どっちがモンスターなのか解らない。
わーい。
どうしようこれ。
何しに来たんだっけここに?
「旦那どうするんですかこれ」
横に居るザルヲイは
ゲンナリした顔をしている。
竜人も色々な顔をするんだ、
などと現実逃避していると
「コウ、どうにかしないと危険じゃないか」
「え?どっちが?」
ビルゴも横にいて聞いて来たが、
どっちが危険なのか。
この洞窟かそれとも住んでる魔物なのか。
「うぉりゃあああ!」
解り易い叫び声が飛んできた。
もうこの一言を聞けば凄惨な有様を
頭に描ける辺り、俺の脳も成長したな。
「悟り開いてる場合じゃないですよ旦那」
「コウ、放置しておくのか」
そうねー。
放置しとかないと、俺の身が危ない。
「ちょっと旦那聞いてるんですか?」
「聞いてる聞いてるー」
「聞いて無いではないか」
「いや聞いてるって。二人ともそんなに暇なら俺の変わりにあれどうにかしてくれる?」
「何責任放棄してるんですか旦那」
「そうだ」
「いやビルゴはそうだって言っちゃダメだろ。リムンと恵理はそっちの管轄じゃないのかねチミ」
「チミとは何だ。リムンは確かにそうだが、恵理はお前の管轄だろう」
「えー。リムンの面倒見てるっじゃーん」
「旦那口調が可笑しい」
「そうね……」
しかし参った。
この状況を何と例えて良いのか。
文学的センスの無さよ。
「いや旦那、何を思って手を広げてるのか解りませんが、とっとと収拾して頂かないと洞窟が」
「そうだ。何とかしてくれ。恵理はリムンと同じで娘みたいなものだ。ここで俺が出て言ったらとばっちりを食う」
「え、俺もとばっちりを食うじゃない」
「「自業自得」」
えー。
何で俺だけそんな扱いなの。
参ったな。
ブロウド大陸の時は寧ろ俺がなってないって
怒られてたのに。
どうやって収めたものかな。
「旦那危ない」
ザルヲイとビルゴが少し横に動く。
俺は二人をチラッと見た次の瞬間、
ゴッという音と衝撃波が俺の横顔で鳴る。
岩が顔にあたり、顔だけ流された。
「あっぶね!」
俺は一瞬飛びかけた意識を戻して、
岩を横へ動かし態勢を立て直す。
てか何で岩が飛んでくるの!?
可笑しくね!?
しかもエライ音したよ!?ゴッて!
どういう仕組みだこれ!
「お前らいい加減にしろ!」
俺は精一杯怒鳴ってみたが
「旦那、怒鳴り慣れてないから届いてませんよ」
冷静にザルヲイは報告する。
そりゃそうだ。
怒鳴るより怒鳴られる方が多かったっつーの!
おっさんだからね?
職歴無い無職で引きこもりのおっさんだからね?
何処に他人を怒鳴る要素があるのかと。
何処に怒鳴られない要素があるのかと。
小一時間問い詰めたい!
というかブロウド大陸編でのシリアスな俺が死んでいく。
音を立てて死んでいく!
コイツら俺のシリアスチックな部分を殺しに来てる!
「よし解った。キレるわ」
「旦那何も解ってませんよ」
ザルヲイは一々的確な突っ込みを入れてくる。
これがボケとツッコミの違いなのかっ。
などとボケ倒すのもここまでだ。
これ以上演芸会をしている場合じゃない。
冷静に的確に同行人員を選ばなければ、
死人が出る。
この手は血に汚れているとしても、
最小限で済ませたい。
「はいはい。真面目にやりますよ真面目に」
俺は鼻歌を歌いながら皆が暴れている所へと進む。
恵理の鎌が飛んできたが上半身を倒してかわし、
返りを見て恵理に体を寄せる。
鎌を持っていた手に俺の手を合わせ、
膝カックンの要領で後ろへ引き倒す。
鎌を取りあげ地面に突き刺し先へ行く。
ロリーナが振り上げていた剣を、
これまた横へ体を当ててバランスを崩させ、
踵を軽く足で押して後ろへ引き倒した。
剣を地面に突き刺し、
相対していた魔物の腕を取って放り投げる。
その投げつけた先で暴れていたウーナとファニー。
ウーナは元々手練であるが、
今は暴走しているのでやり易い。
脇腹を掴んでバランスを崩し、
驚いて振り向いた所にメイスを取りあげ、
腕を取って曲がらない方向へ軽く振りまわして倒す。
ファニーはその姿に唖然としていたので、
これまた間合いをあっさり詰めて、
膝カックンして座らせる。
「ちょっ!」
アリスは手を止めていたが、
一人だけ例外は良くない。
俺は掌で鳩尾を軽く撫で、
前かがみになった所に踵へ足を当て固定し、
肩を押して倒す。
「さて皆さん御立ち合い」
俺はそう言って皆に向かって手を広げる。
そして振り返るとそこには騒ぎを聞きつけて
群がってきた魔物が居た。
その魔物たちに向かって俺は歩き出す。
魔物たちも俺のした事に唖然としていて、
前に出てこない。
「どうした?」
俺は手を広げながら迫る。
丸腰とは言えないが、剣を抜いていない。
攻撃し易いだろう?
俺は微笑みながら近寄る。
「テッタイダー!」
魔物のうちの一人の声が聞こえる。
それに合わせて我先にと逃げ出す魔物。
ああ良かった。
これ以上うちのせいで怪我人出しても困る。
「はい皆集合」
俺は笑顔で振り返りフツーのトーンで言う。
他意は無い。
他意は無いのだよ他意は。
皆取り合えず起き上がり俺の前に走ってくる。
宜しい。
憂さ晴らしに暴れるなとは言わないが、
俺に岩を投げつけるのは良くない。
ホントダメ。
そう言いたいところだが、
置き去りにして行った手前そう強くは言えない。
「コウ殿、こちらは片付きましたか?」
実の所リムンは恵理が怖いので、
プレシレーネに付き添ってもらい、
ハクと一緒に洞窟の珍しい植物を探していた。
ハクがリムンが怯えて引き上げてきた所に、
声を掛けて薬草の材料を探す手伝いを頼んでいた。
ホントハクってば良い子!
それに比べてこの年長者どもは。
特に長生きしている者から説教したい。
だけどまぁ俺は説教される側であって、
偉そうに説教するのも何だし、
ここは一つ穏便に事を済まそうじゃないの。
「ああ問題ない。プレシレーネ、二人を有難う。リムンとハクは偉いな」
俺はリムンとハクの頭を撫でる。
ホント良い子達だわ。
ハクは皆が怪我をしてくるかもしれないと思って、
薬草になりそうなものを探していたのだ。
リムンも途中から手伝ったのだが、
見ていた限り結界を巧く使え、
且つ幻術を使用して危険を回避していた。
成長の後が二人とも見える。
そしてプレシレーネ。
良いお姉さんだわ。
年長者として相応しい振る舞いである。
これは俺に出来る事で何かご褒美をあげたいものだ。
「旦那、何一人で頷いてんです?」
「ああ、すまない。成長著しい者と退行著しい者とがこうも解り易くでたんでな。洞窟は素晴らしい……」
「何を浸ってるのか知りませんが、どうするんです採点は」
「ザルヲイ的には?」
「いや旦那に聞いてるんですよ」
「竜の神官の目から見て粗野粗暴な女性陣の振る舞いは如何かなと思って」
「……あっしは神官ではありませんが」
「へーそうなんだ」
俺はカマを掛けただけなので、
当たりでもハズレでもかまわなかった。
前のハオの件もあるし、
当たり障りない所でカマを掛けても良いだろう。
大体あっしとか言う人間が、
背筋を伸ばして足取りも御行儀よく、
抜剣する素振りも見せないのは変だ。
この状況でそれをしないのは、
元々の自分の能力に自信がある奴だけだ。
護衛役なら抜剣しても可笑しくない。
俺の顔に岩が飛んできた時も、
大きな剣を下げているのだから、
護衛役なら叩き割れば良い。
そこを体重移動しただけと言うのは、
本当に危なかったら拳で
たたき割れる自信があるからだ。
あの位置であのタイミングで抜剣しても、
割れた岩で顔面に直撃は避けられない。
この戦乱の世界で素手一本で渡り合うなら、
それは鍛えに鍛え抜かれた者で無ければならない。
となると答えは一つ。
ウーナのような神官。
とまぁ仮説を立てて見たからカマを掛けて見た。
そうならそうで、パーティでの役割も考えるし、
違うなら違うで計算外として考える。
護衛なのに対象に危険が及んでも剣が抜けないなら、
パーティの計算に入れる訳にはいかない。
あ、真面目モードに戻った。
「はい皆取り合えず冷静になったね?憂さを晴らしたね?じゃあここからは前のように隊列を組んでパーティとしてダンジョンを攻略します。意義のある人手ぇ上げて!」
何か小学校の先生になった気分だ。
にこやかにそして優しい口調を心掛けて言った。
リムンとハクは楽しそうに俺を見ている。
二人とも友達が増えて良かったね。
「はい!異議無しって事で早速隊列を組みます!ロリーナアリスが前衛、右ファニー、左ウーナで最初行きます!次は交代でファニーウーナが前衛ね」
「えー!?」
「何か?」
俺は務めて優しく言った。
ひょっとするとこめかみのあたりに
血管が浮き出ていたかもしれないけど。
取り合えず不満タラタラで
隊列を組み直す。
やっとこさ本番開始かな。
でもまぁこのメンツで真面目な空気が何処まで持つのか。
仲間ハズレは嫌だろうから全員連れて行きたいけど、
ザルヲイの目に適わなければ連れてはいけない。
皆頼んだぞ。
俺はそう願いつつ、殿を務めて洞窟を進んでいく。




