再会からダンジョンへ!
「お久しぶりー」
寝室を出た後にザルヲイに案内されて、
皆が集まっている部屋に軽いノリで入った。
しかしそこは怒号飛び交う騒乱の真っただ中だった。
「何ですって!?」
「何よ!」
アリスとロリーナは取っ組みあってるし、
ウーナとファニーは何やらボソボソと、
眉間にしわを寄せて冷戦を繰り広げている。
唯一まったりしているのは、
ビルゴとリムンそのリムンを抱えている恵理、
プレシレーネとハクだけである。
何なんだ一体。
「あれ、帰って来たんだ」
「おっちゃん御帰りだのよ」
「コウ、久しぶりだな」
「コウ殿お久しぶりです」
気付いてビルゴとリムンに恵理、プレシレーネは
笑顔で挨拶してくれる。
恵理の悪態は相変わらずだけど、
この騒ぎに動じていないのは慣れなのか。
ハクは席を立つと、
近くにあったポットの様なものから、
何かをカップに入れてくれて俺の席であろう
空いてる所に置いてくれた。
そして椅子を引いて俺が座るのを待っている。
何かスゲー座り辛い。
でも座らないとハク立ちっぱなしだし、
話も進まないので溜息を吐きつつ座る。
「ビルゴとリムンは何をしてたの?」
「俺達は首都で仕事をしていた」
「そうだのよ。あたち少しレベルアップしただのよ」
「そっか。プレシレーネはずっと首都に?」
「いいえ、暫く首都に居りましたが、その後街に戻って鍛冶の修行をしていました。まだまだ色々と学ばねばならぬ事が多いので」
「お店はどう?」
「はい。実は仲間が何人か来てくれて、お店を仕切ってくれています。私のように表の世界で学んでいる者も多くいまして」
「そうか、それは何よりだ」
「何で私には聞かない訳?」
「どうせリムンの御守りしてたんだろ?」
「それだけじゃないわよ。アタシも一人で腕を磨いていたんだから」
恵理中々やるな。
4人と言葉を交わしつつ、
暴れている方をチラチラ見ていた。
さてどうすっかなこれ。
変に言葉を掛けると藪蛇になりそうだ。
「で、実は帰ってきてそうそうなんだけど、次はダンジョン探索しに竜人達の大陸に行ってくる」
「クロウディス王から聞いている。今回は俺達も連れて行ってくれるだろう?」
「だのよ!」
「いやでも竜人達の国でダンジョン探索だけで終わるかどうか解らない」
「この大陸でも同じです。前回は事情が事情でしたので我慢しましたが、今回は同行させて頂きます」
おう……プレシレーネさんも何か怒ってらっしゃる。
俺は頭を掻く。
その際に横に立っているザルヲイに
視線を向けたが、手を後ろで組んで
直立不動である。
なるほど、余計な事には関わらないってことか。
どうしたものか腕を組んで考えている。
竜人達の里へ行くのだから、
敵も並大抵な強さじゃないだろう。
ブロウド大陸とは事情が違う。
あっちは国の大事が先にあったからこそ、
必要最低限の人数で乗り込んだ。
今回の場合国の大事ではあるけれど、
大規模戦では無い。
となると何が肝か。
やはり強さが問題になる。
単純な力の強さなら竜人が上だ。
それ以外の力が必要になる。
例えばハクは薬剤の知識、
リムンは結界も張れるしので
二人とも将来性もあって当確。
そしてビルゴもドラフト族最強の戦士であるから
これも当確。
問題はそれ以外の人選だよなぁ。
俺もブロウド大陸で師父達の鍛錬が無ければ、
恐らくダメだったと思う。
アルブラハさんが自分達の大陸を優先しないで、
ブロウド大陸を先にしたのは、
もしかすると俺の伸びしろに期待したのかもしれない。
そう思おうとアルブラハさん恐るべしだ。
「ザルヲイ、アルブラハさんひょっとして英知の竜だったりする?」
「そうですね……竜人の個体の中でも上位の存在です。それが国を思って精進してました。結果色々な事を慮れるようになったと聞いています。英知の竜から生まれたと言うならそうですが、英知の竜から生まれたと言っても子が英知を得られる訳ではありません。それは人間も同じでしょう?」
「納得だ」
「旦那の聞きたい事にそうかそうでないかを答えるなら、そうだと思います。旦那の力は決め技さえ出せれば敵うものは居ないでしょう。なんでそこまでお膳立て出来れば問題ありません。ですがそれ以上に成れる機会を望めるなら、という事です。また外交的な利点も思惑にあった事は間違いありませんね」
「的確な答えを有難う」
うーん。
ザルヲイも体格は小さいものの、
ただの警護役ではない。
アルブラハさんの信を受けてきたのだから、
当然の結果か。
と言う事はブロウド大陸では、
俺の成長を見込んでこうした方が良いとか
あまり言わないでいてくれたんだな。
そう考えるとこそばゆい。
しかも最後は援軍まで準備してくれて、
フォローしてくれた。
竜人恐るべし。
俺は溜息を一つ吐く。
全くそれに比べてうちの竜は……。
未だに冷戦を繰り広げているのだから、
どうしようもない。
まぁでもこのままにしておくわけにはいかない。
「はーい皆席について」
俺はパンパンと手を叩いて促す。
まぁ勿論聞いちゃいない。
そんなんで大人しく聞く様なら苦労して無い
と断言しても良い。
「黙らないと全員置いて行きまーす」
ボソッと言うと、
ロリーナとアリスは席につき、
ファニーとウーナは咳払いをして大人しくなる。
困った。
全員行く気満々だな。
さてどうしたものか。
あまり人数が多くなっても、
ダンジョンで身動きが取れないかもしれない。
となるとやっぱりダンジョンに潜って
一度皆の動きを見てみるか。
「ビルゴ、この近くにダンジョンある?」
「あるが」
「ならそこへ行こうか。皆がどれ位なのか見せてもらう」
俺がそう言うと、皆勢い良く立ち上がる。
あれ素直に立ち上がった。
しかも無言とか怖すぎるんだけど。
一体何があったのか。
俺は唖然としていると、ハクに袖を掴まれた。
「ハク、ハクは連れて行くから大丈夫だ」
そう言うとハクは嬉しそうに笑う。
しかし玉藻さんと空の上で会えなかったのは、
やはり妖怪だからだろうか。
でも何か痒い所に手が届かない、
ムズムズした感じがするのは気の所為なのだろうか。
「旦那、早くいかないと」
ザルヲイがそう小さく俺に声を掛けた。
「ああそうだな。ハク、行こうか」
ハクの頭を撫でながら、
俺は皆の後を追う。
ここ最近シリアスモードが長かったせいで、
俺はこの後エライ目に遭うのだった。




