男達の会議
ゆっくりと目を開ける。
いやぁ人に起こされない一人の空間で、
目が覚めるのは実に良い。
この所目を覚ますと常に誰かいた。
ここは二度寝を試みてゴロゴロしよう。
そうして俺は暫くゴロゴロしている。
後5日後にはゴルド大陸に旅立たねばならない。
その間にある程度レベルアップしないと。
ショウの能力が竜の大地で役に立つか、
やってみなければわからない。
ひょっとするとオーディン様の、
特別待遇の可能性も無くは無い。
ゴルド大陸には恐らくロキが居る。
そうなるとそれが通じないかもしれない。
となるとやっぱり技術として、
ダンジョン経験が必要だ。
ロリーナ組に任せて入るが、
今日は何人か混ぜて体験させよう。
俺自身も魔法剣の鍛錬をしたいし。
しかしホントに誰も来ないのは、
少し不安になるなぁ。
俺は取り合えず二度寝は中断し、
起き上がりベッドを出る。
「旦那おはようございます」
「コウ殿おはようございます」
うぬ。
ドアを開けるとザルヲイとショウが、
脇を固めていた。
俺命狙われてるの常時。
「おはよう二人とも。今日の予定は何かな」
俺は歩きながら問いかけた。
「取り合えず女性陣はブルーム様達とダンジョンへ出掛けました」
「それは結構。やはり実地で体験しておくのが、憂慮の事態に対処しやすくなる。他は?」
「俺達とビルゴ殿は別行動になってます。予定は未定」
「うーん。例の物は手に入った?」
「ええ。割と大まかなんですが」
「流石ザルヲイ仕事が早い」
俺が振り返り微笑むと、
ザルヲイも笑顔になる。
優秀である。
隙あらば口説いておきたい人物だ。
「コウ、起きたのか」
一階へ降りると、ビルゴがどっかり座っていた。
「おはよう。昨日は出掛けてたのか?」
「ああ。俺も修行しておかないとな」
「そう言えばビルゴは剣は普通の物なのか?」
「そうなるな。コウは知らんかもしれんが、名剣の類を持つものは珍しいのだぞ?」
「なるほど。俺も相棒のお陰で英雄とか言う御大層な列に加えられた訳だ」
俺がビルゴの居るテーブルに着こうとすると、
ザルヲイが先に動いて椅子を引いてくれた。
「有難う。二人とも掛けてくれ」
俺が促すとザルヲイとショウは席に着く。
ショウの顔が依然凹んでいる。
そら社会に出て一日で何とかなるなら、
引きこもりなんて居ないのである。
「で、かしましいご婦人がたが居ない間に細かい所を話したいのだが」
「ああ俺もそう思っていた所だ」
「なら先にダンジョンに着いて解った事をご報告します」
ザルヲイがそう言って説明が始まる。
ザルヲイの予想通り、地下30階以上あるようだ。
そして30階以降は不明。
それまでの階層は、大まかな見取り図のみで
詳細は不明。
トリックの有無も所々にマークが付いているだけで、
詳細は解らない。
これを一気にクリアするとなると、
ある程度力技に頼る部分も出てくる。
「中々厳しいな」
「そうですね。その代わりと言っちゃ何ですが、それ相応のフォローと報酬はこちらから出せるように申請してあります」
「期待させてもらおう」
「ええ必ずや期待に答えさせて頂きます」
ザルヲイ優秀説は伊達じゃないな。
俺はショウを見る。
更に落ち込んでいらっしゃる。
自分と同じように助けを求めて来た者が、
それ相応の報酬を提示出来る位の交渉力がある、
というのは自分の力量を思い知るには十分だ。
それに仕事も早い。
現実を知らなければならないのは、ショウも同じ。
助けを求めて無償で戦うのは物好きだけ。
俺は物好きの部類だからこそ引き受けた。
その現実を知らなければ、今後困るだろう。
「ならこちらも全力で期待に答えよう。で、このダンジョンを攻略するのに先ずは手近な所から整えていきたいと思う。ショウ、昨日の金を巧く等価値まで取引していけるか?」
俺が話を振ると、ショウは立ち上がる。
ここは勝負だなショウ。
「はい!何とかやってみます!」
「旦那、宜しければあっしがやりましょうか?外交特権をちらつかせれば、期待以上にやれますが」
俺はショウを見ている。
死にそうな顔をしているが、
それでも目が燃えている。
普通に考えるなら、
確実にザルヲイだ。
しかし昨日金を獲得したのは、
ショウのお陰である。
幸いバンクに以前稼いだ分もある。
まだダンジョン攻略にも至っていない。
ならここは勝負。
「いやザルヲイには必要な物のリストアップと、それに掛かる金額を調べてもらいたい。それに合わせた購入計画を立てなければならないし。……ショウ、お前に任せても良いか?」
「はい!」
ショウは拳を握りながら答える。
「良し。頼む。成功も失敗も客観的に報告してくれ。自分の所為とかは要らないからな。取引が難しい事は俺も承知している。俺の名で役に立つなら使っても構わない。グラディウス城に行けば得られる事も多い。危ない橋を渡る必要は無いから慎重に確実に行ってくれ」
「心得ました!早速に!」
ショウは勢い良く飛び出して行く。
俺はその後ろ姿を見送って、テーブルに向き直る。
「旦那この状況で抱え込むとは」
「言わんとしている事は解るつもりだ。だがうちも人材不足なんだよ。余裕が多少でもあれば、成功も失敗も問わない所は任せていかないと」
「それは旦那がそう言う者を目指すという意思表示で?」
「そうだなぁ。流石に流れ者をするには所帯が大きくなってきたし、状況にもよるけど、先を見据えておく行動をすることにした」
「あの巨人族と出会ってですかい?」
「切っ掛けとしてはブロウド大陸で出会った師父かな。その前にも言われてはいたんだけどね。それにザルヲイと出逢ったのもある」
「あっしがですか?」
「そう。優秀な人材を見過ごすのが勿体ないと感じた。そんな事今までなかったのに。だとすれば、それは俺の心の針がそっちに向いていると思ってね」
「それはどうも」
「まぁそれはそれとして、この難解なダンジョンを大人しく歩いて行く訳にはいかない。途中敵の攻勢が激しくなった場合、力技に出る事も検討しておかないと」
「そこで俺の出番だな」
「そう言う事になる。ビルゴは以前戦った時も十分強かった。だが相手は竜だ。並の力では太刀打ちできないと思う。そこでザルヲイ。ビルゴの鍛錬に付き合ってくれないか?」
「良いので?」
「頼む。竜人と立ち合う事で見える事もある」
「ならば俺からも頼もう。ザルヲイ殿を負かした後は、お前とも立ち合えるかな?」
「ああ、その時は」
俺は頷く。
事実ザルヲイを負かす事が出来れば、
並の竜人なら立ち合える。
そうなれば前衛戦力として計算出来る。
「では早速に」
二人は席を立つ。
見送った後、俺は天井を見上げる。
地下30階。
あまり人数を増やしても問題だ。
この段階から統率を取るには時間が無さ過ぎる。
個々の繋がりがある今の人数が限界だろう。
ブロウド大陸で指揮をしたが、
あれは師父達の協力があったればこそだ。
一から兵を集めて指揮する。
何ともまぁ元引きこもりとしてはシンドイ。
英雄と言う名に力があるなら、
どうせ呼ばれるなら使おう。
具体的な方法を模索しつつ、
オルソン様の持ってきた御茶らしきものを、
ゆっくり啜りつつマッタリしていた。




