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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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太公望塾

「帳簿の付け方を間違えるでない」

「解っておる!」

 トウショウの街では太公望がファニー達に

 内政を教えていた。

 太公望の教えによりシンとアリスは帳簿付けや

 年貢の倍率、商人からの税など

 素早く呑み込んだ。

 今は宿を離れ、街の治水や田畑を見に

 出かけている。

 居残りはファニーのみとなっていた。

「あのなぁお主。コウは何れ何処かで王になるかもしれんのだ。お主が付いて行くと言うのであれば、自然内政もしなければならんのだぞ?」

「我は竜だ。このような事をしなくても何とかなる」

「行き当たりばったりで国が成り立つか!」

「それは他の者がやればよかろう!」

 太公望は内心辟易していた。

 ファニーの飲み込みの悪さに

 これが竜かと思ったのだ。

 竜とは人の更に上の種族。

 知能も高い。

 だが雑務では圧倒的に人に劣る。

 ならばこそ、あの竜人がコウの助力を

 得たくて付いているのだろうな

 と思ってもいた。

 だからこそ同行者には内政をある程度

 学ばせて、そこから更に軍事にまで

 手を伸ばしたい。

 優れた軍師、将軍が一人いた所で

 解決するものではないからだ。

 それをちっとも理解していないこの少女に、

 どうやって教えたものか頭が痛い日々を

 送っている。

 こうして思えば今さらながら、

 自分に対してコウは良く従い付いて来たものだ。

 碁を打つのも呑み込みが早く、

 相手をしていて楽しくなった。

 だというのに……。

 溜息を一つ吐いて太公望はファニーの前に座る。

「良いか竜の娘よ。確かに竜は人を遥かに凌駕するかもしれん。が、人口的に言えば、人が圧倒的に多い。ましてやあれの作る国となれば恐らく多種多様な者達が集まるだろう。そうなれば一人や二人の優れた者だけで何とかなるものではないのだ。お主は優れた種族であるのだから、あれの片腕になってやらんでどうする。何れ子を産み育てることなるのだ。賢母であれば国は残る。一代で消える国にしたいのか?」

「こ、こここ子供など!我は……」

 それを見て太公望は苦い顔になる。

 何ともまぁ英雄色を好むというが、

 あれはそういうタイプでは無かったな。

 色にかまける時間もないだろうから、

 自然そうなったのかもしれんが。

 そう考えると太公望は弟子を不憫に思った。

 将帥の下地はこうした者達の御陰で出来ていた訳だ。

 アリスという娘も最初は癇癪を起したが、

 あれはキレる頭があり、目標もしっかりしていた。

 だからこそその後は不平も言わず、

 今は黙々と内政の勉強に励んでいる。

 恐らく先々をしっかり見据えて、

 跡を継ぐものに対しても自分が教える

 可能性もあると考えているに違いない。

「兎に角、お主がコウを凌駕せよとは言わん。多少なりとも覚えてくれ」

「わ、解っておる」

 未だ頬を赤らめる竜の少女に、

 太公望は先が思いやられるなぁと天井を見ながら

 旅先で苦労しているであろう弟子を思った。

「太公望様、只今戻りました」

 シン公主の声がした。

「公主、上がってこられよ」

 太公望は三つ並んでいる机の

 更に奥にある机に座り、公主を待つ。

 トントンと規則正しい音を立てて

 階段を二人あがってくる。

「シン公主、どうであったかな治水と田畑は」

「この街は慢性的に水不足の感がありましたが、山水や井戸を使って田畑を潤し作物を育てているのが勉強になりました!」

「流石シン公主。良い目を持っておる。してアリスはどうか」

「そうね。肥料の工夫も中々えげつなかったけど、ああ言う風にして汚物を処理するのも水が少ない都市では有りなのかもしれないわね」

「宜しい」

 太公望は満足して頷く。

 シンに関しては育ちが育ちなので心配していたものの、

 高貴な者としての素養はしっかり備わっていた。

 親の育て方が良かったのだろう。

 公主然とはしておらず、上に立っても

 立派にやっていける姿勢と目を持っていた。

 またアリスに関しても前までであれば、

 肥やしを畑に捲いているのを見ただけで

 悲鳴をあげそうなものだったが、

 キチンと都市の状況を把握し、

 なるべく不要な水を使わず且つ伝染病を及ぼさない

 方策としての肥やしを見極めていた。

 この二人は競争相手と互いに見ているのか、

 とても早い進歩を遂げている。

 組ませて見せに行って正解だった。

 そしてファニーに眼をやると、

 帳簿と睨めっこしつつも少しずつやっている。

 これも進歩か。

 前までなら悔しさに暴れただろうに、

 少しは私の助言を取り入れたのか、

 集中している。

「では二人とも、自分が考える都市について構想を練って提出してくれるかの?」

「はい!」

「解ったわ」


 太公望は思う。

 弟子が無事であれば良いが、

 根をあげてやしないかと。

 関帝は生粋の武人。

 自分のようにじっくりと教える人物ではない。

 そこを抜けた先には恐らく玄奘がいる。

 あれも曲者だから、その教えに

 付いて行けているだろうか。

 そして太公望はハッとなる。

 しまった。

 想定していなかったというか失念していた。

 太乙真人に手紙を出せば良かった。

 ついつい教える方に気がいっていて、

 あの難物に対してどうか弟子に力を

 貸してくれるよう頼むべきだった。

 仮に関帝の鍛錬をくぐり抜け、

 玄奘の修行にも耐えれば、

 次は太乙真人だ。

 あれは今までとは別物の難物。

 手紙の一つも出さねば臍を曲げるかもしれない。

 太公望は急いで筆を取る。

「失礼仕る」

 野太い声が下から飛び込んできた。

「誰だ?」

 急いで手紙を書こうとしている所に

 声が飛んできたのでぶっきらぼうに答えると、

 あがってきたのはアルブラハだった。

「であればお初にお目に掛かる。アルブラハと申す」

「ああ、知っている。で何用かな」

「であるのだが、コウより太公望殿へ手紙を届けに参った」

「手紙……コウは今どこに居る!?」

「であれば次の街へ行くと言っていた」

「しまった……」

 太公望は手で顔を覆う。

 全くもって遅かった。

 コンロン山での間隔で居たものだから、

 もう少し余裕があると思っていた。

 だが思い返せばあの弟子である。

 学び吸収する早さは自分が一番よく知っていたのに。

「である。手紙に目を通してもらえませんかな」

「ああ、見る。で、コウはどうだったのかな」

「であれば問題無い。兵を率い内政も関帝殿に学んで何時でも兵を率いて領主となり得よう」

「……不覚……」

 我が弟子ながら天晴れと思いつつも、

 少女達との時間で尺度を計っていた為、

 対策が後手に回ってしまった。

 恐らくもう太乙真人にあっているだろう。

 そうなるとナタクとも対面しているに違いない。

 あれらも悪い奴ではないが癖が強すぎる。

 何とか巧く取り入ってくれれば。

 太公望は祈るような気持ちで手紙を開く。

 そこには懐かしい弟子の文字が綴られていた。

 トウショウで3領主会談をして、

 先ずは3つの領土をしっかりと固めて欲しい

 という旨の手紙である。

「やれやれ、苦労性というか何と言うか」

 確かに地固めは必要だが、鍵を握っている

 本人不在で会談をするのは早計だと思う。

 が、コウの事。

 その位の事は心得ている。

 だとすれば、これはこの先を考えた上で

 自分抜きの会談をと言う事だな。

 太公望は頭を掻く。

 これにシンを中心に据えて纏めさせ、

 我らが居なくなった後の統治に対して

 兵士から民までシンが居るから大丈夫、

 という物を解らせたいという狙いもあるのだろう。

 事を進めつつ、戦後処理もキッチリこなす。

 全くもって我が弟子ながら優秀というのも

 困りものだと思った。

「アルブラハ殿、了解した。長旅で疲れたであろうから、ゆっくり休んでくれ」

「であればこれにて失礼いたします」

 竜人は頭を下げて去っていく。

 ホントあれの周りには無骨者ばかりだな。

 と改めて思う。

 そして頭を切り替え

「お主ら、あまりのんびりしておると、コウに置いて行かれるぞ?」

 とはっぱを掛けた。

 3人娘はそれを聞くと作業に改めて

 気合いを入れ直し没頭する。

 自分もここからは厳しくいかねばな。

 これでは励んでいる弟子に対して

 師父としてだらしがない。

 太公望は厳しくしようとしつつも、

 ついつい甘やかしてしまうのだった。

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