巨人族の末裔
「旦那、止まってくれ」
ショウとダンジョン探索していると、
非常にサクサク進む。
足を止めた後、
ショウは石を掴んで転がす。
すると次の瞬間、
天井が崩落してきて道に穴が開く。
こんな感じでトラップも難なくクリア。
ショウに取り合えず殿呼びを止めて貰う。
様だとか殿だとか言われるのは、
どうも居心地が悪い。
旦那もどうかと思うが、まだマシである。
「さて順調に進んでるが、ここ何回だ?」
「そうだな。7階に差し掛かっている」
「このダンジョン意外に深いんだな」
「後13階はあると見て良いだろう」
「え、そんな深いなら出直すか?」
「そうだな……。後を考えるなら出直すのが正解だろうと思う」
「よしなら撤退だ。行こうショウ」
「了解」
俺は踵を返して来た道を戻る。
ショウが粗方解除してくれたので、
戻る道は問題無い。
魔物も下って来る様子は無いし、
結局7回まで潜ってあったのは金だけだった。
中々に渋いダンジョンである。
「まぁそんなに入り組んでいる訳でもなく、慣れている者にとっては潜り易い所の様だから、宝は深い所にあるかどうかだろう」
「まぁそうだよな。次に期待しよう」
難なく俺達はダンジョンを出る。
外は真っ暗である。
「さぁ疲れたから帰るべ」
俺は背伸びをしながら疲れを取る。
狭くは無いがそれでも広いとは言えないダンジョン。
圧迫感があったのだろう。
天井がない空は解放感で一杯だ。
「旦那、少し付き合っちゃ貰えないか?」
「ああ構わんけど何処に?」
俺は肩を回した後、
屈伸したり足を横に伸ばしつつ答える。
それを見てショウは苦笑いをした。
ストレッチは大事だと思うんだが。
「会って頂きたい方がいるんだ」
「おう。なら遅くなると先方も良い気はしないだろうから急ぐか」
「誰かは聞かないのか?」
「別に。向こうに着く前には説明してくれるだろう?」
俺はストレッチを継続しつつ答える。
そしてショウまた苦笑い。
何か変な事を言っただろうか。
「どうした?」
「いや何。普通はもっと警戒すると思ったんだが」
「今まで色々な難物に会ってきたからなぁ。俺としてはその人達より難物は居ないと思っているのもある」
「旦那も苦労している訳だ」
「ショウほどではないと思うけど」
ショウは前を向き歩き出した。
俺はストレッチを終え、
ゆっくりと後に続く。
「旦那に会ってもらうのは、俺達の国の王女だ」
「そうか」
「どんな人物であるかは、是非会った後に旦那の感想を聞かせて欲しい」
「解った」
振り向かずにそう告げたショウに対して、
俺は短く答えた。
察するにその王女は非力なのだろう。
力と言っても武力だけでは無い。
国を治める為の力が足りない。
それを俺に知らせる事で、
ショウは俺に託したいのだろう。
ただ安請け合いだけは出来ない。
ショウ一人の考えでしかないなら、
危険を冒せない。
国全ての人々が国が変わるべきだと思い、
行動しかけているかどうか。
ショウがその先鋒であると考えたいが。
俺は黙って後ろを歩く。
後ろから見るショウの背中は、
何処か落ち込んでいるようにすら見える。
王女か……。
それに繋ぎを付けられる時点で、
ショウは所縁の者か。
兄弟でないなら幼馴染か従者。
何にしても残酷な答えにしかならない事は、
ショウが一番良く分かっている筈だ。
それでも尚、か。
俺とショウは街へ戻る。
そして城の方へ向かって人波を掻き分けていく。
ホント良く混むなぁ。
流石首都。
暫くして城が近付くと、
城には入らず外の塀をなぞる様に歩く。
「旦那、ここです」
案内されたのはとても要人が要るとは思えない、
うらぶれた二階建ての建物だった。
ショウの顔を見るが、
背中だけでなく泣きそうである。
俺は黙って頷く。
そして中へと案内される。
見た目と同じような内装の中を、
二階に向けて上がっていく。
お供も居ないのか。
「カグラ王女、お連れしました」
「どうぞ」
凛とした声では無く、
可愛らしい声が中から飛んできた。
ショウが扉を開けると、
そこに居たのはショウよりも幼い少女だった。
膝まである長い黒髪に、
赤を下地に金の刺繍でヒマワリの様な花があしらわれた
物を着ていた。
この歳で国をどうこう言うのは早計だ。
そんな事はショウも解っている。
だがそう言わねばならない理由があるのだろう。
「失礼致します王女。私は」
「コウ殿ですね。お待ちしておりました」
笑顔で駆け寄り手を握られる。
そしてその手から伝わるのは、
とても王女の手では無いと言う事だ。
「……お待たせして申し訳ありません。生来の無骨者故、道に迷ってしまい、ショウ殿に手間を掛けさせてしまいました。御許しを」
俺はその手を握りながら膝を突き、
頭を下げる。
「いえいえ!私はてっきりショウが失礼な事をしたとばかり」
「とんでも御座いません。して私めに王女は何をお求めなのでしょうか」
「あの、汚い所で何ですがお掛けになって下さい」
「では失礼いたします」
俺は場所を変えようとしたが、
話し辛くなるのも困る。
ここで先に話をするのが賢明だ。
だが急かすのは良くない。
ジッと言葉を待つ。
「コウ殿。私達のオレイカルコス大陸は、以前は竜を凌ぐ神に最も近い一族が統治する世界の中心でした」
ラグナロクはオーディン様達神々と、ロキ、そして巨人の戦争だ。
最終的には巨人の炎によって一度世界は死んでいる。
「一度世界を壊した巨人たちに、人と同じかそれ以下の存在に落とし罰を与えました」
この世界はオーディン様が再構築した世界。
その中で巨人を優遇したのでは、
またラグナロクを生むと考えたのだろう。
再構築したばかりの頃は、
再構築する事に力を注いだために、
修正を加えるのが遅れたのかなと思う。
それにしてもこの凋落ぶりはそれだけなのか。
「ただ巨人たちにも言い分はありました。巨人と言っても4つに分かれており、全てが同じではありません。その事からオレイカルコス大陸は荒廃の一途をたどっています。もう持たない所まで来てしまいました」
なるほど。
内紛が内紛を呼んで、
種族の危機にまでなったのか。
「今の王達は誰一人として、それを解決しようとは思っていません。どの巨人族の末裔が強いのか、それを決せんと戦をし続けています」
自滅へ一直線と言う事か。
どの巨人族がトップに立とうとも、
其々が其々に思う事が邪魔をして、
内戦は治まる事は無いだろう。
「滅びるならば、私は別の方法を試してから滅びれば良いと考えています」
「私の様な外の血を入れると言う事ですか」
「はい。人によって淘汰されれば、巨人族の夢も覚めるでしょう。人と同じかそれより劣ると言う現実から目を背けた結果が、内戦におよび、今種族さえも滅ぼそうとしています」
俺は目を瞑り考える。
王女は年齢の割に聡明だ。
しっかりと考えて選択をしたのだった。




