王への道
暫く警戒しながら歩いていると、
小部屋を発見。
俺は何気なく石を拾い、
宝箱に投げようとした。
「旦那、何をしようとしてるんだ?」
「え?ミミックか確かめようかと」
「随分と原始的だな」
「原始的だからこそ真髄なんじゃないのか?」
「そう言う考え方もあるな」
「魔法や魔術が使えない場合不意打ちを受ける可能性が高いからな。何かほかに方法があれば」
「いや、旦那の方法で良いと思う。目から鱗だ」
俺とショウは笑い合う。
そして俺が全力で石を宝箱にぶつけると、
ショウはあっ!という声を上げて、
口を開きながら俺を見た後声を上げて笑う。
俺も釣られて笑う。
ミミックが襲い掛かってきたが、
俺とショウの一撃で吹っ飛ばされた。
「旦那は可笑しな人だ」
散策しながら俺達は進む。
ショウは未だにクスクスと笑っている。
俺もついつられて笑ってしまう。
ツボに入った状態だ。
「つい加減を忘れた。しかし面白かったな」
「ああこんなに笑ったのは久方ぶりだ」
「それは良かった。まさか当たりだったとは思わなかったよ」
「傑作だったな」
「向こうは更に驚いただろうな。思いっきり石をぶつけられた挙句、見もしないで吹っ飛ばされたんだから」
俺は良い終わる前に吹き出してしまい、
ショウも笑う。
その間にも魔物が来たが、
特にお構い無しだ。
「何とも大雑把なダンジョン探索だ」
「まぁこのダンジョンを必ず攻略しなきゃいけない訳でもないから気楽で良い」
「……時に旦那、一つ聞いても良いか?」
「何なりと」
俺は歩きながら辺りを見渡しつつそう答える。
暫く沈黙が続いた。
それでも促す事はしない。
話したい時に話してくれれば良い。
「旦那がダンジョンに潜る目的は?」
まぁありきたりなダンジョン攻略とか、
冒険者としてはダンジョンがそこにあるからとか、
そう言う事は聞いていないのだろう。
「そうだな……。今回に関して言えば、借りを返しに行くだけだった。だがショウが力を貸してくれれば、俺は俺を必要としてくれる人達の為に、入れ物を作る為の貯蓄しようと思う」
「入れ物とは国か」
「そうだ。俺がこの世界に居るのには理由があると、最近は思う。幸運にも相棒となる宝剣を2本も手に入れ、ファニー達仲間と出逢い旅をして、国を救い里を救ってきた。そして師父達と出会い、上に立つものの姿勢と考えを学んだ。そうなると一介の冒険者として、ただ生きていくのは難しい。それは状況もそうだが、心も」
話の途中で魔物たちが奥から出てきた。
俺は相棒を引き抜こうとするが、
ショウが後ろから飛び出て一瞬で片を付けた。
そして俺に向き直り、言葉を待っていた。
「今まで見つめてきた目線は、段々先を見ている。だが俺の中の王の姿は未だ見えない。この後巡る旅では王の在り方を探そうと思っている。財が溜まるのが先か、王の姿が見えるのが先か。勿論腕を磨いて、今俺の眼に映る王を超える目標もある。ショウ、その為に力を貸してくれ」
「なるほど。旦那は間違いなく英雄だ」
「そうじゃないだろう。英雄なら迷わない筈だ。己を信じて突き進む。俺はそうじゃない。迷い立ち止まり、振り返って戻ってはまた進む。英雄には程遠い」
「俺は運が良いのかもしれないな」
「何故だ?」
「雛から鳥に近付いているのを間近でみれるんだからな」
「こんな年くった雛も居ないだろう」
「そういう雛が居ても良いという国があっても良いと思う」
「そんな国は前代未聞だな」
「ああ」
俺達は小さく笑い合う。
若くして英雄となり、国を治める。
それが一般的に憧れる英雄譚。
俺のように歳のいった男の英雄譚に、
焦がれる者があるのだろうか。
それでもこの世界に来た意味があるのなら、
与えられた力で出来る最高の事を
したいと考えている。
「コウ殿」
「何だ改まって」
「貴方に訊ねたい。貴方は汚れる覚悟はあるか?」
「もう既に汚れている。生きていれば何かを犠牲にして成り立っている。それから眼を背けているのは理想主義者でしかない」
「卑怯も厭わないと?」
「卑怯が何であるかその時によるだろう。他人の国を乗っ取れと言うなら、それ相応の理由があれば話は別かな」
「解りました。では先ずは私が貴方に対して忠を示しましょう」
そう言うとショウは先に歩く。
俺が追いついて前に出ようとするが、
手で制される。
ここはショウに任せよう。
俺はそう決めて後ろに下がる。
こないだの騒ぎの所為か、
次から次に湧いてくる感じでは無い。
となると不意打ち狙いか。
俺は辺りを警戒する。
しかしショウはまるで脇を見ずに進む。
……何か特殊な能力を持っているのか。
俺は黙って警戒しつつ後ろを歩く。
「コウ殿、少し頼む」
そう言ってショウは脇道へ入って行った。
警戒しつつ待っていると
「待たせた。こんなものがあったがイマイチだな」
と俺に金の塊を見せてきた。
「いやいやそれ結構値が張るんじゃないか?」
「もう少し多ければ人を多く雇えたろうが、この程度なら大した力にはならない」
「でも流通に金貨が使われている以上低くは無いんじゃないか?」
「コウ殿、金貨を何度触った事がある?」
そう問われて俺は腕を組んで考える。
そう言えば金貨10枚とかでも、
豪勢に過ごせる事を思い出す。
そう考えれば一般に多く流通しているかと言われれば、
それは無いな。
「そう言えばそんなに多く触った事は無いな」
「この金でもある程度金貨を生成できるが、それよりもある程度見立てて何かと等価交換した方が役に立つ。そう言う意味では一つに対しては有効でも、数多くとなると分配する為に金貨などに変える。だが変えると価値は下がる」
「産出量も多くないってことか」
「そうだな。俺の知る限り人の欲が働けば争いになる。国によって違うが、ある国では国で金を掘るようにしている所もある」
「良い事を聞いた。物々交換の変わりにこういう代替がある訳だし」
「そう言う事だ。価値観は人によって違うが、その判断基準を解り易くする為の仕組みが貨幣だ」
「ショウは経済にも明るいんだな」
「まぁ種族的に生き延びるにはそう言う事も知らねば生きられない」
なるほど。
ショウが見てきた闇は
中々深いものがあるようだ。
神々と戦い破れた巨人族。
この世界では生き辛い環境だったに違いない。
俺も生き辛い人生を送ってきたが、
それは自分にも責任があった。
だがショウは違う。
生まれが偶々巨人族の血を引いていた。
それだけで苦い思いをしてきたのだろう。
俺はショウの後に続いて歩き続けた。




