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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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雷動

 ―――コウ、見守っているぞ―――


 首都から戦線を伸ばし、

 どうやら敵軍の兵士を全て引き出せた。

 そしてこちらの戦列を整え、

 鶴翼の陣で後続の敵兵を待ちかまえていた時。

 耳に届いた二つの声。

 俺は目を閉じ二人との日々を思い返し、

 目を開けた後、霞む瞳に映る空へ向けて

 拳を隠して礼をした。

 一つ一つ消えていく。

 満足な別れは出来なかった。

 だが死した時会える。

 何となくそんな気がした。

 同じような存在になれる訳は無いが、

 せめて一兵卒位には使ってもらえるだろう。

 そうしたら今度は恩返しが出来る。

 今はこの生の中で出来る事をしよう。

 心は熱く、頭は冷えて。

 自分に言い聞かせるように、

 声を出さずに念じる。

「戻ってきたか?」

「はい……」

 太公望様に問われてそう返事をする。

 皇帝の動きが不気味だ。

 こちらは背後を突いて憂いを絶っている。

 援軍は見込めない状況でまだ出てこない。

 前線の指揮が徐々に乱れてきている。

 混戦には違いないが、

 こちらの有利は疑いようがない。

 悟空さんにアルブラハさんが

 よく兵を動かしてくれている。

 中に数人戦術に通じる者が混じっている。

「コウ、油断するなよ」

「はい。太公望様、後ろを頼みます」

「どうするつもりだ?」

「鶴翼の陣で包囲しているので、こちらを太公望様達に任せて自分は首都方面へ偵察に行って参ります」

「……その必要はないようじゃ」

 太公望様の言葉を聞いて顔を見る。

 そして目線を追うと、

 砂煙を上げて鶴翼の陣の中央目掛けて

 首都方面から突進してくる一軍が居る。

「師父!後を頼みます!」

 俺は愛馬を走らせて側面へと駆け抜ける。

 明らかに一騎違うのが居る。

 腕を組み堂々としていた。

 形振り構わないって感じじゃない。

 様子が妙だ。

 あれは皇帝じゃないのか?

 普通自分が長年信じていた事を、

 根底から覆されたら普通はもっと

 混乱している筈だ。

「皇帝!お前も能力者なら力を見せてみろ!」

「お前の相手は後でしてやる」

 皇帝は俺を見ずに直進した。

「悟空さん!アルブラハさん!来ます!」

 中央に陣取る二人に注意を促す。

 俺は並走しながら兵を斬り分断する。

 三略槍を振りまわすも、兵は皇帝を

 愚直に追っている。

 お構い無しって訳か。

 俺はそのまま皇帝の後を追う。

「よう!」

「来たか」

「フン。斉天大聖と竜人か。どれだけ持つかな」

 悟空さんとアルブラハさんの攻撃を、

 身の丈より大きな2振りの剣で受けとめる。

 二人とも豪傑だ。

 受け流さないで剣で受けとめるなんて。

 皇帝は強いと聞いていたが、まさかこれ程とは。

 しかもまるでダメージを受けていない。

 二人とも加減をする筈がない。

 全力で叩きこんだ一撃だ。

「どうした?もう終わりか?」


 言葉で返すより、二人は斬りつける。

 だが皇帝はその巨大な2振りの剣を、

 まるで小枝を振りまわすように

 軽々と振りまわす。

 手が何本もある様に見える程だ。

 剣撃の音が響き渡る。

「全軍包囲せよ!」

 俺はそれをただ見ている訳にはいかない。

 皇帝の指揮してきた軍をせん滅する。

 それで動揺する事は無いだろうが、

 戦場を見易くしないと皇帝に俺が近付けない。

「お前達は退屈だ」

 皇帝は今まで防戦だけだったのを、

 切り替えて二人へ攻撃をしかける。

 今度は二人が防戦一方になる。

 何なんだアイツは。

 単騎で戦線を変えるつもりか。

 皇帝の兵士達は元気だった。

 皇帝の戦う姿に鼓舞されている。

 これ以上は不味い。

 鶴翼の一番脆い部分を突破されれば、

 優位が消える。

 混戦になる。

 どうする?

「コウ、戻れ!」

 太公望様の声が届く。

 俺は兵士達を斬り伏せて、

 脇から自軍の兵士の中へと入る。

「太公望様」

「コウ、これは不味いな」

「はい。鶴翼を突破されれば、仕切り直しになります。士気も向こうが高くなる」

「だの。窮地を脱したとあれば、向こうは皇帝の出現もあって逆転する」

「太公望様、包囲は説かず薄くして鶴翼の中心を厚く出来ますか?」

「突破させずに受けとめるのか?」

「そうです。鶴翼を説かずに一度抜けさせるのは、皇帝出現前ならありでしたが今はそれをやられると士気に係わります」

「仕方がないな。で、お主はどうする?」

「勿論皇帝を止めます」

「それが妥当だな」

 俺は太公望様に一礼して愛馬を走らせる。

 当初の予定通り鯛は釣れた。

 なら相手も餌がするべきだ。

「悟空さん!アルブラハさん!戦列の維持をお願いします!」

 俺は二人と皇帝の間に割って入る。

「ほう、俺はお前の相手は後だと言った筈だが」

「知らんな。アンタの部下じゃない」

「下がっていろ」

 皇帝の周囲に竜巻が起こる。

 それは徐々に大きくなり、

 俺は巻き込まれるのを避けて

 下がらざるを得なかった。

 しかし変だ。

 兵士達もそれに合わせて下がっている。

「悟空さん!アルブラハさん!避けて!」

 二人は俺の声に反応して下がるが、

 竜巻は二人を追いかける。

 どうする。

 皇帝は何が狙い何だ。

 ケリを付けたいなら俺を狙えば良い。

 悟空さんとアルブラハさんを

 狙う必要は無い筈だ。

 だが執拗に追いかけている。

 相棒で吹き飛ばすか。

「コウ、離れろ!」

「しかし!」

「しかしではない、あれは皇帝の結界だ!お前の攻撃でも防げない」

「なら尚更」

「コウ、オラに任せろ!」

 悟空さんはアルブラハさんを如意棒で吹き飛ばすと、

 竜巻にのみ込まれた。

 そして竜巻と共に皇帝と悟空さんは消えた。

 異次元空間に引き摺りこむ結界。

 思い当たるのは一つ。

 恐らくあの結界内では皇帝は絶対有利。

「太公望様!」

「コウ、悟空が任せろと言った!お前はこちらを手早く終わらせろ!」

「……了解!」

 俺は愛馬を両太ももでコントロールし、

 戦列へ戻る。

 悟空さんの無事を祈りながら、

 俺は皇帝の兵士達を斬り伏せる。

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