決意
アルブラハさんと馬を走らせ続けて
日が頭の上に着た頃、丘に出た。
そして眼下に広がるものを見て
愕然とする。
「あれが首都なのか?」
アルブラハさんの言葉に同意する。
首都と思われるものは、
中心に神殿のような物がそびえ立っていたが、
それ以外は城壁もそれほど高くなく、
川が二本両脇に走っているだけ。
前と後ろは陸続きである。
俺の想像していた首都とは、
周りに堀があり攻めにくくして、
城壁は高いものだと思っていた。
更に言うなら活気をあまり感じられない。
城門付近では綺麗に整列させられ、
兵士が入場を厳しくチェックしていた。
そしてその脇では複数の兵士が、一人の
人物を袋叩きにしている。
以前ならその横暴さに冷静を欠いていたが、
今はそれが横暴とは少し違う毛色をして見える。
少しの不審人物も不正な品も
一切認めずつぶさに調べ上げ、
見つけたらみせしめとして一人だけ
列から出して叩いているのだろう。
それを見ればそれ以外の者は勿論の事、
見つかっていない者は逃げ出す。
結果として城内に不正なものが入らない。
また賄賂の類も、
この兵士達には通用しないと思う。
賄賂を貰えば誰かが上に報告し、
上はそれを処罰する。
見逃せば恐らくその組織の縦一列が
まるでスマホパズルゲームのようにあっさり消える。
皇帝リューの恐怖と言うものは、
恐怖政治というものは、
こうして成り立っているのか。
ある側面においては正しい。
だが人は締めあげられるだけでは、
息苦しくて気付けばあの世行きだ。
締める所はしめ、緩める所は緩める。
緩急を付けた見回りや検閲。
難しい問題だ。
これも答えの一つ。
だけど人の笑顔が見られない街や国に、
幸せはあるのだろうか。
俺の方に大きな手が乗る。
「であればコウ、よく見ておくが良い。この国のあり方を。この国の民の顔を」
「はい……」
俺達は馬を動かし先に行く。
この国の首都。
この国の今の姿そのものを目の当たりにして、
俺が皇帝と相対するとは大きな事を言ったものだと思う。
格が違う。
一冒険者と国のトップ。
見えるものも動かせるものも違う。
だが敢えて戦いを挑むと言うのであれば、
シンの涙を拭うと決めたのであれば、
俺は覚悟を決めるしかない。
今まで冗談で言われた事はあったし、
何れ考えろとは言われていたが、
誰かの為に、そして異世界に来てまで
宙ぶらりんな俺の為に、
俺が護りたい人たちの入れ物を、
俺は何時か作る覚悟を決めた。
その為の旅路。
きっと揺らぐ。
きっと迷う。
きっと失敗する。
それでも尚、
俺は責任から逃げずに立ち向える、
そんな男に俺はならなければならない。
関帝との鍛錬はその為の一歩。
「誰だお前らは!」
シレイの街の入り口は、
実に城らしい城だった。
城壁も高くしっかりしている。
何より兵士が無礼で良い。
俺はニカッと笑い
「関帝様に呼ばれて参りました!コウと言う者です。御取次願います!」
と右拳を隠して大きな声で言う。
「待たれよ!」
そう言って城壁の上に居た兵士は
降りて行った。
まぁもう夜も近い。
城門が開いているのは戦などの時のみだろう。
城内の住民の安全の為に。
関帝の民は笑顔だろうか。
俺の予想では、そこそこに荒々しくも
笑顔の絶えない街である様な気がする。
そうある方が、あの方らしい。
重い扉が音を立てて開く。
俺は馬を下りて拳を隠し、片膝をついて
頭を下げた。
「コウ、先程までの顔を見せよ」
「はっ」
俺はただ立ちあがった。
それを見た関帝は、声を上げて笑う。
「何があったか知らんが、危うく頭を下げる所であったわ」
「関帝にそんな事されたら、俺に罰があたりますよ」
「……そうさな。生きた時代が違う。生きた環境が違う。もし仮に同じ時代同じ大地に立っていたのなら、どうなっていたであろうな」
「どうにもなりません。俺はそう言う人間ではありませんから。流石に万の敵を退ける事は出来ませんし」
「お前がそう言うならそう言う事にしておこう。だがな、我が師となった以上、自分を卑下するような事は今後一切禁ずる。そんな暇があるなら、我が主君を超える位の気概を持て」
「徳に生き物語となり、苦しむ民の希望に長きに渡って君臨するあの方を超えるなんて」
「気概を持てと言っているだけだ。超える筈が無かろう」
「もっともです。……改めまして師夫!ご教授願います!」
「ああ歓迎しようコウ。お前を一人前の将帥にしてみせようぞ!」
こうして関帝の元で一人前の将帥になるべく、
修行が始まる。
兵を率い戦う為に。
皇帝とキチンと向き合い戦う為に。




