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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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試練その3

 それはいきなり訪れた。

 とか言うと中々カッコいい話だが、

 今はそんな事を言っている場合でもない。

 問答無用で気を纏った悟空さんが

 襲い掛かってきた。

 不意打ちに近かったが、

 動きを察知して間一髪避けられた。

 が、爆風で吹き飛ばされて

 ダメージの確認と回復考察の為に

 岩場に隠れている。

 取り合えず痛いは痛いが、

 折れたとか筋が痛んだとかは無い様だ。

 戦うのに支障は無い。

 気は人間の生命エネルギーから生成される。

 どんな人間でも持っているエネルギーであり、

 それを見る事が出来るほど練るには鍛錬と

 経験が必要である。

 というのは太公望師父の言葉である。

 これを治癒に向ければ防御からの反転になり

 一時的に防御力が下がる。

 この程度なら何とかなる。

 相棒が初戦の玉藻さんとの戦いで吸収した

 エネルギーもある事だし。

 出来ればこの戦いでもエネルギーを確保したい。

 というかもう夜になってる。

 実のところ不意打ちがあるまで

 結構山を登っていたのだ。

 疲れも出る。

 向こうは無敵超人の集まりなのに、

 こっちは俺一人で寝ないで行かないと

 ダメなのか。

 そうこう考えている内に、回復完了。

「オラァ!」

 ゴバッという音と共に、

 俺の背中の岩が木っ端微塵に砕ける。

 というか溶けたように見えるのは気の所為なのかしら。

 俺は慌てずに移動する。

 慌てた所で意味が無い。

 ここが設定された戦場だとすれば、

 互いに位置を把握しにくい岩場である。

 悟空さんはこれを使うよりも、

 面倒でも平らにして視界を確保する方法を選んだ。

 バカバカ壊して回っていたお陰で、

 回復時間が取れたのだ。

 黒刻剣ダークルーンソードからのエネルギー補給も、

 その間に行えた。

 そして今3分の2位破壊された。

 ここから反撃開始だ。

 不意打ちの意図としては、やはり綺麗な戦いばかりでは無い

 と言う事を俺に伝えたかったのだと思う。

 悟空さんは竹を割ったような性格だ。

 しかも斉天大聖と呼ばれるようになってからは、

 乱暴者から一変している。

 その人が不意打ちをするのだから意味がある。

「つぇやっ!」

 俺は岩陰から飛び出ると、

 三略を槍に変えて突き出した。

「もう十分か?」

「御蔭さまで!」

 悟空さんの如意棒と

 俺の三略槍が交差する。

 互いの頬をかすめ、

 俺達は笑いあう。

「腕をあげたな」

「悟空さんも今回は本気だと思いまして」

 間合いは狭いが、

 悟空さんの如意棒は

 その狭さを感じさせないほど

 早く回転し攻撃を仕掛けてくる。

 なるほど、こういう戦い方も

 あるんだな。

 俺も真似するように三略槍を

 回転させて攻撃を繰り出す。

 自然と持つ部分も先端寄りになる。

 暫く攻防が続いた後、

 悟空さんは如意棒の柄頭付近を持ち、

 大きな薙ぎを放ってくる。

 俺はそれを体を逸らしてかわし、

 お返しとばかりに俺も同じようにして

 薙いだ。

 悟空さんは大きく踊る如意棒の勢いを

 使って後ろへ下がる。

 流石悟空さん。

 攻防一体で隙が無い。

「はあっ!」

 立ち上る気の渦。

 悟空さんは全力で来る。

 金色の髪を靡かせ、

 触れれば吹き飛ばされそうな

 気を如意棒に通わせて俺に向かってくる。

 上段への突きから足払い、

 返す如意棒で中段突き。

 それを全てかわし、距離を取った後

 反撃する為に距離を詰める。

 ナタクさん直伝であり、関帝直伝の青龍刀の

 使い方で攻める。

 突く時はナタクさんのような急所を目掛け、

 最短距離でインパクトの瞬間のみ力を入れ、

 斬る時は関帝の様に豪快かつキレ良く斬り払う。

 馬上で鍛えられた足腰と、

 武芸を学び直して鍛えられた足腰。

 この二つが俺の下半身の安定を増している。

 悟空さんの凄まじい攻撃をさけられるのも、

 この足腰があればこそだ。

「なるほど。もう槍術に関しては一丁前なんだな」

「御蔭さまで」

「ならオイラはコレで行こう。もう何も遮るものはねぇ」

 悟空さんは如意棒を小さくして懐に仕舞い、

 右拳を突き出し右足を前に出す。

 俺も同じように三略槍を収め構える。

「オラァ!」


 あっという間に拳の間合いに詰められ、

 拳の雨が降りかかる。

 紙一重でかわすが、拳の速度が

 早過ぎて風が後から吹いてくるほどだ。

 下がらずを得ない。

 それを見て更に畳み掛けてくる。

 拳を引く速度も繰り出す速度と変わらない。

 どこに隙があるんだこれは。

 あっという間に壁際まで追いつめられるが、

 何とか一撃脇腹を擦りつつも回り込んで逃げる。

 それでも軸足の角度を変えて詰められた。

 俺は恐怖を感じる。

 迫りくる拳に隙間は無く、

 ただ追いたてられるだけ。

 悟空さんは常に有利な距離を整え、

 相手に息つく暇を微妙に与えつつ、

 少し希望を与えながら追い詰めていく。

 心理的にも握られた。


 俺は無職で引きこもりだった自分が

 顔をのぞかせて来たのが分かる。

 何をやっても追いつけない。

 前は遥か遠い。

 この年で社会から外れて一人部屋に籠る。

 どんなにやっても追いつけない。

 絶望的な背中。 

 逃げ出したい。

 俺は何でこんな事をしなければならないのだろうか。

 誰かに褒められたい。

 誰かに必要とされたい。

 誰かに隣に居て欲しい。

 誰かに愛されたい。

 この世界でチート能力を与えられて

 俺は世界でもトップクラスになったと思う。

 だが上には上がいるのだ。

 まだまだそれほどでもない所で力を示し、

 支持を得たからと言って

 俺自身が立派な人間になった訳じゃないのは

 分かっているはずだ。

 追いつめられれば顔を出す。

 情けない自分はそのままここに居る。

「どうした?もう降参か?」

 悟空さんは手を休めず攻めてくる。

 俺は絶望の淵に立ちながらもかわす。

 体が反応している。

 何故だろう。

 最早粉微塵になって元に戻れば良い。

 しかし眼は拳を追い体は避ける事が

 段々出来ていた。

 そうだこの感じ。

 俺はこの大陸に来て一流では無かった。

 其々の人が其々の思いで手を少し抜いていた。

 だが今は皆全力だ。

 悟空さんもそうだ。

 何故全力で相手をしてくれているのか。

 俺の策を支持し、

 皇帝と戦っても負けない力があるか。

 その為の鍛錬。

 力とはただ力が強いだけでは勝てない。

 皇帝は唯我独尊の男。

 自分の弱さを捨てて自分の強さの身を信じた男。

 その男に勝つためには、

 俺自身もそれに勝るものが無ければならない。


 俺はおっさんでチート能力を与えられたが、

 考えたのは俺だし、鍛錬をこなして来たのも俺。

 太公望様は言った。

 卑下も過ぎれば自分以外の人も落とす事になる。

 そうだ。

 俺が成長できたのも皆の思いが籠った指導のお陰。

 俺はここで負けるわけにはいかない。

 こんな俺でもここまでこれた。

 俺に出会えて良かったと言ってくれた人がいる。

 俺に消える自分の後を頼む人がいる。

 負けるもんか。

 ここをもう一度這いあがって立ち向かうんだ。

「うぁあああああ!」

 俺は当たっても構わない気持ちで突っ込む。

 腰を据えてなど考えていない。

 もう当てるしかない。

 当てたい。

 その気持ちだけで拳を打ちこむ。

 悟空さんの動きは華麗だ。

 ひらりひらりとかわしていく。

 だが最早どうでも良い。

 俺は自分が当てる事だけを考えて動く。

 その間にカウンターを貰ったりしたけど、

 もう構う事は無い。

 幾らでも貰おう。

 だから当てさせろ!

「であ!」

 前のめりになりながら放った拳の先に、

 擦った感触が残る。

「甘い!」

 蹴りを腹に喰らう。

 だがこれは儲けた!

 俺は話すまいと左腕を起こし、

 悟空さんの足を抑え込む。

「ああああ!」

 片足でバランスを崩していた悟空さんの

 鳩尾に斜めだが開いていた右拳が入る。

「ぐっ」

 俺は悟空さんが効いていると思い、

 足の付け根まで腕を閉めながら進み、

 鳩尾へ拳を突き出す。

 悟空さんは態勢が崩れながらも拳を

 俺へ叩きこんでくる。

 肩が痛い鼻も痛い。

 でもこれを逃したら俺に勝ち目は無い。

 どんな形でも良い!

 勝たなければならない。

「負けるわけにはいかない!」

 俺は残った足を払おうとしたが、

 勘でそれは危険だと思いそのままにした。

 悟空さんはそこから自分で倒れようと、

 俺が抱えていた足を回転させて倒そうとしたが、

 俺は回転させない。

 そして倒れそうになっていた態勢を

 俺の方に引いて立たせる。

 そのまま俺は殴り続けた。

 恰好なんかどうでもいい。

 気を失うまで殴る。

 そう決めた。

「参った参った。もう降参だ」

 俺は鼻血が出て鼻がツーンとなりながら、

 歯茎から血が出て嫌な味が口の中にありつつも、

 瞼が半分腫れて垂れ下がって来ても殴り続けた。

 それから暫くして悟空さんは降参と言う。

 何故だ。

 俺はボロボロだしもう少しすれば勝てるのに。

「いやー良いもの見れたぜ。オラお前が綺麗な戦いに固執して綺麗に終わるのかと思ったんだけどなぁ。まさかこんな泥臭い戦い方が出来るなんて聞いてなかったよ」

「え……」

「この態勢で逃げ場が無い。オメェめちゃくちゃやってくるから読めないし、オラめちゃくちゃ痛ぇんだぞ?」

「でも……」

「でももヘチマもねぇよ。もう降参。参った。こんな勝負されちゃ敵わねぇよ。足を取られたオラの失策だ。分かるだろ?」

 俺はそれを聞いて腕を離す。

 そして崩れるように膝を折り、

 地面に手を突くと涙が溢れて来た。

 勝った。

 勝てた。

 もう勝てなくても良いと思っていたから

 尚更嬉しい。

「オメェ人間にしちゃあ良くやるよ。勘違いしてっとあれだけど、オメェ人間としちゃ異常だぜ?オラ達は其々偉業を成し遂げたり、国を崩すほどの力を持った者達だ。オメェはそうじゃねぇ。オラ達より短い生を生きているのに、これだけ追いつめるなんてホントスゲェぞ!」

 悟空さんは俺の背中をバンバン叩き、

 笑っていた。

 俺は頷く事しか出来なかった。

「オラ達を消滅させるなんてのは無理だし、それは皇帝にも出来ねぇ。それでも玉藻もナタクもオラも、オメェに負けたって思って降参するんだ。それは誇って良いぞ?」

「あ、あひがほうごばいまふ」

「はは、泥臭いけど良い攻めだった。負けて逃げそうになった時に、もう一度底から這い上がってきてなりふり構わず来た。あれはオラには読めない動きだった。そしてそれがミスに繋がった。考えて出来るもんじゃねぇ。そういうのが、皇帝にも通じる力の一つさ。忘れないでくれよな!」

「ふぁい」

「しっかし酷ぇ顔だな。ちょっと待ってろ」

 悟空さんはそう言うと、岩場の影に手を伸ばし、

 一つの瓶を取り出し俺の口の中に突っ込む。

 無理やり飲まされて首を振るが、

 悟空さんはもう少しもう少しと言いつつ止めない。

 結局一升瓶位の物を飲みほした。

「さ、先へ行けコウ。オラもオメェに賭けるぜ?だからさっさと終わらせてけぇってこい!」

 さっきまでボロボロだった俺は、

 無理やり飲まされた酒だか何だか分からない

 ものを飲み干すと体の芯から力が溢れ、

 忽ち回復した。

 なんてインチキ。

「悟空さん……」

「何も言うな。勝ちは勝ちだ。まさか綺麗な勝ち方以外嫌か?」

「いえ、いえ……有難う御座います、有難う御座います」

 俺は涙を流しながら悟空さんの手を握る。

 悟空さんは笑いながら握り返してくれ、

 爽やかに立ち去って行った。

 俺は負けられない。

 悟空さんとの勝負で俺は改めて

 その事を思い出した。

 悟空さんはやっぱり凄い人だ。

 恐らく俺の泥臭い部分を出そうと

 身を犠牲にして戦ってくれた。

 本来なら自分も武人として綺麗に締めたいはずなのに。

 俺は悟空さんの背中へ向けて

 頭を下げた。

 見えなくなるまで。


 


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