試練その4
山道を登り続ける。
ある偉い人が言っていたな。
人生は重い荷物を担いで死へと向かうのだから、
急いで行く事はないと。
確かにその通りだ。
昔は何も無かった背中には、
多くの人の思いが乗っかって
今はおいそれと下ろせない。
投げ出す事も無い。
俺は綺麗な人間では無い。
それを受け入れ果さなければならない事がある。
この回り道も人生の最後である
死に向けた旅路の途中。
何れ死ぬのであれば、
回り道も楽しい。
こんなに色んな思いをしているが、
引きこもりよりも楽しい。
生きていると思える。
こんな回り道なら幾らでも良く思えた。
そして今目の前には
多くの時間を過ごした訳ではないし、
神様だからこういう言い方は変だが、
人としてその豪快さに憧れ、
人としてその懐深さに憧れ、
人としてその姿勢に憧れたその人がいる。
その人は俺を見てただ頷き、
引いていた俺の愛馬を離す。
そして手を広げた後、拳を隠す。
俺は愛馬に素早く乗り、
敬意を込めて拳を隠し頭を下げた。
そして互いに冷艶鋸と槍を構えて
馬を走らせる。
一合斬り結べば解る。
頭の中に師父の言葉が蘇る。
俺はこの一合に全ての思いを込めて、
師父へ斬りかかる。
「はああああ!」
俺は歯を食いしばり三略槍を振り下ろす。
師父はそれを鬼の形相で受けとめる。
地面に衝撃波による窪みが出来る。
「ぬああああっ!」
師父も全力で俺を振り払う。
愛馬と共に吹き飛ばされたが、
俺は愛馬と共に態勢を立て直し
直ぐに師父へと斬りかかる。
いつもなら師父は受ける方が多いが、
鬼神の如き表情で斬り合ってくれている。
一瞬たりとも気が抜けない。
凄まじい冷艶鋸が唸りをあげてくる。
暫く熱い思いをぶつけ合っていた時に、
ふと俺と師父は距離を取る。
師父と言えば何かと思い俺は咄嗟に
三略槍を体中に回転させ、馬の前足を
あげさてた後
「我は関帝を師に持ち、この国に義の嵐を起こさんとする武人コウ也!」
そう名乗りをあげた。
師父はそれを見て目を見開き口を開けて笑う。
そして
「我は徳の神にして大王劉玄徳が義兄弟、義を受けて国を護る武人関羽雲長也!」
そう天に轟く声で名乗りをあげてくれた。
この師父にしてこの弟子あり。
再び斬り合うも、何か清々しく、
心は空にあるような気にさえなってきた。
何か肉体を超えた所に居るような
何となく現実感が薄い。
―――コウよ、我が弟子よ―――
斬り合いながら師父の心の声が届く。
―――武人とは人の命を奪う者―――
―――決して綺麗な者では無い―――
―――同族の命を奪う行為は動物でさえしない―――
―――だが我らはそれをする―――
―――それは譲れないものがあるからだ―――
―――相手の命を奪いつつも敬意を払い―――
―――自らの理想や理念を貫き通す―――
―――何と業の深い生き物であるか―――
―――こうして我らは斬り合っているが―――
―――斬り合う事でしか解り合えないのも武人―――
―――御仏の心に副わぬが―――
―――何とも尊いものだ―――
俺は斬り合いながら頷く。
俺と師父しか居ないこの空間。
俺を貫く為に斬る。
死んだ者からは嘲笑されるだろうが、
敬意を払い自分の道を進む。
それに今迷いは無い。
それを師父に伝えたい。
俺は全力で立ち向かう。
綺麗な戦い方ではないが、
それも俺の戦いだ。
曲芸乗りのような態勢から斬りつけ、
しっかりと愛馬に跨り
更に斬りつける。
師父は微笑みながら受けきり、
衝撃波を伴う一撃を放つ。
俺はそれを流して受け、
次の一撃を受けとめる。
気をコントロールし、
腕を持っていかれない様にする。
心満たされる空間で何時までも斬り合いたい。
だがそうはいかない。
俺は師父に示さなければならない。
この国を救う為に皇帝と戦えるという力を。
そうでなければ師父に報いる術が無い。
距離が離れた後、
俺は三略槍をしまい、相棒2振りを抜く。
今ここに全てを経て一撃を放つ。
相棒!全力だ!
―了解―
――了解――
俺は黒隕剣と黒刻剣を重ね掲げる。
俺のこの世界での命綱であり、
英雄と呼ばれている代名詞。
この技にここまで鍛えてくれた人たちへの
思いを込めた一撃を放つ。
師父もそれを察して身構える。
相棒達の周りに色々な色の粒子が集まってくる。
俺は目を閉じ感じる。
そして十分に集まり相棒達は天を穿つ光の柱を立てる。
「行きます!」
「来い!」
「命輝斬」
「青龍争覇斬」
俺の必殺に対して師父も見た事のない技を繰り出して来た。
俺と師父の技が交差する。
流石関帝。
神にまでなった人の本気の一撃は
俺の必殺の一撃を相殺してしまった。
周りは衝撃波で綺麗サッパリな状態になっている。
「コウ、見事であった」
「師父……」
「行け先へ。お前の心確かにこの関羽雲長受け取った。戦場で待っておる!」
「はっ!」
俺は拳を隠して頭を下げる。
そして去っていく師父の背にもう一度礼をして、
先へと進む。
次が最後の鍛錬。
この国最初の師である太公望様の元へと
向かうのだった。




