おっさん、解り易い悪役と会う
姫を焚きつけた事で
国を建て直すクエストが
追加されたおっさん二人組。
始まりの国へと駆け抜ける!
「いだだだだ」
俺は獣道を馬に乗りながら行く。
馬なんてものには乗った事が当然なかったので
姫が強引に俺を前に乗せて走りだしていた。
馬のリズムに合わせて腰を浮かせばいい。
というのがアドバイスだが、
そうすんなり巧くは行かない。
姫との交渉が思わぬ方向に流れた事で、
善は急げとばかりに走りだした。
ビッドは逆に鎧のお供を前に乗せて
馬を巧く操っていた。
この強行軍は昼夜を掛けて行われた。
うとうとしつつも、馬のリズムとズレた時に
突き上げられ目を覚ますを何度か繰り返した。
「ついたぞ」
姫の声が背後から掛かり、寝ぼけ眼を
こすりながら前を見る。
そこは俺が引き摺られ、
閉じ込められていた所とは
少し違うように見えた。
「ここが我が国アイゼンリウトの
首都であるアイルだ」
そう告げられ眠たさと疲れから頷くと、
姫は馬を進めて街へ入る。
すると多くの住民たちから
「イリア姫ー!」
「舞踏姫バンザーイ!」
という喝采が沸き起こった。
凄い人気だな。
これならすんなりと国を
纏められるのではないか?
そう考えた。
「イリアよ、よくぞ戻った」
大きな門をくぐり、姫に支えられながら
馬を下りてその奥の更に大きな門をくぐり
中に入ると、豪華な装飾で彩られた室内の
一番奥に立派な椅子に座り、豪華な冠と
ローブを着た老人がいた。
サンタクロースの人相を
悪くしたような感じだ。
「父上、ただいま戻りました」
「うむ。それが罪人か」
「いいえ父上。これは軍師です。
この国を改革する為の」
俺はそれを横で聞いて目が覚める。
え!?この姫どこまで脳筋なの!?
竜を崇めて生贄をささげて安泰を望むのが
大勢が占める中で、改革するなんて事を
改革を一番望んでいなさそうな
王の前でわざわざ披露するなんて。
「ほほう、舞踏姫の武勇だけでは
飽き足らず、
国を治めようというのか?」
「私が治めなくとも構いません。
ですが、今のままでは何れ国は
崩れましょう。
それを理解せぬ父上ではありますまい」
「ふふん、そんな事はない。
現に今も国は安泰そのものだ。
そなたが罪人を確保した事で、
民も納得しよう。なぁアグニス宰相」
「ええ、ええ、陛下。
我が国の至宝たる姫君が罪人を
捕えて参ったのです。
何も問題はありますまい。
それよりも代わりの仕組みを整えませんと」
「そちの良いようにせよ。
そちの行いは全てわしの為であるからな」
「ええ、ええ、勿論ですとも陛下」
……何と言う解り易い悪役だ。
アグニス宰相というのは60を超えてそうな
青白い肌に薄気味悪い笑みを浮かべた
細身の爺さんだ。
王は傀儡に過ぎない。
アグニス宰相とかいうのが裏で
手を回していたのだろう。
権力を欲しいままにして、
私腹を肥やしているとしたら
あまりにもテンプレな悪役過ぎて、
どうもやる気をそがれる。
「父上、一旦下がらせて頂いても
宜しいですか?」
「うむ。罪人を逃がさんようにな」
そう言われて姫は俺と腕を組んで
王の間を出て行く。
「どうだ?」
小さく俺に耳打ちする姫。
どうもこうもない。
「あの爺さんはどういう奴なんだ
。解り易い悪い大臣て感じだけど」
「大臣より上だ。文字通りこの国を
仕切っている人物になる。
更に怖い事を言うが、
あの方は腕が立つ上に魔術の力も
それなりだ」
「なるほど。巧く王に取りいって
成りあがった訳じゃないってことか」
「ああ、私が王に改革の意思を示したのも、
その宰相の態度を見る為だ」
「何にも考えてなかったんじゃないのか?!」
俺が驚いてそう言うと、
肘が鳩尾にめり込む。
悶絶する俺を引き摺って姫は進む。
「新しい仕組みとは何だろうな。
まぁ恐らくは貴殿を処分し竜が居る事にして、
生贄を洞窟に閉じ込め始末するという
方法を取るのだろう」
「いたたたた。まぁその位が妥当だろうね。
どうもドラスティックな改革を
しそうにない人物のようだし」
「流石だ」
俺と姫は王の間を出てから
迂回した所にあった大きな階段を上り、
そこにあった大きな入口に入り
暫く歩いた所の扉を開けた。
質素だが所々可愛らしいデザインの
装飾が施された、女性の部屋だ。
もっと無骨な部屋を想像したんだが。
「さ、掛けてくれ」
姫はダメージの抜けない俺を
丁寧に椅子にかけさせると、
姫自身は俺と向かい合うように
椅子に座った。
他のお供達は姫の後ろに控え、
ビッドは俺の後ろに居る。
「で、今後どうするかだが」
「あの様子だと俺を大々的に
処刑しようとするだろう」
「だろうな。私もそう思う」
「しかし俺は一つ忘れていた事を
思い出した」
「何だ?」
「竜が消えた事は、
周りのモンスターたちの方が
気配で感じたんじゃないか?
そして確証を得れば
その動きは活発化する」
「村々が危ないな」
「討伐隊を編成していかなければ
ならない、と言う事は」
「我々が赴いてそれらを各個撃破し、
民に向けて声望を高める事が出来るか」
「そう言う事だ。しかしそうなると
気に入らないな」
「何が?」
「あの宰相だ。腕も立ち魔術の方も
それなりと言う事は、冒険者か軍隊に
所属して戦った経験があるんだろう?
そんな人物が果たして
俺程度が考え付く事を考えていないかな?」
「しかり」
俺はその声に驚き振り返る。
そこには王の間に居たあの
薄気味悪い宰相が一人で立っていた。
突如音も無く現れた薄気味悪い宰相。
その正体は!?