意外性も時と場合による
来た道を戻り、
落ちて来た穴を見上げる。
よじ登るのが一番確実かな。
狭い穴は何処にも繋がっていなかった。
抜け道でもないか押してみたが、
特に何も反応なしである。
下に降りるよりも、
上によじ登る方が危険は少ない。
それに皆と合流しないと。
俺は覚悟を決めてよじ登る事にした。
ロッククライミングはテレビで見た事があるが、
あれはスポーツである。
ここは文字通り絶壁。
黒刻剣を突き刺すには、
どうしても動きが大きくなりすぎる。
となるともう一つの相棒に手伝ってもらうか。
黒隕剣を引き抜く。
相棒、取り合えず突き刺して足場とか確保できたら、
剣身を仕舞ってくれ。
――
あれ、返事が無い。
相棒が止まった。
これはヤバイんじゃないのか!?
通常の剣とは一線を画している、
意思がある剣だ。
となると風邪でも引いたのか!?
具合が悪いのだろうか。
リードルシュさんに診てもらわないと!
―違う―
おぉ返事があった。
相棒辛かったら言ってくれ。
リードルシュさんに診てもらうから。
―残念ながらそれは無理な相談だ―
え?生みの親なのに?
―女神も言っていただろう。我は気まぐれの産物であると―
長い時を掛けて辿り着き、意志を持った剣。
リードルシュさんの鍛冶師としての力と、
フリッグ様の幸運により誕生した。
―思い出せ、我は最初の形態とは変化している―
そっかぁ……それだとリードルシュさんに
見てもらう訳にはいかないか。
となるとどうやって修復すれば良いんだろ。
―それは問題無い―
と言うと?
―我はお前と一心同体だ。お前の生命力で回復出来る―
それは有り難い。
となると何時も生命力を
漲らせてないとダメかな。
―その必要は無い。何もしない時に少しずつ備蓄している―
節約かだな。
―それよりもこの状況を打開する策はあるだろう―
どんな策がある?
―お前は忘れていないか。暫く使っていなかったものを―
ん?
……ああ。
そう言えばブロウド大陸の時に魔法を使っていなかった。
あっちでも使えたが、あまり機会が無かったっけ。
ならいっちょやってみますか。
俺は黒刻剣を引き抜き、
穴に飛び降りて、下へ向かって
「神の息吹」
と唱えながら黒刻剣をかざす。
重力と風の流れに逆らいながら、
一気に登って行く。
ただこのまま放ち続けると、
天井に突き刺さるかそのまま外へ飛び出すかの
ニ択になってしまう。
上を窺いながら、
「おっしゃ!」
穴を通り過ぎた所で黒刻剣を振り、
魔法を解除して降り立つ。
「おかえり」
そこには皆がいた。
「お待たせ!」
俺は笑顔で皆に言う。
ジッと俺を見ている。
「悪いな心配させて。何も無かったわ」
俺はカラカラと笑いながら言った。
「やっぱそう都合よくはいかないか」
「仕方無かろう」
「まぁ何かあったらラッキー程度だったし」
「コウ様が無事で何よりですわ」
「コウ殿御帰りなさい」
「おっちゃん御帰り!」
「……待ってた」
「コウ、無事か?」
「旦那、待ちわびましたよ」
場の雰囲気が華やかになる。
パーティリーダーとしては
何とか良い方向に向かわせる事が出来た。
「ごめんごめん。ほいじゃ一旦出ようか」
「探索は良いの?」
恵理は心配そうに尋ねてくる。
少しは心配掛けたらしい。
「良い良い。寧ろ問題点が見つかった」
「何だそれは」
ファニーは心配そうになっている。
「いや俺もパーティリーダーとして未熟だし、ダンジョンとなると今までとは勝手が違うからさ。そこで首都の冒険者ギルドでダンジョンについて勉強しない?」
「確かにそれは良い案だと思うわ。私は賛成」
アリスは真っ先に賛成してくれる。
パーティを考えると最善だと思ってくれたのだろう。
「我も賛成だ。ここは我らの備蓄を増やす為にも、確実にダンジョンで収益を得なければならん」
ファニーも同意してくれる。
師父が見たら喜ぶだろう。
「私も闇雲に歩くよりは賛成。これでも一人で洞窟に潜った事があるけど、やっぱり知識があるのとないのとじゃ、手間が違うわよね」
「リムンもハクちゃんも賛成だのよ!」
「……うん」
恵理は何気にチャレンジャーである。
これは適正があるかもしれない。
嬉しい誤算だ。
それとリムンとハク可愛い。
仲良しさんになってるじゃないか。
お互いに年が近い冒険者なんて居なかっただろうから、
仲良くなるのも早いのだろう。
母親も空から見守っているというのも、
二人が親近感の沸く所だろうし。
「私もダンジョン用に高度な解毒などを習得致しますわ」
「私も出来れば鑑定術などを身につけられれば」
ウーナとプレシレーネは、
お互いが取得するのに良さそうなものを
チョイスしていた。
うんうん、やっぱ俺が決めるよりも、
皆に聞いた方が早いわ。
俺が何でも知っていて一番である必要は
ミジンコほども無い。
何かの分野でスペシャリストになってもらえれば、
皆持ちつ持たれつになって良い。
誰かが一方的な負担になるのは、
パーティとして宜しくない。
「じゃあ旦那、方針が決まったならさっさと御暇しましょう。長居すると面倒が起きますから」
「そうだな。じゃあ皆引き上げようか!」
「おー!」
「ビルゴ先頭を頼む。皆はビルゴに続いて入口まで進もう!」
「はーい!」
引率の先生になった気分である。
俺は殿に残り、奇襲を警戒しつつ入口まで進む。
洞窟を出ると女性陣はキャッキャしている。
笑顔が溢れるのは良い事だ。
「旦那、後6日で何とかなります?」
ザルヲイが小さな声で問う。
「さてどうかな」
「旦那……」
咎めるように言うザルヲイ。
そりゃ人が覚える事だから、
6日で何とかなるかと言われても、
はいそうですとは答えられない。
「そう言うからには手を貸してくれるんだろう?」
俺は意地悪そうにザルヲイに尋ねる。
「本気ですか旦那」
「シンと違ってザルヲイ達はこの国でも自由に活動で来ている。と言う事は何かと都合がつくのかなと思って」
「……旦那は怖い方ですね」
「それ前も言われたけど、普通だと思うよ」
「そうですか。まぁ旦那に頼られたら無下には出来ませんね」
「うちのパーティが成長すれば、そっちの面倒事が片付く確率も上がると思うんだけど、どうよ?」
「どうよって言われても。その通りですねとしか」
「と言う事は何とかしてくれると言う事かな?」
「仕方がありません」
「それは嬉しい。で事のついでなんだけど」
「この際です、承りましょう」
「ザルヲイは職業何なの?」
「……単刀直入ですね」
「探り合っても仕方ないし」
「そうですね。私はお察しの通り竜族の神に仕える神官です。ただ内密にして下さいね。そういう身分が高めなのがウロウロしていると、面倒が多いので」
「解るつもりだよ。俺も面倒な身分になってるから」
「有難う御座います」
「じゃあパーティの戦力として計算させてもらうから」
「……何と言うか驚かせ甲斐がないと言うか」
「パーティでダンジョンに潜るのに、意外性はトラップ以外要らないから」
「御尤も」
俺はそう言って皆の後を追う。
残り6日。
どこまで準備できるか解らないけど、
やれるだけやってみよう。




