迎えに来てくれたと言う事だった。

 私と母は泣き続けた。

 私は男を信じなくなる。

 それが誰であろうと老若男女問わず。

 私は過ごして行くなかで、

 男を手玉に取る方法を身に付ける。

 私の境遇を語る事で同情的になり、

 頼みもしないものをくれるようになる。

 大人にも受けは良かった。

 この時から私の周りには女子が居なくなる。

 媚を売る女として阻害されたのだ。

 望む所。

 どうせ全ては見せかけだ。

 誰も良い人の顔をして中身を開ければ、

 全て同じ卑しい人間。

 その化けの皮を剥いでやる。

 こうして私の周りには、

 私の言う事を聞いてくれる、

 忠実な人間しか居なくなる。

 そして中学に進学すると、

 小学校から一緒だったという男に声を掛けられる。

 ああしては行けないこうしてはいけない、

 皆に好かれろと私に命令してきた。

 他人に正義感を押し付けるウザい奴だった。

 何も知らない癖に。

 お前も男なら父と同じだろう。

 どうせ歳をとり家族を持てば、

 飽きて他の女を探すゲスな生き物の癖に。

 私はその男の綺麗事を試す事にした。

 私の厄介事をその男に全て任せたのだ。

 私が何をしてもその男の所為。

 それを男はそうだと言い続けた。

 当然のように男は孤立していく。

 その遊びに同調したクラスメイト達も、

 面白がって悪戯をし始めた。

 それでも男は止めなかった。

 私はその男に父の面影を見た。

 心を許しても良いかと思い始めた時、

 登校してこない日があった。

 暫くして教師から転校したと聞く。

 私がその理由を執拗に尋ねると、

 孤立した結果虐めを受け、

 部活の先輩の暴力を受けた。

 その結果指が一つ動かなくなったと言う。

 夢だったプロ野球選手を諦めざるを得なくなり、

 生きる気力を無くして自殺未遂を図ったそうだ。

 結局口だけだったのだ。

 高校にあがると、私の周りには誰も居なくなった。

 母が再婚したのもこの時である。

 私は再婚相手に興味は無かった。

 だが悪い人では無かった。

 私に偉そうな事は言わない。

 普通に接してくれていた。

 ゆっくりとした日々が過ぎる中で、

 母は身ごもった。

 私に兄弟が出来る。

 やがてお腹が大きくなると、

 性別が解る。

 妹。

 私に妹が出来る。

 今まで生きてきた中で、

 言いようのない幸福感が溢れた。

 妹が生まれて来たら、

 私のようにならない様に、

 全力で護る。

 恨まれるなら私だけで良い。

 妹にしてやれる事は何でもしよう。

 今からでも遅くない、

 良い姉になろう。

 誇れるような姉に。

 私は全てをやり直す為に、

 高校を止めてアルバイトをしながら、

 夜間高校に通う。

 妹の為にお金がかかる。

 自分の為に掛かるお金は最小限にしたい。

 今さら学歴なんてどうでも良かった。

 この時の私はどうかしていた。

 妹を護る為に片付けなければならない者が居たのに、

 浮かれてそれを怠った。

 天罰などでは無い。

 失策だったのだ。

 完膚なきまでに痛めつけて、

 息の根を止めるべきだった。

「ふふふ……」


 私は笑みがこぼれる。

 そう。

 その甘さが妹を殺したのだ。

 足りない。

 もっと必要なのだ。

 私の妹を殺したあの男に、

 地獄を見せる為にはロキの言うように、

 もっと多くの犠牲が必要なのだ。

 代替えでは意味がないのに。

「おいおい。偉く邪悪な笑い方をするな恵理」

 私はその言葉を最後まで聞かない。

 この男は父やあの男と同じだ。

 自分で示しておきながら裏切り私を苦しめる。

 私に暴力を振るい屈服させた。

 憎い。

 悪い。

 ニクイ。

 にくい。

「なるほど。あの野郎なんて強化しやがる」

 私の鎌を捌きつつまるで動じていない。

 私はお前を裏切っているのに。

 良い人の振りをして欺いているのに。

 何が可笑しい?

 何を笑う?

 お前は何のつもりで私を傍に置く。

 私の体が目的なのか。

 薄汚い男め。

「しかし鎌の回転速度は遅いな。俺の相棒達でも悠々捌ける」

 御望み通り回転速度を挙げる。

 振る効率を高めこの男の首を撥ねる。

 私の頭にはそのイメージがある。

「どうした。無口だな。前みたいに怖さを紛らわす為に、汚い言葉を使ってみたらどうだ?」

 良く喋る男。

 そうして女達を口説き自分の周りに揃え、

 侍らせて良い気持ちになっているのだろう。

 英雄?

 人を山ほど殺した虐殺者。

 偉そうに私に意見するつもりか?

「口も聞けないのか。だが俺にはその鎧の解除方法が解らない。だから気のすむまで遊ぼう恵理」

 私の名を呼ぶな!

 私は怒りを込めて鎌を振り下ろす。

 地面に突き刺さった時に、

 私の怒りのエネルギーを放ちたいと、

 放てと念じた。

「マジか」

 男の足が止まる。

 見るとアニメの様な魔法陣が出ていた。

 これは良い。

 これであの男を八つ裂きに出来る。

 私はゆっくりと男に近付く。

 先ずは手から斬り落とし、

 徐々にそいで行く。

 殺さない様にじっくりと。

「しかしツマラナイ。恵理、お前は何を思っている?語らなくても俺は一向に構わんが、それでお前は何をするつもりなんだ?」

 やかましいおっさんだ。

 私より長く生きてその程度なら、

 私の妹の為に死ね。

「どうやら本当に喋れないようだ。なら喋らざるを得なくしてやる」

 おっさんの体から風が巻き起こる。

 それは私を退けるほどの風。

 止むのを待っていると、

 止んだ後に待っていたのは帯電したおっさんだ。

「来いよ。お前がやりたい事は俺ごときを殺す事じゃない筈だ」

 何が解る。

 何が解るのか。

 お前みたいなおっさんに。

 私の何が解ると言うのか。

「何も解らんし知らん。だがそれはお前もそうだ。俺の事を知らない。知って欲しいなら語れよ。生憎俺はエスパーじゃないんだ。お前の事を全て解る筈がない」

 今度こそこの五月蠅いのを殺す。

 苦しめることなく一撃で。

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