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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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ブロウド大陸終幕

 ダメだ。

 ダメだダメだダメだ。

 アイツらは異常だ。

 何故殺し合わない。

 何故まだ力があるのに負けを認める。

 あの世界はなんなんだ。

 意味が解らない。

 こうなったら奥の手だ。

「ハオ、何処へ行く!?」

 同志に引きこんだ者達は、

 どいつも大した事ない奴ばかりだ。

「公主を狙う。今なら公主を確保して俺達がこの国の主になれる」

 ごくりと唾を飲む音が聞こえる。

 この段階に至って何とも弱気な奴らだ。

 まぁ数合わせに使えればそれで良い。

 公主を捕らえる事が出来るまでの辛抱。

 俺がこの大陸を牛耳れれば、

 用済みの連中だ。

 急げ。

 急げ急げ。

 アイツらは異常だ。

 バレたらあっと言う間に追いつかれる。

「早く来い!アイツらにばれるぞ!」

「あ、ああ」

 何と言う頼りない連中だ。

 能力も低く金魚のフンのようだ。

 俺についてこなければ

 陽の目を見る事も無かったのに。

 まぁ俺に利用されるしか価値が無い

 から仕方が無い。

「ウンチャンを探せ!玉藻の居た城とその周辺を!」

 俺はそう指示して駒を動かす。

 散り散りになる駒達。

 恐らく公主の周りには、

 コウの息が掛かった者がいるだろう。

 しかし数で勝るこちらが有利。

 仮に追い込まれた所で、隠し玉がある。

 俺が長年温めてきたとっておきが。

「ぐあああ」

 ウンチャンの玉藻が居た城の近くで、

 駒が一つ吹っ飛んでいた。

 良し良し釣れた。

 あそこにいるのか。

 待っていろよ公主。

 今お前を俺のものにしてやる。

 俺は胸躍らせながら走る。

 最初の手はダメだったが、

 この手ならこの国を手に入れられる。

 コウの隠し玉を意のままに操る事が出来れば、

 俺の勝ちだ。

 何事も無かったかのように元の位置にいて、

 何事も無かったかのように俺の国に出来る。

 その為に俺はずっとずっと皇帝と公主の側にいて、

 機会を窺っていたのだ。

 代々受け継いできた能力の結晶。

 皇帝が忘れてしまった能力。

「お前か……」

「ハオ!?」

「やっと出てきた訳ね」

「何がですか?私は姫を迎えに来たんです」

「気付かないとでも思ったのか?お前は私達に対して解り易いように”姫”と呼んでいた」

「そうよね、変よね。この国では姫の事を公主と言うのに」

「……フン。貴様らもアイツと同じように鼻が利く訳だな」

「まぁ事前に手紙を貰っていたしね」

 髪を両端で縛っている女が紙をヒラヒラサさせている。

 なるほどそう言う事か。

 だが詰めが甘いな。

「貴様らだけで何が出来ると言うのだ?」

「アンタは何するつもりなのかしら?」

「知れた事よ。シンを盾にこの国を牛耳る。そして裏から支配するのだ」

「……そんな事が出来ると思ってるのか?」

「出来るさこの珠でな」

 俺は小娘達の挑発に乗ってやる事にする。

 蓄積した魔力ならこの3人を操る事も出来る。

「何その禍々しいの」

「これは魔力を貯め込んだ宝珠だよ。例え一代で成らずとも、何れ蓄積されれば成す事が出来る」

「お前は一体何者だ」

「何者か当ててみろ」

「知らないわよアンタなんて」

「つれない事を言うじゃないか。まぁ良いさ教えてやる。俺は最初にこの大陸に潜り込んだ魔族だ。人と交わり代を重ねて今時と力を得たのだ。皇帝にあの力が生まれたのは、俺の実験の失敗による。ただ嬉しい誤算だった。アイツはそれに気付かず無自覚に力をまき散らしてくれた」

「思い通りに事は運んだのかしら?」

「そうだ。将を射んとするならば馬を射よだ」

「皇帝もコウもお前ごときにはやられはせんからな」

「その通り。だからこそ俺は俺の得意分野でアイツらを出し抜くんだ」

「次の手は何かしら」

「お前達を拘束し傀儡とする。皇帝は俺の刷り込みによってシンの母親を幽閉した。あれを死ぬまで幽閉しておけば俺に憂いは無い。コウは善人だ。無辜の民衆を殺せはしまい」

「確かにあ奴は甘いからな」

「皇帝も同じよ。今頃アイツは己のした事の罪悪感に苛まれている事だろう。そして娘を人質に取られればアイツも無力化出来る」

「たかが上を抑えた程度では10年の平和も無いでしょ」

「ふん、その事か。お前達は皇帝リュー以前にこの大陸に紛れこんだのが俺だけだと思うのか?」

「数としては大した事ないでしょう?」

「今戦乱によってこの国の純粋な人の兵士は疲弊している。数ではお前達が勝ろうとも、力は俺達だ。皇帝をそそのかしてこの大陸から神秘を消した事で、魔族に対抗出来るものも居ない。どうする?お前達は完全に手詰まりだ」

「まともな人間ならな」

 俺の背筋が冷たくなる。

 鳥肌が立ち震えてきた。

 馬鹿な……あの戦いでアイツらは消耗しきっていた筈だ。

「シン……久しいな」

「父上」

「シン、お待たせ」

「母上!?」

 馬鹿な。

 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!

 シンの母親を連れて皇帝とアイツが何故ここにいる!?

 ここからあの場所まで馬で急いだところで

 まだ数時間余裕がある筈。

 しかもシンの母親が居ると言う事は、

 首都へ一旦行っている筈だ。

 何処で間違えた!?

 あの戦いの趨勢を見極めてから動いたのが失敗か!?

 欲を掻いた所為か!

「お前に言った筈だがな。シンの母親を助けると」

「聞いた」

「なら別に驚く事も無いだろ。師父はちゃんと計算してお前を泳がせ、別の兵にシンの母親を確保するよう指示していた」

「……クッ」

「ちなみに動かない方が良い。動けばハクの錐がお前の心臓を貫く」

 何時の間に玉藻が残した小娘がここに!?

 左背中に尖ったものが当てられている。

「フフ、アハハ、ハハハハハハハハハ」

「何が面白いのかなハオ君」

「別に俺が直接動く必要など無い。俺の魔力が解放されて呼応した仲間達が、この街に溢れてくる!俺を倒した所でお前達の不利は変わらん!」

「いや元々不利なのはお前なんだが」

「何時までも夢を見ていろ小僧!」

「アルブラハさん、じゃあ宜しくお願いします!」

 声の方向からしてあさっての方向へ叫んでいる。

 馬鹿な小僧だ。

 空には何も浮かんでな……。

 雲の隙間から現れたのは巨大な竜。

 その背中に幾人もの竜人が乗っていた。

 馬鹿な……。

 ここからアイツらの大陸まで何日掛かると思ってるんだ。

 それにこんな内政干渉をすれば、

 戦にな……らない。

 救援に来た事にし、しかも皇帝たちを助ければ、

 鎖国状態を解消した皇帝と共に評価される。

 竜人達は交易の幅が広がる。

 何なんだ。

 何なんだアイツは。

 ここまで読んで俺を泳がせていたのか!?

「であればコウ、俺は皆の指揮を取る」

「お願いします。片付いたら俺も行きますんで」

「頼む。お前には我の大陸にも力を貸してもらわねばならんからな」

「ええ戦友として必ず力をお貸しします」

「であれば安心だ。では後ほど」

「コウ、俺は」

「リューはシン達を頼む。俺はコイツを始末する」

「しかし」

「良いから。親子水入らずで色々話してきなよ。汚れ役は引き受けた」

「……すまん」

「恩に着てくれ。その変わりシンを大事にしてやってくれ」

 コイツらは何時まで良い子ちゃんごっこをするつもりだ。

 吐き気がする。

 人は人を貶めてこそ人だ。

 欲の一つも出さない気持ちの悪い奴らめ。

 自分が死なない自信でもあったのか。

「さてハク、それは俺の得物だ。離れてくれ」

「……でも……」

「ハク」

 どうやら聖人様は俺を救ってくれるようだ。

 小娘がどいた瞬間こそ好機。

 ゆっくり……。

 ゆっくり離れた……。

 今だ!

「お前本当に学習しない奴だな」

 俺は飛び上がって逃げようとしていたが、

 体が動かない……。

「皇帝の肩を貫いたのを見て無かったのか?」

「武器から放ったものが何だと言うのだ!?」

「放ったら貫いた後消えるだろ。消えたか?」

「まさか……」

「そう言う事だ。形状変化させる事も出来る。俺が師父から攻撃方法だけを学んだと思っているのか?だとしたら俺の師父に対して失礼だ」

「……ぐぎぎぎぎ」

「ちなみに魔族だろうと竜人だろうと何だろうと、生命体であれば気を持っている。というか縛り過ぎかな。口も聞けないようだ」

 何故だ。

 何故こんな事になっているんだ!?

 身動きすら出来ずに一つ、

 また一つと同胞が消えて行くのを感じる。

「ではなハオ。来世ではもう少し詰める方法を良く考えろ」

 アイツの声が終わった次の瞬間、

 俺は空に浮く。

 景色がくるくると回り、

 激痛と共に地面に落ちる。

 俺の眼に最後に移ったのは、

 輝く剣をかざして立つアイツだった。

 おっさんの癖に勇者に見える。

 勝てる訳が無かった。

 長年温めてきた策が。

 だがまだ終わってはいない!

 魂だけでもあれば次へつなげられる!

「アンタ私の事知らないでしょ。残念。魔族よ」

 魂だけ移動し逃げようとした時に、

 目の前に現れたのはアイツの女だ。

 視界がバラバラになり、俺の夢は消える。

 掌から天下が落ちて行く……。

 何のために積み重ねてきたのか。

 何処で間違ったのか。

 答えは解らない。

 


 


 

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