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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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夜明け

「なんて場所だ……」

 赤い夕焼けが血の色に見える。

 大地も赤く染まり、屍と武器が散乱する世界。

 これが皇帝の世界。

 生者は一人も居ない。

 草一つない。

 こんなものを抱きながら生きて来たのか。

「さぁこれで貴様の悪足掻きも終わりだ」

「悪足掻きとは何だ」

「この国を変えようという貴様の思惑が終わりだ」

「そうでもない」

「何だと?」

「お前は本当に気付いていないのか皇帝よ」

「シンが生きている事に意味があるのか?」

「そうじゃない」

 俺は相棒2振りを引き抜き構える。

「……アンタは気付くどころか考えもしないだろうから教えてやろう。戦が起こった時点で俺の勝ちだ」

「何を世迷い事を」

「皇帝であるお前がそんな事を言うとはな。皇帝、アンタが皇帝になるにあたって何が起こった?」

「……戦だ」

「だろう?戦が起これば人は立ちかえる。愚かな事ではあるが、実に解り易い答えをだしてくれる。この戦で流した血は、後において無駄になる事は何一つない。この戦に俺が負けても、お前の国は前と同じにはならん」

「神にでもなったつもりで予言か?」

「そのままそっくりお前に返すよ皇帝。人だからこそ流れが変わった事に気付くんだ。アンタは気付かない。それすなわちアンタが神にでもなったつもりでいるからだ」

「貴様と俺とではやはり相容れない」

「そりゃ神様になったつもりで足元さえ見えない男と相容れる事は無いだろう。元より問答の余地など何もない。あるのは生か死かだ」

「一々癇に障る奴め」

「図星だから心が刺激を受けているのだろう?」

 皇帝は般若のような顔で斬りかかってくる。

 相棒、全力だ。


 ―了解―


 ――了解――


 俺は気を発し、相棒達に通わせる。

 皇帝の連撃を支点をずらし滑らせて、

 まともに受けない。

 それでもインパクトの瞬間、

 相棒から伝わる力は凄まじいものがある。

 気を発してカバーしていなければ

 確実に腕をもっていかれた。

 そして最初に辺りを見渡した事で、

 回避できる場所を見つけていたからこそ

 巧く後ろへ飛んで避けられる。

 皇帝は地面すら破壊する勢いで攻撃してくる。

 だが丁度良い。

 俺は円を描くように移動しつつ、

 皇帝の攻撃を避けて行く。

 皇帝は師父達のような偉人では無い。

 死した後は解らないが、現在はそうだ。

 スタミナと言うものがある。

 この世界の維持を代償無く出来る筈がない。

 そして暴れまわればそれは大きくなるだろう。

 音を立てて弾けて行く地面。

 その土煙りであったり破片が俺を襲う。

 皇帝はそれで俺の視界を奪おうと言う腹積もりらしいが、

 気を纏っている俺には意味がない。

 しかも省エネモードも会得している。

 皇帝のスタミナの削れ方を上回る事は無い。

 関帝のように堂々と、

 ナタクさんのように隙を窺い、

 悟空さんのように感覚をとがらせている。

 心は熱く、頭は冷えて。


 皇帝は強い。

 それは間違いない。

 真っ向から当たれば勝ち目は無い。

 だが師父達もそうであったように、

 例え全力で戦うとはいえ、

 真っ向から当たるのは圧倒的力量差がある

 場合か、相手を鍛える時だけだ。

 常に最善手を打たなければあるのは死。

 皇帝は長い事戦場に出ていない筈だ。

 何より一騎打ちなんてものを大将がするものじゃない。

 太公望様の受け売りだが。

 釣れたのは師父達の存在と俺自身。

 皇帝の周囲はそれほど薄い。

 また恐怖で支配してきたというのもあり、

 指揮などの面に置いて皇帝は非凡な才能を

 持っている訳ではない事も釣れた要因だろう。

 それはこの結界内の景色が物語っていた。

 何処まで行っても一人。

 そこに語り合うものも、愛し合うものも居ない。

 信じあうものも、教えを請うものも。

 寂しい風景だった。

 俺も引きこもりであった頃、

 こんな景色を胸に頂いていたかもしれない。

 全てが敵で、全てが消えてなくなれば良いと思っていた。

 解る。

 とても解る。

 だが皇帝は結婚して妻も子も居てこの風景。

 何故そこまで自分の心を自分で砕く必要があるのか。

 力がないと言いながら、大陸を統一した。

 それだけでも振り返れば自身の力に対して、

 優越感なり抱いても良さそうなものなのに。

 ……そう言えば皇帝の眼は、

 何時も見上げるような目をしている。

 何がそんなに羨ましいのか。

 何がそんなに憎らしいのか。

 皇帝になったなら、何でも手に入るものじゃないのか。

 

 ―王は孤独な生き物だ―


 攻撃を避けながら、黒隕剣の言葉が聞こえる。

 そうか。

 そんなに偉くなってまで孤独なのか。

 なら俺は一介の冒険者で十分だろう。

 世界を変えてまで孤独で居る位なら、

 一冒険者として仲間達と世界を駆け巡る方が

 気が楽だ。


 ――お前が望む王があの者ならば――


 そうだな。

 それは違うよな。

 俺が目指す王。

 それに対する答えを持ち合わせていない。

 俺の手はもう血に塗れている。

 綺麗な聖人ではない。

 そんな者が王になったとして、

 俺はどんな王になりたいのだろう。

 恐怖で支配?

 それは無い。

 この失敗を見た後では。

 国は直ぐに崩壊する。

 皆で仲良く?

 それも違うだろう。

 それでは王で無くても良い。

 ある時は心情に寄り添い、

 ある時は冷徹な決断を下す。

 決断する力。

 優柔不断では国が沈む。

 国を長く繁栄させたいのであれば、

 勧善懲悪な文芸様式では成り立たない。

 馬を操るように、手綱を巧くすれば

 国は繁栄する、と思う。

 実際に治めた事は無いから机上の空論だけど。

「何を上の空で居る!?」

 皇帝の地面を叩き割る一撃を、

 跳躍して回避する。

 大分距離を取ってしまった。

 だがチャンスだ。

「皇帝、ここではアンタが有利な筈なのに、何で俺を倒せない?」

「貴様も異形の力を持っているからだろう!?」

「違うよ。アンタが弱いからだ」

「……何だと?」

「と言っても純粋な力ならアンタが上だし、スタミナもアンタの方がある。だけど総合力で俺は上に行った。だから倒せない」

「世迷い事を!」

「アンタその言葉好きなのか?別に不満もないし、的外れでも無いだろう。図星だから頭にくるんだろ?……でもアンタ実はかなり人間臭いんだな」

「貴様ぁああああ!」

「俺は嬉しいよ皇帝リュー。アンタは紛れも無くただの人間だ。他者を羨み他者を憎み他者を支配したいと思っている、ただの人間だ」

「黙れ!」

 皇帝は大剣を振るって風を起こすが、

 俺は余裕を持って移動して避ける。

「さぁ皇帝リュー。アンタの夢の終わりだ」

 俺は相棒2振りを天に掲げる。

 相棒、この世界を壊すぞ。


 ―了解。充填完了―


 ――最大質量放射準備完了――

 

 行くぞ。

命輝斬ビオスギアラーダ

 俺は全力で皇帝へ向けて振り下ろす。

 この風景に散った人たちの命の輝き。

 皇帝はかわしたが、俺の一撃で世界は壊れて行く。

 パラパラと落ちてくる破片は、

 万華鏡を覗き込んだような景色を見せる。

 

 ―――有難う―――

 

 どこからかそんな言葉が聞こえた。

 一人ではない。

 多くの人の声が重なり合った一言。

 そしてそれは力にも現れる。

 一撃を放ったのに、

 倒れる気がしない。

 残量0になった筈なのに、

 直ぐに回復した。

 皇帝は死んではいない。

 この結界は二度と構成できないだろう。

 幕引きをどうするか考えつつ、

 現れた夜明けの空の美しさの所為なのか

 溢れる涙を拭った。


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