表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
第一章・引きこもり旅立つ!
13/570

引きこもり、若年性引きこもりを説得する

依頼を受けてスライムが

群れを成す山の麓へと進む

引きこもりのおっさんと

竜の少女。

そこで待ち受けていたのは……。

「一つ断っておく」


 森の中を進んでいると、

黙っていたファニーが言った。


「お主に命の危険が及ぶようなら、

躊躇せず焼き払う」


 そう言うと思っていた、とは自惚れだろうか。


「そうならないよう考えるよ。

そこで一つ相談というか、頼みがあるんだけど」

「今さら遠慮する仲ではあるまい。

ベッドを共にする仲だろう?」


 ニヤリと意地悪くほほ笑みながら、

ファニーは俺に顔を向ける。

俺は咳払いを一つして話を戻す。


「少しずるいようだけど、

千里眼を使ってもらえないかな」

「有るものは何でも使うのは正しい。

それを使わずに後手に回る方が悪手だ」

「なら頼む」


 そう俺が言うとファニーは立ち止まる。

そして一度目を閉じた後、目を開く。


「見えた。ここからそう遠くない

山の麓に洞窟がある。

そこにスライムはたむろしているようだ」

「となるとそこが敵の拠点てことだな」

「うむ。取り急ぎ向かう必要はなさそうだ。

連中の食欲は今満たされているのでな」

「そこまで見えるのか?」

「いや、これはあくまでも我の勘だが」

「それを信じるよ」

「ふふ、ならば行くとしよう」


 俺たちは再び歩き出す。

歩きだして暫くすると、少しずつ道が開けてくる。

これはスライム達の捕食の跡と言える。

森が溶かされて開けているのだ。

なるほど、こうなれば今まで偶に

来ていたスライムも

街近くまで出張ってこざるを得ないわけだ。


「そろそろだな」

「うん。それでどれを使う?」


 俺はリードルシュさんに貰った武器を

両手に持って、ファニーに見せた。

ファニーはチラリと見てブーメランを手に取る。


「良い選択だな」

「であろう?数をこなすにはコレが一番良い。

ムチは2番手として残しておきたい」

「了解。なら後は俺が身に付けておくから、

必要になったら」

「眼で合図するので渡してくれれば良い。

それ位の意思疎通は出来ると確信している」

「ならその信頼に答えよう」


 俺とファニーは笑いあうと、足を速める。

多数対少数で戦わざるを得ないなら、

取る方法は一つ。

ファニーを見ると、ファニーも俺を見ていた。

そして頷き合うと、走り出す。


「一番槍を頂く!」

「頼む!」


 荒れた森から抜けて、山の麓に出ると同時に

ファニーは俺の先に行き飛び出すと、

ブーメランを前方に向かって

薙ぐように投げた。

パシャパシャと音を立てて、

次々消えて行くスライムの群れ。

俺はそれを目で追いつつ、

逃れたスライムを斬るべく走る。


 リードルシュさんの剣。

黒曜石と隕鉄の合わさった剣だから

黒隕剣とでも名付けようか。

黒隕剣を引き抜いた勢いそのままに

スライムを薙ぐ。

更に横に居たスライムを上から下へ

唐竹割りし一旦下がる。


 間を置かずファニーのブーメランが、

次の列に投げつけられた。

俺は先程と同じように、逃れたスライムを斬る。


「何だのよ!」


 洞窟前に群がっていたスライムを、

ファニーと連携し洞窟の入り口まで駆逐すると、

洞窟の奥から怒声が飛んできた。

やはりスライムを意図して増やしていた

人物がいた。


「何だとは何だ。被害が出ているので

この雑魚を駆逐しに来たのだ」

「だから何だのよ!スライムを飼う自由を制限する

権利はお前達には無いだのよ!」

「黙れ小娘。こそこそ物陰から怒声を

浴びせる事しか出来ない小心者が、

雑魚を使って村に復讐か?」

「うぬぬぬぬぬ、ちょっと待ってろだのよ!」


 随分可愛らしい声がするな。

復讐というかイタズラだと感じてしまうほどの。


「これでどうだそこのヘンテコな女!」

「……みょうちくりんな小娘。

お前の企みは何だ?」

「復讐?アタチがお前達人間ごときに

復讐などしないだのよ」

「ならなんだ」

「スライムが可愛いからだのよ。餌をわざわざ

放置しているのだから、それを食べさせて

何が悪いのだのよ」

「……お前は一体何だ? 

どうやら人間では無いようだが」


 俺はやりとりに唖然として忘れていたが、

確かに背は小さいものの、

フードを被って顔だけ出ている

状態では人間に見える。

ファニーが感じているのだから

人間では無いんだろう。


「ふふん。良く聞けだのよ。

アタチはゴブリンシャーマンとドラフトの

ハーフという最強の存在だのよ!」

「異種交配の産物か。

それで生き場を無くして意思の

無いものと戯れて、寂しさを紛らわせて

いたと言う事か」


 フードを取ると、確かに昨夜遭った

ドラフト族のビッドと同じように、

頭の両サイドから角が生えていた。

しかし横にではなく、弧を描き先は

別方向へ曲がっている。

そして顔色はというと、人と同じように見える。

ただ喋る度に空いた口からは、犬歯だけでなく、

全体的に尖っており人と違うものが見えた。


「お、お前みたいなヤツに何が解るだのよ!

アタチは何もしてないのに、お父もお母も

何もしてないのに、村を追われただのよ!

ドラフトにもゴブリンにも居場所が

無いアタチの気持ちなんて!」


 喋りながら段々と涙目になり、

最後には嗚咽が混じり始めた。


「流石小娘。泣けば済むとでも思っているのか。

村を追われたから何だと言うのだ。

ドラフトの村やゴブリンの村のみが

世界の全てでは無い。現に私は人間ではないが、

街に居る。単純にお前が好き好んで引きこもり、

他者の迷惑を顧みずに居ただけの話だ。

誰かと共にと思えば幾らでも出来ただろうに」


 俺はその言葉を聞きながら、

自分の事を言われているようで

おっさんの癖に泣きそうになった。


「はい、ストーーップ!」


 俺は強引に二人の間に割って入り、

話を切る。これ以上やられたら、

恐らく俺全否定間違いなしだ。

おっさん、心が砕ける。


「何の真似だコウ」

「そうだのよぉ!びぇえええん!」


 二人に抗議されるも、俺は二人に

手のひらを見せ抑える。


「兎に角お終い。止め。

お互いが傷つけあうことはない。

ていうか俺に飛び火してるから

止めて。お願い」

「あ」


 ファニーはそう短く言うと下を向いた。

どうやら気付いてくれたようだ。

スゲー痛い。

ていうかファニーも似たようなもんだろう。


「お前名前は?」


 俺はそれを敢えて突っ込まずに、

ハーフの少女に尋ねる。


「なんでお前なんかにアタチの」

「お・な・ま・え・は!?」


 俺は笑顔で強く言いながら

顔を近づけて改めて問う。

これ以上気持のぶつけ合いをされたら、

それぶつけてるの相手じゃなくて俺だからね。

と言いたい気持ちを抑えている。


「リムン」

「リムン、俺はコウと言う。悪いが取り敢えず

スライムは少し残して討伐させてもらう」

「え!?アタチの」

「それは解ったが、このままだとリムンも多くの

人間達に駆逐される事になる。そうすれば

リムンもスライムも皆消えてしまう。

それで良いのか?」

「そ、それは……」

「だから折衷案だ。スライムを全滅させない。

自然に居る位の数まで減らす。これで俺たちの

依頼は終わる。そしてリムンお前は

俺たちと来る。それで終わり」

「ま、待てコウ!そんな事は我は許さん!」

「何でアンタなんかにアタチが!」

「五月蠅い」


 俺は二人を威嚇するように、低い声で言った。

ファニーもリムンも少したじろいでくれた。

良かった効果があって。


「リムン、俺も人が嫌になって引きこもっていた

事がある。そして現在も得意じゃない。

おっさんなのに実に情けない話だ。

未だに苦手な人と対すると気分が

悪くなって相棒のファニーに

肩をかりてしまうくらいダメだ。

でもな、一人だったら解決しない事も、

誰かが居る事でなんとかしなきゃって

踏ん張る事が出来る。リムンは俺以上に

辛い思いをしてきただろう。でも俺と一緒に来れば

俺よりマシになる。リムンならまだやり直せる。

行こう、俺と一緒に」


 俺はおっさんの情けない実情を

吐き出すように語りかけ、

リムンに手を差し出す。

リムンは恐る恐る手を伸ばす。

俺はそれを迎えに行ってしっかりと握る。


 なるほど、リードルシュさんと

握手した時と似た状況だ。

今回は俺がリードルシュさんの立場になった。

それで解る。水臭い。決めたなら

怖がらずに手を合わせよう。

友達になろうってことなのか、と。

そう思うと涙がこぼれる。


「何泣いてるの?」

「嬉しいからさ」

「嬉しくても泣くの?」

「嬉しいから泣くのかもしれない」


 そう。

俺は悲しくてももう涙は出ない。

それは悲しい事しかなかったからだ。

嬉しい事など無かった。

だから嬉しくて涙がこぼれたのだ。


「さぁ、リムン。これで契約成立だ。

スライムの冥福を祈ってくれ。お前が罪だと

感じるなら、俺がそれを背負ってやる」

「で、でも……」

「おっさんに任せろ。地獄行は決定なんだ。

それが罪の1つや2つ増えたところで、問題無い」


 こうして俺はスライムを適度なまでの

数に減らすべく掃討した。

冥福を祈りながら、怨むなら俺を恨めよと。

そう遠くない時期に俺も行くからと。


 全てが終わり振り向くと、機嫌の悪そうな

ファニーと涙を流しながら手を合わせて

祈っているリムンが居た。

引きこもり一人追加だな。

俺は剣を鞘に納めると、微笑んで二人の元へ戻る。


「あれ……」


 すんなりと終われば流石ヒーローとなるが、

そこは流石引きこもり。体から力が漏れて

行くような感覚がした次の瞬間、

暗闇に変わった。

引きこもりのおっさんがカッコつけるから。

そんな言葉が消えたのを最後に意識を失った。 

引きこもり、

若年性引きこもりを助ける。

カッコつかないのも無理はなし。

3人の引きこもりになった

おっさん達はどうなっていくのか!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ