海老で鯛を釣る方法
俺と玉藻さんは兵士達に告げて、
一旦ウンチャンの街に戻る。
そして宿にしていた所に来ると
「コウはわらわと共に行動するのだから、わらわの城に来ると良い」
と言われた。
「ですが連れも居りますので」
「一緒に連れてくれば良い。生憎ハクと二人では持て余しておる位じゃ」
「良いんですか?」
「構わん。その方が伝達も早かろう」
「では御言葉に甘えます」
実のところ妙に目立つ所におかれるよりは、
玉藻さんの城に居た方が、他から見ても
安全な存在になれるので動きやすくなる。
「コウ、どこに行ってたのだ?」
宿に入ると、ファニーとアリスが仁王立ちしていた。
あらま、怒ってらっしゃる。
「何処も何もこの街を統治してる人の所」
「で、何で一緒に来てるの?」
「玉藻さんの部下って待遇で、作戦を始める事になったから」
「作戦とはなんだ」
「鯛の一本釣り」
俺の顔面をファニーとアリスの拳がとらえる。
「これ、女子がその様な野蛮な事をするでない……と言いたい所じゃが、わらわも人の事が言えぬな。女だてらに剣を取り戦場を駆けておるのじゃからの」
玉藻さんは思い出しながら笑う。
いや、その前にこの拳をどうにかして欲しいんだけどな。
そう思いながら殴られたままで居ると、
パンと乾いた音がして視界が元に戻る。
俺は目線を下に向けると、ハクが居た。
「ハク」
そう俺が言うとハクは俺を見て頷く。
取り合えず頭を撫でておく事にした。
「コウ様それはどなたですか!?」
シンが血相を変えて飛んでくる。
するとハクは身構える。
「この子はハク。玉藻さんの傍で仕えている子だよ」
「玉藻様」
「これはこれは。ブロウド大陸皇帝リューの公主であるシン様ではないか。……なるほど。コウがここにいるのもそう言う理由か」
「左様です。姫に招かれここに参りました」
「これ、口調が戻っておる」
「あ、すいません。つい」
「良い良い。皆の者、わらわの城までついて参れ。今後の事を思案せねばならぬ故」
そう言って玉藻さんは身を翻して宿を出る。
ハクは俺の手をひっぱりついて行く。
ファニーとアリス、シンはムスっとした顔をして
後についてくる。
暫く恒例のパレードをしながら宿の真反対にある
間違いなく御城、という所に着いた。
「ウンナン城へようこそコウ。ここから我らの反逆は始まるのだ」
「はい」
俺は城を見上げて唾を飲み込む。
武将になった気分だ。
それから天守閣にあたる所まで
階段で上がり、一番奥に玉藻さんとハクが、
俺とファニーそしてアリスにシンはその前に
座る。
「さて軍師殿。どうやって海老で鯛を釣るのか聞いておきたのだが」
「軍師というほどの者では御座いませんが、考えを聞いて頂きます」
そう俺は言って頭をフル回転させる。
先ず初めにここで練兵を重ね基盤をしっかり固める、
その間に間諜を放ち各地で反乱の火種を巻く。
仮に討伐が中央から出れば、救援する。
ここまではありがちな反乱だ。
「玉藻さんに対してするお願いとしては、少し頼み辛いのですが」
「なんじゃ」
「海老になって頂けませんでしょうか」
「ほう……わらわで鯛を釣れるかな」
「その為に各地で反乱を起こさせます。そして首謀者として玉藻さんを担ぐ」
「その後は?」
「私はこの国の人間になりすまして紛れ込み、反乱が激化したのを見計らって身分を明かし、玉藻さんと練兵した兵士達を捕らえます」
「ふむ」
「その後、シン姫の力を借りて皇帝へ反乱鎮圧の報償として謁見を申し出ます」
「……そこで一対一か」
「はい。その時玉藻さんと兵士達も捕えられたフリをして頂いて、首都へ一緒に来て頂きます」
「お主が皇帝と対峙した瞬間にわらわ達は蜂起する、と」
「そうです。そうする事によって、皇帝と一対一の成立が確実になります」
俺が良い終わると、玉藻さんは扇子をバサッと広げ
「策略としてはまずまず。問題があるとすれば、反乱の火種をどう風で煽るかだ」
「この国で地に落とされた妖怪や精霊達を集めて煽れませんでしょうか」
「というと?」
「皇帝は他国の脅威を理由に侵略を推し進めています。しかし実は皇帝こそが国の脅威だったと示せば」
「我が兵はわらわに忠を尽くしてくれておるから問題ないとしても、だ。その他の国がそうであるかどうかは解らんな」
「確かに。ただ思うに玉藻さんの例からしても、妖怪や精霊が地に落ちた事で繋がる人間も増えているはずです。それが力を持っていればなおの事。人とは時に残酷ですが、情もある。時間がたてばたつほど、そして解り易い脅威があればある程、更に他にも同じ事があると知れば」
「釣られて出てくる者も居る、か」
「ただ今のところ策があるのみで、まだ中身がありません」
「中身も自分で整えると言うのだな。で、何故お前はそこまでする」
「それはシンに泣かれたからです」
「死を賭してまで戦う理由としては、弱いな」
「ですね。でも俺はこれまでもこれからもそれで戦えます。何せここに来るまでの自分は何もしない人間でしたから。今は力がある。なら頼ってくる者を出来る範囲で助けていきたいというのが信念というか、信条といいますか」
俺は頭を掻きながら答える。
まぁ確かに他の人間からすれば、そんな理由で
死ぬかもしれないなんて馬鹿げているだろう。
死に場所を求めてはいないが、
この世界に来て出会いを重ねた今、
死ぬならやれるだけの事をしておきたいと
思ったのだ。
「解った。ただし条件がある」
「条件とは?」
「難しい事では無い。お前には確実に皇帝を倒してもらわねばならぬ。今のお前では勝つ事すらあやしい。そうなると作戦の肝が潰れて台無しだ」
「どうすれば良いでしょうか」
「コウよ。わらわが居ると言う事は、他にも似たようなのがここには存在している。わらわよりとびっきりの者がな」
「……何か凄い嫌な予感がしますが」
「であろうな、お前の頭に浮かんだ二人を当てて見せようか?」
「いえ、結構です」
「フフ。では早速コンロン山へ行くが良い。」
「……マジッすか」
「マジも大マジよ。あれをどうにか出来んで皇帝をどうにかしようなどと、片腹痛い」
「解りました。先ずは俺の中身からですね」
俺は重たい腰を上げる。
「そうそう、言い忘れた」
「いえ、もう大丈夫っす」
「大丈夫ではないだろう。ここから東へ向かうとコンロン山はあるが、道中にトウショウと言う街があってな。そこに一人目が居る」
「えー。まぁ想像出来なくは無いですけど。一番兵を率いてそうな人っすよね」
「さもあろう。あれはわらわが災厄の権化であるなら、あれは戦の権化。皇帝はそれすらも地に落としたのだ。怖いぞぉー?」
玉藻さんは幽霊のように手をぶらぶらさせ脅かす。
こうして俺は、玉藻さんと組んだその足で、
風を吹かせに東へと向かうのだった。




