悟りを開いたようだと自分が言うと大抵程遠い
「さてさてお宝発見」
洞窟を隊列を整えて進んでいく。
脇道の奥に宝箱発見。
ブルームと探検した事が懐かしく思える。
ダンジョン探索班としてブルームみたいな、
特化した人物が欲しくなる。
今のパーティは言わば脳筋である。
リムンとハクを覗いて技能は力に傾いていた。
かといってここで急造のシーフや
トラップ解除専門の技術を身に付けても、
焼け石に水ならまだ良いが、
浅知恵が危険を招く事もある。
なのでここは出来るだけの事をしよう。
「えいや」
俺は近くにあった石を掴んで宝箱の、
鍵の部分へ投げつける。
バカッと音を立てて空いた。
ミミックではないようだ。
そして仕掛けも無し。
俺は石を探して幾つか掴み、
宝箱の周りへランダムに投げる。
取り合えず他の仕掛けも無い。
「皆ちょっと待っててくれ」
俺は慎重に中に入る。
万が一でも俺一人なら逃げられる。
そう考えて入ったのだが、
「え、何で」
俺の後ろに列車ごっこのように、
皆前の人の腰を掴んでついてくる。
何これ。
バンジーでも始まるのこれ。
こんな頼りない紐無いわ。
いやひょっとして
突き落とす感じかこれ。
何してんのマジで。
「み、皆俺一人なら何とかなるから一旦下がろっか」
振り向いて笑顔でそう言うが、
誰一人として聞いちゃいない。
俺は溜息を吐きつつ
「下がれ」
笑顔は崩さずもう一度振り返って言う。
今度は真剣な顔をして首を横に振った。
えー。
何がどうなったらこんな事になるのか。
ただもうここに時間を取られる訳にはいかない。
「解った。解ったから一旦手を離してくれ」
「良いの?」
リムンとハクを自分にしがみ付かせ、
俺の腰を掴んでいる恵理はそう言う。
俺は頷く。
そして手を離した後一歩踏み出したら
「うぁああああ」
何処かの掲示板のアスキアートのような
感じで俺は落とし穴に落ちていく。
え、何で?
「ゴメーン横に何か書いてあ」
落ちていくなかで、
明らかに謝って無いトーンで言う恵理を、
絶対戻ったらシバキ倒すと念じながら
俺はどうするか腕を組みつつ落ちている。
アイツマジで子供以外に容赦ないな。
そこら辺もうちょっとどうにかならんもんかね。
などと考えている場合じゃない。
下を見ると底が見えない。
見えたら次の瞬間足を折ってそうだ。
「はぁっ!」
俺は気を発して構え、壁へ拳を叩きつける。
生憎と超人じゃ無いので、
腕一本突き刺しただけでは腕が外れる。
拳を更に叩きつけて壁に固定し、
壁を蹴って落下速度を相殺した。
俺は一息吐くと、
耳と鼻で状況を確認する。
風は多少流れてはいるが、
生温かい。
ダンジョンと言う閉め切った状況での
生温かさとは少し違う。
匂いも何か温泉卵の匂いがする。
これで温泉卵工場だったら笑える。
幾らうちのメンバーがオチャラけているとは言え、
まさか。
俺は小さく笑う。
が笑ってる場合では無い。
上に戻るか下へ行くか。
クリア目的なら下へ行く。
だけど今回はそうじゃない。
俺以外のメンバーがどういう役割で
ダンジョン探索をするか見極める為の探索だ。
なら戻る。
でもどうやって戻るんだこれ。
まさか忍者よろしく壁を走るのか。
マンガじゃないんだから。
んなこと出来る訳がな……
ああ出来そうな人いたなそう言えば。
となると出来る提で走ってみるか。
俺は勢いを付けるべく息を吸っては吐きを
繰り返しつつ体を揺らす。
何度か揺り返した後腕を勢いよく引き抜く。
「何してんの?」
その声に振り返る。
「それはこっちのセリフだぁあああああ」
俺はまたしても落下していく。
アリスの奴わざとやったな。
確信犯だ。
間違いない。
なんだってこう良識ある者が居ないのか。
皆オチャラけ過ぎだわ。
人が必至こいて駆けあがろうとしたのに。
したのに!
この有様だよ!
俺は頭にキたが、もう一度壁に拳を叩きつける。
ホントイラつくわぁっ!
マジでオチが温泉卵工場ならシバく!
考えた奴もシバく!
俺はイライラを募らせつつ、
今度は辺りを見回す。
アリスは結局追いかけてこない。
何なんだ一体。
てかもう解ったから驚かない。
無視して壁を走り続けてやる。
そうすれば元の所へ戻るだろう。
師父達に鍛えられた足腰は伊達じゃない!
俺はさっきと同じように体を振り、
勢いを付けて壁を駆けあがる。
気を纏い足に集中させる。
前屈みで足で壁を掻くように走る。
お!?
これは行け
「るわけがねぇ!」
マンガじゃないのである。
少し進んだものの、
結局重力に逆らえる訳ではない。
超人では無い。
師父達ならやってのけそうだが。
まぁこうなったら緩やかに降りるしかない。
落ちながら俺は下を見つつ、景色が出たら、
直ぐに壁に拳を叩きつける事にした。
だが長い……。
まだ底につかないのか。
どんだけ長いんだ。
「どうする?」
アリスが追いついて来た。
「それ聞く必要ある?」
「あるわね」
「……助けて下さい」
「何?」
マジでイラつくわ。
「助けて下さいお願いします」
「心が籠ってないからどうしようかなーこのままほっとこうかな―」
全く子供か。
師父の教えは何処へ行ったのか。
ああ、そう言えば俺もそうか。
偉そうな感じになってたかもな。
「アリスさん助けて下さい」
「やっぱ止めた」
おい。
マジでかおい。
前言撤回だ。
コイツら性質悪い!
「ふざけんなコラァぁあああああ!」
ニヤつくアリスを見上げながら、
俺は真っ逆さまに落ちていく。
ホントいっぺん真面目に説教しなきゃダメだ。
おっさんをオモチャにして良いのかどうか。
そこをいっぺん問い詰めたい。
小一時間どころか半日掛けて問い詰めたい。
落下しながら俺の脳裏には、
色々な出来事が浮かんでいた。
師父達の笑顔も浮かんでくる。
ホントスンマセン。
どうもアイツらと居ると調子が狂うと思ったけど、
よくよく考えれば感情をしっかり出せるのは、
アイツらが居る時だけだなと思った。
良い感情も悪い感情も全て。
そう考えると戻ってこれて良かった。
でも落ちるまでそう思えなかったとは、
やはり俺は偉ぶっていたのかもしれないな。
反省しなければ。
そしてアイツらも反省しなければ。
俺は何処か納得がいかない思いをしつつも、
着地を無事に出来るよう願っていた。




