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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
ダンジョン攻略準備編

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ショウのおつかい

「金貨一枚」

 これで何件目か。

 ショウは提示される条件の低さに辟易していた。

 拳位の大きさの金で金貨一枚とは、

 下を見ているにも程があると思っている。

 そして今までを振り返り、

 その日暮らしの為に売り払っていた物が、

 もしかしたらとんでもなく

 高額な物だったのでは無いかとも思った。

 今は宿の心配をする事は無い。

 そして振り返る事が出来たのも、

 確実な後ろ盾を手に入れたからだと感じている。

 その後ろ盾を失うかどうかは、

 このお使いに掛かっているとも。

 ショウは何も言わずに立ち去る。

 コウは武芸も底を見せていない。

 光の柱を立てるほどの人物。

 一国の王ですらその存在に注目している。

 仕えたいと言うものも多いと

 クロウディス王から聞かされ、

 ショウは最初から焦っていた。

 自分達が逢いたいと願っていた人物は、

 他の者達も逢いたいのだ。

 放浪癖があり、中々一つ所に留まらない。

 それが仕官の妨げになっているとも聞いている。

 首都では先日のクロウディス王との一戦が、

 未だに酒の肴になっていた。

 それに続いてブロウド大陸との国交が再開すると、

 ブロウド大陸での活躍も伝わり、

 冒険者達の間でも忙しなくなる。

 ブロウド大陸出身者の中には、

 信奉する者が居る。

 またシルヴァ大陸でも、

 アイゼンリウト、エルフの里の出身者からは、

 何れ自分の国に来ると豪語する者さえいた。

 ショウはコウから名を出しても構わないと言われ、

 名を出そうと思った。

 しかしその名を出してしまうのは

 ズルイと感じていたし、

 万が一自分の行動でコウに害が及べば

 仕官どころの話では無いと考え出せずにいた。

 出せばその後の縁故を期待する者も居る。

 それが柵になるのをショウは恐れる。

 首都の店を粗方周り、

 懸命に頼み込むも返事は芳しくない。

 ショウは一人になれば、

 自分は結局元のままだと痛感する。

 仕える事を許してもらえたとは言え、

 まだ一兵士にも満たない。

 お使いすら満足にこなせないなら、

 それは人を評価してもらう前に

 自分が評価を下される。

 王女と共に居て自分が出来る事になっていたが、

 世間から見れば自分も出来ないのだ。

 ショウはその現実を目の当たりにし、

 俯きながら道を歩く。

「どうなされた若いの」

 呼び止められ顔を挙げると、

 恰幅の良い綺麗な服を着た人が

 ショウの目の前に居た。

 一瞬笑顔になりかけるも、

 顔を振って仏頂面になる。

 隙を見せてはいけない。

 騙されるかもしれない。

「いえ、大丈夫です」

「大丈夫なようには見えませんな。どうですかな、少しここの御茶を私と共に楽しみませんか?」

 手を向けられた方を見ると、

 そこは食事をする所のようだった。

 ショウは警戒する。

 何が目的で近付いて来たのか。

「何お代は私が持ちましょう誘った手前。暇つぶしに付き合って頂ければ。お礼は私の話と言う事で」

「申し出は有り難いが、生憎急いでいます」

「知っておりますよ。私はこう見えて商人でしてな。貴方が先程からしていた事を見ていて、ついつい老婆心が出たのです」

「何故そんな事を?」

「気まぐれとでも思って下さい。ささ、少し冷えてきました」


 商人はショウの背中を優しく押して、

 共に店に入る。

 窓際の席に着くが、

 ショウは落ち着かない。

 また騙されるのではないか。

 今騙されれば、それは以前とは違う。

 折角ここまで来て辿り着いたのに、

 失う事になる。

 仕えたい人に出会えたと言うのに。

「どうやら貴方は思い違いをなさっていますな」

 ふいに商人はショウにそう告げた。

「え?」

「恐らく貴方は苦労してこの街に辿り着いたのでしょう。その旅は貴方を強くしたかもしれませんが、同時に貴方の眼も知も暗くしてしまった」

「そんな事は」

「生きる為に必死になるのは当然の事です。今の時代安全で居られる者などそう多くは居ませんから。だからこそ誰もが他人より幸福で居る為に必死になっています」

「そうですね」

「特に商売においては、如何に安く仕入れて高く売るかが課題です。良い商人で有ればある程、安く買う為に手を尽くす物です」

「人を欺いてもですか?」

「人を欺く商売と言ってもピンからキリです。人を騙して貶めるのは下策、人に巧く伝え得した気分良い気分になってもらうのは上策。真実をそのまま伝えるのは中策」

「真実を言うのが上策では無いのですか?」

「真実をそのまま伝える事が、誰にとっても幸せであるならそうでしょうが、真実は時として人を苦しめます。その時真実を混ぜつつも明るい言葉を含めれば、それは真実では無くなりますが、柔らかくなります。物を食べるにも硬いものばかりではお腹を壊してしまいますからな」

 ショウはそれを聞いて頷く。

 正直で居る事それが信奉されているのは

 下の者達だけで、上の人間達は伝える事を選び、

 全てを伝えない。

 それは士気に影響するからだ。

「貴方はそういう所を見る機会に恵まれていたのに、この街に着て金を売る時に、ただ買い取って欲しいとだけ言っていた。相手はどう思うでしょうか」

 ショウはその問いに考える。

 相手になるべく高く買い取って欲しいのに、

 ただ金を買ってくれでは足元を見ると言うよりは、

 交渉するつもりがないと思われたのではないか。

「貴方が何族か、なんて言う事は一切関係がないのです。そして年齢も。この国においては種族も年齢も生きるのに関係ありません。関係あるのは知恵と度胸です。この国には今英雄が二人いる。一人は冒険者として国を建て直す為に艱難辛苦を乗り越えた英雄。もう一人は地の底から這い上がり、求められれば何処へでも行き艱難辛苦を乗り越えた英雄」

 ショウは思う。

 知恵と度胸が二人にはあった。

 国を立て直すという忠義を胸に秘め、

 幾多の戦場怪物を退け見事果たした。

 始まりは不詳ながら、凡そ高貴な立場では無い所から

 国を救いのし上がった。

 知恵を絞り苦難に自ら飛び込み泳ぎ抜いた。

 それが二人の英雄をより輝かせたのだと。

「失礼ながら貴方は自ら知恵を使わず度胸も持たず、利益を得ようとしていた。それで得られるものは幸運という自分の手から離れた神の奇跡を頼るもの。それが貴方の為になりますかな?」

 ハッとなる。

 コウ様は失敗しても良いから報告をと言っていた。

 そこに狙いが有ったんだ。

 どう挑みどう失敗したのか。

 成功する事は難しいからこそ、

 この任務に如何にして挑んだか知りいのだ。

 ショウは自分の御でこを叩く。

 売る事ばかりに必死になって、

 何の任務を与えられたのか、

 その真意を見抜けなかった。

 コウ様は自分に染みついた思い込みに

 気付かせたかったのではないか。

 そう思うと自分は危うく間違える所だった。

「あ、有難う御座います!」

「いえいえ。貴方は聡明でらっしゃる。理解出来る人は中々居ないものです」

「とんでもないです。与えられた任務の真の意味を見抜けなかった」

「私はヒントを与えましたが、答えは貴方が出したものです。それで良い。誰も一人や二人では生きられませんから」

 その言葉にショウは涙が出てきた。

 王女と二人でいた所為か、

 自分達だけで生きてきた気がしていた。

 そうではない。

 広く見れば色々な物に生かされている。

「ではそろそろ私はコレで」

「あ、有難う御座いました本当に」

「私にも覚えがあったのです。一人で一人前になったつもりでも、何処かで誰かが見守っていてくれた」

 そう商人が言いつつ、

 窓の外を指さす。

 ショウはその先を見ると、

 デカイ鎧とその陰に隠れる人がいた。

「どうぞよろしくお伝えください。貴方が仕える方は何れ更に多くの人を救うでしょう。仕えがいのある方です。そんな人はそうそう居るものではない」

「はい!」

 ショウは微笑みながら席を立つ。

 そして商人と握手を交わして別れる。

 知恵と度胸、どこまで出来るか解らないが、

 自分の出来る精一杯の事をして伝えよう。

 そう決めてまた最初から店をあたるのだった。

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