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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
ダンジョン攻略準備編

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男同士サシで飲む酒は、二日酔いになる可能性大

 女性陣は賑やかに食事を終えて、

 城に行くのかと思いきや、

 この冒険者ギルドの2階を間借りしており、

 集団で2階へ上がった。

 オルソン様は一人で給仕をしていた。

 余裕綽々なんだろうけど、

 見ている方が怖い。

 よくこの凄さに疑問を持たないのか。

 そしてウーナも普通に飯を食っているが良いのか。

 とは思ったが敢えて何も無かった事にした。

 恐らく神性が高すぎると、

 その部分はフィルターでカットされて、

 認識されないのだろう。

 人間には直視出来る限界がある。

 脳が理解しきれないものは、

 無いのと同じになる。

 それからすると、俺は良くこの世界に慣れたな。

 全てが理解出来ない出来事なのに。

 ただ不思議とすんなりと受け入れられた。

 今振り返ると引きこもりが、

 生存を掛けた出来事に遭えば

 そうならざるを得なかったんだと思う。

「何を難しい顔をしておる」

 オルソン様に声を掛けられハッとなる。

 冒険者ギルドとは言いつつも、

 ガラガラである。

「ここは何時もこうなんですか?」

「いいや、何時もはもう少し賑やかじゃ」

「人払いをなさったのですか?」

「当然じゃろ。内々に話さねばならん事じゃしな。お主はイマイチ危機感が無いが、お主は名が知れ渡っておる。これから何処かへ行くと言う話が他から漏れれば、我先にと乗り込んで行く輩も居るじゃろうて」

「なるほど。それは面倒ですね」

「……もう少し身の回りをしっかりせんとな」

「色々苦難を乗り越えてきましたけど、そう言う面で苦労した事はそう言えば無かった気がします」

「なら次はそれで苦労するであろう」

「予言ですか?」

「いいやこれは単なる爺の勘じゃよ」

 主神の勘とは一体何なんだろうか。

 考えるだけで恐ろしいので考えない事にした。

「で、お主なら例えば我先にダンジョンへ抜け駆けしたものが居るとする。その一行か一人が死に瀕していたとしたらどうする?」

「そうですね、自分のパーティが余裕があれば助ける事を一応考えます。ですが基本は自分のパーティのメンバーの安全が第一です」

「パーティのメンバーが助けるよう言ってもか?」

「はい。感情的に助けるのは人の善の行いですが、俺はパーティリーダーとして善行を積むよりも無事帰還する事を第一に考えています」

「わしにその様な答えを言っても良いのか?」

「ええ構いません。優先順位をキッチリさせておかないと、全滅してしまいます。特にこれから先は」

「人の命は尊いものじゃ」

「そうです。だからこそ自分の命を大切に出来ないものが、人を救おうなどおこがましいのです。我々は神ではありません。出来る事には限度がある。だからこそ出来る事の中で優先順位を付けなければなりません」

「命の順位か」

「本来なら正義然とした答えを望まれているのかもしれませんが、申し訳ありません。俺には小奇麗な者に成れません」

 オルソン様は腕を組んで呻っていた。

 まぁ難しい問題だから。

 神でも人の命を救ってはいない。

 救おうと思えば全て救える可能性は、

 作られた英雄より遥かに高い。

 それを決まりだから救わないというのは、

 それも順位を付けている事に他ならない。

「いやお主の言う事は耳に痛い」

「まぁでもオーディン様ならそう言う言葉を言って良いと思います。綺麗事を言うのも偉い人の役目でありましょうから」

「随分と大人な考えになったものだの」

「そうでしょうか。イマイチ不安定ですが師父達と過ごした日々で、命とはどれだけ体を鍛えようとも、儚く一瞬で消える可能性があると知りました。だからこそ生きている間は精一杯生きる事が大事だと教えられました。その教えは真理の一つだと考えています」

「ホッホッホッ。真理を一つ得たのなら、あの大陸での事は役だったのだな」

「はい。散って行った命の分まで生きなければなりません。無様であろうと汚れようとも」

「ならその生き様を見せてもらおうか」

「ええ、師の期待を裏切るような事の無いよう精一杯生きます」


 俺とオルソン様はグラスを鳴らす。

 そして杯を重ねる。

 暫く葡萄酒を楽しんでいると、

「コウ殿お待たせしました」

 ザルヲイが戻ってくる。

「随分早いな」

「ええ、何事も迅速にと言うのもありますが、竜の活動時間帯だったのが良かった。各自情報収集に当たらせています」

「それは有り難い。しかしダンジョン入門の講師をどうやって探すんだ?」

「御心配なく。クロウディス王にも夜分ながら御対応頂きましたので。明日の朝にはご要望のものは全て整う手筈になっています」

「陣頭指揮を取らなくても良いのか?」

「ええ、それも問題ありません。具体的な指示はコウ殿から頂いてますし、私が指示するのは更に噛み砕いたもので。且つ要望以上のものを目指すように伝えるだけですから」

「……ザルヲイは残念だよね」

 俺は隣に腰掛けるザルヲイにそう告げた。

「何です藪から棒に」

「護衛役で来た提で実は文官だったんだ」

「まぁ今さらですが。自惚れと取って頂いても構いませんが、普通の人間に我らが劣るとは思えませんし」

「護衛程度なら神官でも務まると」

「はい。一応竜ですから」

「でもその所為でバレちゃったから残念だなーと」

「……言い返せませんね。楽な仕事だと思ったんですが」

「中々人間も侮れないでしょ」

「そうですね。勉強になりました」

「アルブラハさんも意地が悪い」

「そう思いますよ。あの方も旦那に負けず劣らず意地が悪い」

「……ザルヲイは旦那と殿はどっちが本当?」

「そうですね。殿の時は仕事、旦那と呼ぶのは生まれです」

「育った環境が中々ハードだったのかな」

「ええ。見ての通り竜人族の中でも小柄です。階級的にも最下層に近い。ですんで若い頃はそりゃまぁ無茶したもんです。劣等感の塊でしたし」

「それは俺と近いな」

「そうなんですか?」

「まぁね。人に勝る事が何も無かったからね。皆俺より凄くて恵まれていると思った。滅んでしまえば良いとか」

「道理で旦那とは親近感がある訳だ」

「そうだな」

「二人とも何を飲むかね」

「じゃあエールを下さい。二人分」

「それで」

 葡萄酒からエールに切り替える。

 ちゃんぽんで悪酔いしないか心配だったが、

 それでも飲みたい気分になった。

「改めて乾杯」

「乾杯」

 俺とザルヲイはガンッと杯を鳴らす。

 オルソン様は奥に下がってしまった。

「フッハァ!美味い!」

「巧いよねぇこれは」

「ホントに。竜人族はこういう細かい所が凄く苦手な種族なんです。だから基本的に輸入に頼ってます。それなのに体格で劣る者を下に見るとか何様何だと」

「それは荒れるねぇ」

「ですよね?なもんで場数は日に日に増えて行って、腕に覚えが出来る訳ですよ」

「からの強い人にあった」

「そうです。運が良いのか悪いのか、アルブラハ様が一人で現れて。俺に勝ったらついてこいって」

「アルブラハさんらしい」

「でしょ?ホント真っ直ぐで曲がる事を知らないんだあの人は」

「それっぽいね」

「そうなんですよ」

「そんなに綺麗なもんじゃないでしょ生きるって」

「ええ」

「綺麗な事を言える人ってのはさ、地べたの事なんか知らなくて済む人達だと思う」

「旦那毒吐きますね」

「そりゃお酒も入ってるし、近い境遇の人が居れば毒も吐くよ。女性陣も居ないからさ」

「旦那の所帯は女性陣が多いですからね」

「そうなんだよー!まさか女性陣に向かって不満タラタラ言えないじゃん!?」

「確かに」

「ていうのは建前でさ、カッコつけてるだけなんだけどね」

「解ります」

「男としてはカッコつけたいじゃない?まぁカッコついてるとは思わないけどさ。そっちはどうなの?」

「竜人はさっき説明したみたいに親から生まれるのみです。竜以外の種族が抱く恋愛感情ってものがありません」

「それはまた」

「でも世界を色々見ていると、それが無くてあっし自体は良かったと思いますよ。面倒事も無いし」

「神官になって割りきったのか?」

「割り切るしかないでしょうね。対価としての能力や寿命ですし」

「生まれも育ちも選べないけど、環境を改善する事は出来るんじゃないのか?」

「旦那は何が言いたいんで?」

「いや何。まだ先の話だけど、色々な人と仲良くしていこうと思って」

「……心に留めておきましょう」

 こうしておっさんと竜人の夜は更けていく。

 そして翌朝二日酔いになったのは言うまでも無かった。


 

 

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