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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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策の実

 俺は月の明かりを背に、トウショウの街を出る。

 しっかし気が重い。

 どちらかと言えば、俺も悟空さん寄りなのに

 想像通りの人物がコンロン山に居るとすれば、

 気が重い。

 とは言え助力を得るためには、

 俺自身の力が確かでなければ皇帝の生きる為の

 侵略を止める事が出来ない。

 その為には行くしかない。

 引きこもりの知識であの人何とか出来るんかなぁ。


 夜空を見上げながら馬をゆっくり向かわせる。

 目的地は見えているのだ。

 近くなればなるほど気が重くなる。

 引きこもり体質全開である。

 まるでアルバイトの面接にでも行くような気分だ。

 

 俺はそのまま馬に任せて進むと、

 コンロン山の麓まで来た。

 ため息が出そうだ。

 そのまま山道を馬が進める所まで行こうかと

 思ったが、それでは馬が餓死してしまう。

 幸い麓の近くには飼葉になりそうなものが

 生えていたので、馬を離しておく事にした。

 首を撫でて別れを告げると、

 馬は気持ちよさそうに首をもたげ、

 草を食べ始めた。

 俺はそれを見届けると、コンロン山へと

 登り始める。

 

 登り始めて大分立って息も上がってきた。

 喉が渇いたので何処かに湧水が無いか、

 脇を探していた所、池があった。

 俺はゆっくりと近付き池の水面を見ると、

 水はとても澄んでいた。

 俺がそれを手にすくい飲もうとした時

「これそこの御仁」

 と声が掛かる。

 横を見ると岩に腰かけ糸を垂らしている。

 ここ魚居ないみたいだけど何してるんだろ。

「ど、どうもこんばんわ」

「うむ。今日は良い満月じゃの」

 声の主は長く黒い前垂れの下に、

 白い拳法着を着ていた若い男だった。

「あの、水頂いても良いでしょうか」

「天からの恵は誰のものでもない。好きにするが良い」

「では」

 俺は改めて水をすくおうとすると、

 一匹の金の鯉が寄って来た。

「ほう、吉兆かな」

「目出度い事なのですね」

「その通り。めったに見れぬ者故、眼福だと思い、謹んで礼をし水を頂くと良い」

「はっ」


 俺は畏まり頭を下げてから

 鯉を避けて水をすくい飲む。

 実に美味い。

 今までに飲んだどの飲み物よりも

 美味く感じる。

 これはここまでの道のりの所為なのか、

 それとも二日酔いの残りがあったからなのか。

 鯉は跳ね、満月に踊る。

「どうやらお主の心根は良いようじゃ」

「それはまた過分なご評価を頂き有難う御座います」

 俺は鯉に右拳を隠して頭を下げる。

「ほう、異国の人が礼を知っておるとはまた珍しい」

「故あってこの国に参った次第で御座います」

「その旅路で学んだのか」

「左様でございます」

「そう改まらないでも宜しい」

「そうは参りません」

「どう言う事かな」

「私の思い違いならば失礼にあたりますが、御仁は太公望様では御座いませんか?」

 

 俺がそう言うと、

 その人物は声を上げて笑う。

「そちはコウじゃな」

「はっ」

「皇帝を打倒すべく諸国を巡る旅を始めたところとか」

「左様です。その為に御力をお貸し頂きたく参上した次第です」

「そうか、だが我もまた力を奪われておる」

「そうは思えませんが」

「というと?」

「力は奪えても知恵は奪えませぬでしょう」

「……なるほど。ただの乱暴者である何処かの者とは違うと言う事か」

「乱暴者に見えて、物の本質を見極める目は一流と見ますが」

「あれを乱暴者と言った事が癇に障ったか?」

「いえ、太公望様に試されていると思いまして」

 そう言うと太公望様は声を上げて笑う。

「出会うべくして今出会ったというべきかな」

「それはどう言った意味でしょうか」

「天の計らいじゃ。お主がまったく足りないものを、わしは伝え教える事が天命として与えられたようじゃの」

「私はその様な大人物では御座いません」

「自分を卑下する癖を止めよ。それはお主は満足するかもしれんが、他の者は気分が悪い」

「申し訳ございません」

「謝るのではない。答えを聞かせよ」

「私が卑下する事で自分の心を満たす代わりに、信じる者達を貶めているとおっしゃりたいのですね」

「そうじゃ。今われが考えている事が解るかな」


 俺は頭を下げながら考える。

 何を問われているんだ。

 俺の旅の目的、まったく足りないもの、

 仲間。

「私は足りぬ力を補い、確実に皇帝を倒す術を得る為にここに参りました」

「それは知っておる」

「それが間違いであると?」

「聡明なお主ならこの段で気付いておるはずだが」

「……なるほど。先の発言からして私は自分自身のみに目が向いており、それではこの国を統べる皇帝には勝てないと」

「そう言う事じゃ。確かに海老で鯛を釣る方法として、玉藻を立ててお主が皇帝と相対すると言う方法はこの状況の中では一番マシな策ではある」

「ですが、そこまでの道のりにおいて問題があると」

「そうじゃ。お主は一人で動くのは何故かな?」

「それは……」


 俺は言葉に詰まる。

 そして改めて自分の心の闇と相対する事になる。

 太公望様の言いたい事はそれか。

 無職で引きこもりが多少は改善した気がしていたが、

 致命的な問題が解決されていなかった。

 それはこの国に来てからの自分の動きを

 振り返れば解り易い。

 単騎。

 自分を貶めながらも、自分自身のチート能力しか

 信じていない。

 それで蜂起を促す為に統べる人達に会い、

 蜂起を任せていた。

 策を講じようとしているのは俺なのに。

 国を蘇らせるのは民であるはずなのに。

 俺はその民に訴えかけていない。

「気付いたようじゃな。良い事じゃ。それに気付けなければ、お主も皇帝と同じ道を何れ歩む事となったじゃろう」

「あまり褒められたものではありませんね」

「はは、確かに。だがな、お主は神か?仏か?」

「いいえ、滅相もない」

「じゃろう?わしも同じ。ちと普通の者とは違うが、神でも仏でもない。それを見つめて理解し、足掻くのが人。皇帝はそれを全て放棄し貫き通した。倒す者はそれとは別の道を歩むものが相応しい」

「私の策には中身が無い。自分の言葉に今さら本質に気付くとは情けない」

「いや、だからこそのわしの出番じゃろ?お主の策に実を与える方法と、心構え。これこそがお主に今一番足りない、且つこれがあれば鬼に金棒じゃ。力や技も重要じゃが、何より大事なのは心じゃ」

「改めてお願い申し上げます!太公望様!私に力をお貸しください。私は……俺は無職で引きこもりで世を恨み死を願ってきた愚か者ですが、変わりたいのです」

「先程から申しておろう。天命であると。ならば天命には背けまい」

 俺は涙を流しながら頭を下げ続ける。

 今までチート能力に比重を置いて、

 その実戦いを自分を起点として考え勝ってきた。

 だが今回は違う。

 大きな乱になれば、己の身は芥子粒の一つである事を

 改めて思い知らされたのだった。


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