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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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崩壊

「それで坊主が何の用だ」

 首都の宮殿の奥、豪華な屏風の前に

 紺の下地に金色の竜があしらわれた

 着物を着、髪の毛を後頭部で結って

 三つ編みにして垂らした男は

 どかりと座りそう目の前の男に問いかける。

「アンタにとって興味深い話だ」

 坊主頭で法要袴を着た男は、

 悪びれも無く胡坐をかいて手をひらひらと

 させていた。

「俺と取引しようと言うなら無意味だが」

「そんなんじゃない。アンタが無自覚にまき散らしている力についてだ」

「……馬鹿な事を」

「馬鹿なのはアンタだよ。アンタは自分に力が無い事を嘆いていた。この国の誰もが持つ気を持てなかったからだ。しかし実際は違った。アンタは力を持っていた。その証拠が私達だ」

「お前達が地に落ちたのは俺の所為だと?」

「アンタは自分を知ろうとしない。力が無いと決めつけて、そんな可哀想な自分を最強にしたいと願った。確かに歪んでいたが、その馬鹿力はアンタの力をこの国で最強にまで押し上げた。そして覇王となった」

「だから何だ」

「今この大陸には一人の男が現れた。アンタならもうご存知なんだろうが。その男はアンタと似ていた。だが決定的に違うのは、自分を知り他人を知ろうとした。これは決定的な差だとは思わんかね」

「……要領を得ないな。俺に自分を知って強くなれとでも言うつもりか?」

「違うな。今のアンタじゃ力不足なんだよ」

「それほど強いのかそいつは」

「そうだ。アンタがアンタの力を自覚しない限り勝てない」

「俺を勝たせてどうしようというのだ」

「アンタ勝ちたくないのか?」

 三つ編みの男は腕を組んで考え込んでいた。

 この男が何を考えているのか解らない。

 そもそも俺に力などある訳が無い。

 だがこの男や他の領主達が何故ここにいるのか。

 その説明が付かないのは解る。

 それが自分の所為であるという理屈は納得できない。

 何より自分が劣っている訳が無い。

「アンタの力を使えば今の状況を覆せるだろ?」

「不快な奴め。皇帝に対して無礼だ」

「無礼も何も。アンタに力があるから使えと言うのは無礼なのか?」

「貴様……」

「まぁ良い。取り合えず助言してやる。あれらに対抗する武将を呼べ。そうすれば、自ずと一対一となり其々の力比べになる。そうすればアンタも納得するだろう」

「このまま逃げ遂せるとでも?」

「思うね。私を誰だと思ってるんだ。じゃあな皇帝さん。アンタが武将を呼ばなければアンタは併撃されて御終いだ。アンタの剛毅な性格は素晴らしいが、頭を使え」

 そう言い終わると、坊主は煙のように消えて行った。

「陛下!」


 鎧に身を纏った兵士が入ってくる。

 皇帝は手を横に振り兵士達を追い払う。

 皇帝は窓の外を見る。

 不快な坊主。

 だが自分に力があるならば、

 関帝、斉天大聖に匹敵する武将が欲しい。

 部下に不満など考えた事も無かったが、

 相手が強大な力を持って立ちふさがるなら、

 自分は一対一で戦いたい。

 そうして倒してこそ意味がある。

 自分はこの大陸で最強だ。

 積み上げられたものが、こうして結果として

 自分が皇帝になれたのだ。

 力を持っていたからではない。

 持っていたとしたらこれまで自分で成して来た事を

 覆す事になってしまう。

 それは認められない。

 ただ……。

 ただ武将は欲しい。

 自分には統一が出来ても、人材育成は出来なかった。

 自分のみを信じて生きてきたからだろう。

 皆自分に怯えて付き従うのみだった。

 それでも不都合は無かった。

 4領主に当てた偉人達は機があれば裏切る。

 その時には自分の力で抑え込むつもりだった。

 だが現れた異国人の所為で状況は変わった。

 あいつは俺が求めて止まなく、畏れ憧れた力を

 持っている人間。

 いつの間にかそいつは4領主を巻きこみ、

 更にはコンロン山まで巻き込んだ。

 このままではあの坊主の言う通り自分は負ける。

 今まで幾つもの命を奪ってきた。

 それはこの国を気の力を持たない俺が、

 普通かそれより劣る人間が、

 統一を成し遂げたと言う歴史史上初の事を

 成し遂げたと言う証を打ち立てる為。

 力が無くとも出来る。

 そう示したかった。

 だがそれも言い訳だな。

 自分のみの力を信じ、自分のみで統治し

 追い込まれて頼りたくなった。

 誰に?

 誰にでもない。

 自分自身だ。

 自分以外に何を信じると言うのか。

「で、俺達は何をすればいいのかな?」

 眼を見開き振り返ると、

 そこには存在しているだけで圧力がある

 だが禍々しい武人が二人いた。

「俺達はアンタの所為でまた戦えるらしい。で、どうする?」

 どうやら自分は……。

 認めざるを得ないようだ……。

 ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

 三蔵法師は都を駆け抜けていた。

 そして低い塀を登り外へと降り立つ。

「玄奘、貴方は何をしているのですか?」

 三蔵法師は目の前に立つお洒落な着物を着た

 若い男を苦い顔をして見た。

「別に。ただ不公平だと思って」

「コウに試練を与えるつもりですか?」

「さてどうかな」

「貴方のした事は妨害以外の何ものでもないですが」

「あのまま戦ってはあの男に悔いを残す。残酷でも教えなければ」

「……その為に多くの人が犠牲になろうとも?」

「それを食い止めるのが私達の役目だ」

「ならどうしてあんな真似を」

「慈悲かな」

「ふざけた事を」

「分け隔てなく御仏の慈悲はあるべきだろう?コウにだけあっては不公平だ」

「これで五分と言う事ですか」

「そうとも言えんが、これで心置きなくやれるだろう」

「全く貴方と言う人は」

「仕方がない。これも坊主の宿命かな」

「やれやれ。こうなっては策を検討し直さないといけませんね」

「それは無いと思う。策を変える必要はない。細かく聞かなければ絶対とは言えないが」

「では参りましょう。コウも起きる頃だと思います」

「ああ」

 三蔵法師と太乙真人は連れだって

 トウショウの街へと向かう。

 戦端はついに開かれる。

 皇帝のアイデンティティの崩壊と共に。

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