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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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決着

 戦場に俺と皇帝は戻ってきた。

 周りは其々の兵に囲まれている。

「皆距離を取って!」

 俺が叫ぶと皇帝は斬りかかってくる。

 圧はかなりのものだ。

 結界を破壊したのに衰えていない。

 それどころか何か妙な感覚がする。

 剣撃と俺と皇帝の息遣いのみが響き渡る戦場は、

 兵士達の唾を飲み込む音すら聞こえそうなほど

 静かになっている。

「うぉおおお!」

 皇帝と俺の差を考える。

 皇帝は俺よりも体が大きい。

 俺が161㎝に対して恐らく2m近くあり、

 それだけ力と体力に差があると言う事だ。

 だがこちらは小さいので小回りが利く。

 師父達との修行で最小限に効率良く動くという、

 こちらの欠点を利点に変える動きを会得した。

「つぁっ!」

 隙を見つけ最短距離で急所を突く。

 切り傷は与えられるものの、致命傷にはならない。

 皇帝は一対一に慣れている。

 だがこの違和感は何だ。

 一撃一撃受け流しているが、

 段々と体力を削られている。

 しかも結界内よりも多く。

「でやっ!」

 俺は力を入れて皇帝へ相棒2振りを斬りつける。

 後ずさりした皇帝を見ると、

 その体から薄いものの揺らめく赤いものが

 出ているのに気付いた。

「嘘だろ……」

 半笑いになりながら俺はそう呟く。

「何がだ」

「皇帝、自分を見てみろ」

 俺に言われて皇帝は自分の手を眺める。

 そして俺が見たものと同じものを見て、

 体を震わせる。

 俺はここで一つの回答に辿り着く。

 皇帝は元々力を持っていない訳では無かった。

 恐らく最初は普通のブロウド大陸の人間だった。

 それが天から与えられた”結界を形成する”という

 力の所為で、気を発する事が出来なくなったのだろう。

 それが”結界を破壊された”事によって、

 普通のブロウド大陸の人間に戻った。

「皇帝、いやリューよ。武人として勝負だ」

「……」

 皇帝は俺の方を見るが、目を丸くし口を開けて

 震え続けている。

 まぁそうなるよな普通。

 今まで気を持てなかったからこそ、

 その力に対する執着で皇帝にまで

 なったのだから。

 ……其々の都に師父達。

 なるほど、そう言う事か。

「リュー、臍の下、丹田に意識を集中してくれ」

「な……」

「良いから。リラックスして。ゆっくり姿勢を正して意識を集中して……」

 リューは俺の言う通りに武器を握りながらも、

 体の力を抜いて姿勢を正した。

「呼吸は胸でするんじゃなくて、丹田を膨らませるように吸って吐いてを繰り返す」

 リューは卵から孵った雛のように俺の指示に従う。

 そうしていると、揺らめいていた赤い気は、

 しっかりとその存在を露わにした。

「そうだ。それを忘れない様に」

「こ、これが俺の」

「そう。リューの気だ。今まで結界に回されていた気が、結界を破壊された事によって解放されたんだ」

「何と言う……」

 リューの目から涙がぽろぽろと落ちて、

 それを掌で受けとめたリューは、

 堰を切ったように雄叫びとも泣き叫んでいるとも

 取れる叫び声を上げた。

 俺はそれを暫く見ている。

 朝焼けは穏やかな日差しをリューに浴びせる。

 誕生したかの様な光景だ。

 長い間苦しめ、そして苦しみ足掻いていた者が

 しがらみから解放される姿は、

 祝福されているように見える。

「リュー、誕生おめでとう」

「ああ、ああ」

 涙は止まらないものの、笑顔で頷くリュー。

「なら改めて。決着をつけよう、武人として」

「……そうだったな。俺はお前の師の仇だった」

「関係無い」

「なんだと?」

「師父達は師父達の誇りを胸に戦い果てた。仇を取るなんて失礼な事だ。それよりも俺は一武人として強い相手と戦いたい。そしてこの勝負に勝った者が未来を決める。それで良いな?」

「……ああ、構わない」

「後言っておくが、死を覚悟してだとか殺されてやるなんて思ってたら、死んでも許さないぞ?」

 リューは俺の言葉を聞くと、

 涙を拭い笑顔で頷いた。

「それでこそこの大陸一強い男だ。俺も師父達の技を存分に出させてもらう」

「ブロウド大陸の皇帝、リュー参る!」

「太公望、関帝、孫悟空、ナタク、太乙真人が弟子、コウ参る!」

 

 赤い気を纏ったリューの攻撃は、

 力だけでなく素早さ、機敏さまで

 上がっている。

 俺の小回りを先読みして追撃して来る。

 ただ受けているだけでは何れ持っていかれる。

 反撃だ。

 俺は静から動へシフトチェンジし、気を放出。

 俺の気が変わったのを感じて距離を取る。

 もう習得したのか。

 リューは戦いのセンスがズバ抜けている。

 俺が必至に習得したものを短時間でマスター。

 称賛するとともに呆れるし辟易する。

 この大陸には偉い人物は皆規格外なんじゃないか。

 化け物め。

「づあっ!」

「はぁっ!」

 一撃一撃力と気を込めて打ち込むが、

 元が差があるだけに押されている。

 リューが後ずさりしない代わりに、

 こちらは大分後ずさりしてしまう。

 ただ次からはダメージ軽減に使おう。

 まともな力勝負じゃ完全に負けてる。

「参ったな。本気にさせるんじゃ無かったよ」

「有り難い事だ」

「嫌みかよ」

 リューは微笑む。

 なんて顔してるんだ。

 全てが晴れ晴れとした、

 眩しい顔だ。

 勝ち負けさえ本人にしたら

 どうでも良くなってる。

 さてどうしたものか。

 もう一度仕切り直すか。

 俺は目を瞑り意識を集中する。

 思い出す鍛錬の日々。

 気のコントロールから……ああ。

 いつの間にか相手のペースにハマってしまった。

 

 ―――良い突きだ―――


「つぇあ!」

 リューの機先を制すべく、

 気を最小限に絞りリューの

 気の動きを察知して突いた。

 ナタクさん仕込みの正確無比の突きは、

 剣に置いても有効だ。

 相棒に気を通わせている為、

 レーザーの様な細い線が延び、

 リューの右肩を貫いた。

 リューはそれでも怯まず攻撃を仕掛けてくる。

 俺は関帝のように流れるように攻撃を受け流し、

 攻撃を繰り出す。

 そしてリューに一瞬の隙が出来た所を、

 素早く突く。

 皇帝は剣を使ってガードしたが、

 俺はそれを予測して後頭部へ蹴りを加える。

 よろめくリュー。

 見逃さず相棒をリューの剣に絡め、

 それを支点として蹴りを足元、太もも、

 脇腹に加える。

 流石のリューもこれには顔を歪める。

 悟空さんの教えの賜物だ。

 相手のペースにさせない為に、

 攻撃をさせず泥臭くこちらは攻める。

「面白い」

 リューはそう言うと、今度はこちらもと

 ばかりに攻撃を仕掛けてくる。

 マジかよ。

 体術に剣術も絡めて俺よりスマートな

 攻めを行っている。

 参った、本当に強いわ。

 だがそれでこそだ。

 最早形振りなんて構っていられない。

 効率を考えても居られない。

 流れのまま身を任せて、

 ワンチャンスを確実にモノにする。

 最早有利不利は天に任せる。

「くっ」

 リューが顔を歪めた。

 さっき貫いた右肩か。

 俺はそれを見ると右側へ攻撃を集中させる。

 段々とリューの攻撃が弱まった。

「うぉおおおおお!」

 ここがチャンスだ!

 俺は一気呵成に攻め立てる。

「うぉあ」

 苦し紛れの右攻撃に、俺は渾身の力を込めて、

 剣を打ちつける。

 リューの手から剣が離れた。

「はぁっ!」

 残る左手の剣に相棒2振りを思いっきり叩きつけ、

 リューの武器は無くなった。

 リューは肩で息をしている。

 それでも目は死んでいない。

 どうするかな。

 考えるまでも無いか。

 俺は相棒2振りを鞘と腰に収める。

「何のつもりだ」

「何のつもりも何も無い。納得いってないんだろう?」

「馬鹿な奴だ」

「ああそうかもな」

 俺は右拳と右足を前に出して構える。

 リューは左拳と左足を前に出し構えた。

 俺達は笑い合うと武術での勝負に出る。

 一撃一撃が負傷してる人間の者じゃない。

 まぁそうでなきゃな。

 この鉄人の心を折るのは骨が折れそうだ。

 骨が折れた位で済めば良いけど。

 俺は凄まじい音が耳の傍で通るのを聞きながら、

 リューの隙を窺う。

 勿論右側へ攻撃するべく時計回りに攻撃していく。

 リューをこちらの流れに巻き込んだ。

 追われるより追う方が疲れる。

 リューはもう超人では無い。

「おらぁ!」

 少し無理してでも手繰り寄せる。

 俺は飛び上がり右肩へ蹴りを放つ。

 それを受け止めようとリューの手が伸びたが、

 痛みが鈍らせた!

 ガスッと言う音共にリューは吹っ飛び、

 地面に大の字に倒れた。

「参った」

 その声に俺はホッとする。

 勝った。

 勝ったっ。

 勝った!

「勝ったぞーーーー!!」

 天に向かって絶叫した後、拳を隠して一礼する。

 師父達、見ていてくれましたか?

 貴方達が鍛えてくれた弟子が皇帝を倒しました!

 無駄になった事は何一つありませんでした!

 師父達のお陰です!

 俺はうれし涙を流しながら飛び跳ねた。

 

 

 

 

 

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