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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
ダンジョン攻略準備編

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荒野に生える草

「ファニー!そっちをお願い!」

「命令するな!」

 乙女たちは街から少し離れた

 ダンジョンに潜っている。

 前衛をファニーとアリスが務め、

 脇をプレシレーネとロリーナが固めていた。

 後衛にはルールとブルームが、

 リムンとシンを連れて戦況を見つめている。

 その前にウーナが立ち、

 いざという時に備えている。

 ここで棒立ちしているのがカグラである。

 カグラは巨人族の末裔の国の一つである、

 山の巨人族の王女であった。

 端的に言えば蝶よ花よと育てられ、

 王は王女に何も期待しては居なかった。

 何れ何処かの国との取引材料に仕えれば。

 その程度の愛着しか無かった為、

 生きていくのに最低限の事しか教えていない。

 7歳の頃に大臣の息子であるショウが、

 従者として就いた。

 王女がショウから聞く話は、

 それまで乳母たちが話してくれた話とは

 かけ離れたものだった。

 王女は信じていない訳では無かったが、

 現実味がなかった。

 そんな王女は確かめたくて、

 ある時全ての者の隙間を縫って城の外へ出た。

 ワクワクした気持ちで出た外の世界は、

 悲劇的な光景で満ちあふれていた。

 街行く者達は、

 何かに取りつかれた様な顔をしている。

 ボロボロの恰好で地面に座り込む者。

 商店では得体の知れないものが並んでいた。

 王女は呆然として歩く。

 夢を見ているのだと。

 悪い夢だと。

 綺麗な格好をした王女を、

 街の人達は誰も見ない。

 ぶつかっても見ず反応しない。

 声を掛けても視界に入らない。

 王女は溢れる涙を止められなかった。

 だが座り込む事も、泣き叫ぶ事も出来ず。

 ただただ歩き続けた。

 街を出た荒野原で、王女は逞しい草を見つける。

 栄養など無いこの地に、

 こんなにも逞しい草が育つのか。

 自分とは違う。

 命なのにここまで違うのか。

 そう思い絶望しつつも憧れた。

 その思いはずっとカグラの心に残る事になる。

 ショウにその腕を掴まれるまでずっと、

 草を眺めていた。

 その後城へ帰ると、

 ショウは大人たちに連れていかれ、

 暫く逢えなかった。

 王女が逢いたいとせがんでも、

 逢わせて貰えなかった。

 その様子が可笑しかった。

 まるで居なかったかのような反応をする乳母たちに、

 王女の頭の中で街の光景がよぎる。

 鬱々とした気持ちで過ごし、

 5年を過ぎた時に王女はショウと再会する。

 それは園遊会の時だった。

 背丈が伸びて体も細くなったが、

 間違いなくショウ。

 王女は一瞬喜んだが直ぐにそれは消える。

 ショウの眼が一つふさがっていた。

 明らかに有ったものがないのが外からでも解る。

 籠の中の鳥が逃げ出したことへの罰。

 鳥に罰を与えれば死んでしまうから、

 その面倒を見ていた者に罰を与えた。

 王女は絶望する。

 ショウは人として罰を与えられた。

 自分は愛玩動物と同じ存在なのだと。

 そんな時、見た光の柱。

 遠くの大地で立つ柱に、

 王女は魅せられる。

 あんな力があれば、この世界を変えられるかもしれない。

 王女はその光を求めて国を出た。

 ショウは陰ながら見守っていたので、

 少し出た所で王女を引きとめる。

 しかし頑として受け入れなかった。

 このまま愛玩動物として朽ちて行くくらいなら、

 この国の為に一人の者として何かしたい。

 どうせ崩れて行くのなら誰かに託し、

 せめて国の最後を看取りたい。

 その王女の考えに折れてショウは同行する。

 次は命は無い、そう思ったがそれでも

 この荒れ果てた国で死を待つよりマシだと

 思ったからだ。 


 海を超えて渡った世界は、

 王女の想像を超える厳しさだった。

 巨人族に対する偏見。

 年少者と言う事で、

 情報を得ようにも相手にされない日々。

 ショウは王女に黙ってダンジョンを荒らし、

 日々の生活費を稼ぐ。

 王女はそれを知っていた。

 自分も何かしたかったが、何も出来なかった。

 無力。

 ショウの見えない所で泣く日々。

 あの日見た光の柱が心の支え。

 情報を求めて訪ねて回るも、

 幼い二人に情報が回ってくる事は無かった。

 あくまでも御忍びの為、

 何処かに所属する訳にも行かなかった。

 世間を知らない二人。

 騙されてお金を取られたり、

 攫われそうになった事もあった。

 とうとう金銭も底を尽きた時、

 覚悟を決め最後の手段として国の名前を出した。

 グラディウス国は受け入れてくれた。

 王女とショウは喜んだ。

 やっとゆっくり休めると。

 クロウディス王から着物を送られ、

 ボロボロの服から着替える。

 王女とショウは涙が止まらなかった。

 気付けば二人は碌に会話もしなくなる。

 ただ仲が悪い訳ではない。

 王女は自分の無力さに、

 ショウは自分がダンジョンを荒らすまで

 落ちぶれた悲しさと何一つ成しえない悔しさで、

 互いに身を焦がしていた。

「ウーナごめん!」

 王女はハッとなる。

 目の前に現れたのはゴブリン。

 旅の途中で幾度も襲われた。

「お任せ!」

 神官のウーナはハンマーでゴブリンを

 叩きのめす。

 王女は見回す。

 ここには一人を覗いて全て女性。

 自分と同性の者が、

 護られる事なく互いを助け合い、

 怖い敵と戦っていた。

 今まではショウという存在が居た事で、

 自分は甘え過ぎていたのではないかと思う。

 愛玩動物では無く、

 一人の者として生きたいと思いながら、

 結局ここまで変われなかった。

「皆!頑張るだのよ!」

 リムンは結界を張り、後方をガードする。

「……頑張って!」

 ハクはリムンの前に立ち、

 何かあった時には護ろうとしていた。

 王女は涙が出てきた。

 自分は一体何なのか。

 ここまで来て何をしているのか。

 国の最後を看取るどころか、

 朽ち果てて行くのを待っているのは、

 ここにきても変わらないではないか。

 こんな小さな子供ですら、

 仲間の為に戦っているのに。

 力が無くても出来る事をしようとしている。

 自分は自分のかなしさの為だけに、

 慰めの為にショウを、

 他人を犠牲にして来たのではないのか。

 王女は拳を握る。

 王女の風格などない。

 私は私だ。

 ここでは王女などではなく、

 カグラとして皆の為に戦いたい。

 そうでなければ未来を捨ててまで、

 一緒に居てくれるショウに報いる事が出来ない。

「敵が多いぞ!」

「解ってるわ!プレシレーネ、ロリーナ!後方の敵をなるべくカットして!」

「了解!」

「オッケー!」

 狂乱状態の魔物は、

 斬っても斬っても途切れない。

 後方の結界は壊れようとしている。

 リムンは踏ん張っているが、

 額の汗が服に染み込み始めている。

 ハクは敵を睨んで仁王立ち。

 ウーナも敵を払うが追いつかない。

「そろそろ限界か」

「そうですわね。鍛錬で全滅したのではコウ様に合わせる顔がありません」

 ルールは剣を2本引き抜く。

 ブルームは杖を背中から取る。

 カグラは震えていた。

 自分には何も無い。

 でも何かしなければ死ぬ。

 自分一人なら良い。

 でも今は違う。

 仲間が居る。

 焦がれた仲間が。

 事情を深く聞かなくても仲間に入れてくれた。

 この人達に報いる為に、

 何かしたい。

「うぁああああ!」

 カグラはリムンの結界をすり抜け、

 目の前に居たゴブリンを突き飛ばす。

 次の瞬間、

 カグラの足元から夥しい太く逞しい

 つるが現れ、ゴブリン達を拘束していく。

 呆気に取られる一同。

 ファニーやアリス達を除く、

 全ての動く者を拘束した。

 これにより洞窟は大渋滞となる。

 奥から来る魔物も先に行けない。

 今居る魔物も身動きが取れない。

 カグラは自分の力に唖然とする。

 こんな力は聞いた事がない。

 でも何でも良かった。

 これで私は皆と一緒に入れる!

 ショウに泥棒のような真似をさせずとも、

 一緒に戦える。

 嬉しさに涙する。

「これはまた」

「凄いな……」

 ブルームとルールは唖然とする。

 自分達は自然と共に生きてきた。

 それでも自然をそのまま操る事は出来ない。

 力を受けるのも大樹と精霊のみだ。

 それが何の魔力も無く精霊の加護も無い、

 カグラがやってのけた。

 特殊能力というものか。

 ブルームとルールはダンジョンの探索を目的としていたが、

 そんな場合じゃ無くなったと思う。

 そしてこんな時コウならどうするか考え、

「皆!撤退!」

 と同時に声を発した。

 ブルームは杖を仕舞いリムンとハクを、

 ルールはカグラを脇に抱えて後退する。

 それを見たファニーやアリス達も、

 素早く撤退を始めた。

 カグラは抱えられながら、

 自分が出したものを見る。

 弱い自分の気持ちに、

 大地が答えてくれた。

 強く逞しいつる。

 私が成りたかったものだと。

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