忍びて逢うは白き者
さてどうするか。
先ず皆と打ち合わせをと思ったが、
ハオのように皇帝に心寄せている人間も居るだろう。
何れ皇帝にも知れる。
ならここは折角チート性能を貰っている
俺が単騎で乗り込んで直談判が最適かな。
空から奇襲というのがベストだが、
ハオが向こうにアルブラハさんの事を
漏らしているなら、その策も向こうは
織り込み済みだろう。
「となれば」
俺は勢いをつけて布団から起き上がる。
そして窓の外を姿が見えないようにして見る。
外には衛兵が巡回している。
なるほど見張られている訳か。
向こうもやる気満々らしい。
となるとこの部屋の外も同じか。
俺は部屋の中を見渡し、
俺の身長161㎝より少し低い位の
箪笥があった。
天井との隙間は俺がしゃがんだ位ある。
俺は跳躍すると同時に身を屈め、
巧く隙間に入り込んだ。
そして天井の板を触り確かめる。
こういう木造建築の場合、
大抵雨漏りなどが起きた時用に
屋根裏に出れる場所がある。
運良く少し斜め横が浮いた。
そしてそこへ掴りよじ登る。
どうやらこの部屋より上は無かったようだ。
偶に倉庫代わりに小さな部屋があったりするが、
ここは無いらしい。
俺は屋根の中を這って行く。
埃だらけで咳き込みそうなのを
少し吸って息を吐いてを細かく繰り返し、
鼻ではなく口で行い凌ぐ。
そして丁度屋根の頂点にあたる部分に
辿り着く。
そして木で組まれた骨組みを上がり、
屋根板を黒隕剣で俺一人が出れる位に斬り込む。
瓦はキチンと接着してあり落ちてこない。
俺は黒隕剣の光の刃を瓦の間に差し込む。
そして暫く放置していると、
接着剤のようなものが落ちてきた。
そして一枚瓦が抜けた。
この要領でもう一枚ぬく。
俺は抜けた瓦部分から少し顔を出して
周りを見る。
この建物より高いのは、
離れた場所にある城のような物だけだった。
裏手には崖。
その崖に人影は無い。
だが用心して素早く俺は屋根の上に出る。
崖の方向へ屋根を跳躍して渡り、
後ろを見る。
何とか気付かれていないようだ。
てかこれ忍者みたいだな。
俺は少し楽しくなってきたのを抑えて、
崖の近くの家まで跳躍し、
崖も足場を見つけて崖の上まで辿り着いた。
街を一望できる。
そして俺から見て正面の先が船着き場。
左右にこの街の入り口である門がある。
奇襲されにくい断崖絶壁だから、
ここは警戒されにくかったのだろう。
背後にも気配なし。
さてここからどうするか。
俺は森を散歩するように歩く。
木漏れ日はどこも変わらない気がしたが、
生えている植物は違っていた。
割と温暖な気候で過ごし易い。
昼寝には持ってこいなのになぁ。
暫く歩くと足音が聞こえる。
恐らく2人。
俺は木の陰に隠れる。
これはラッキー。
通り過ぎるのを見ると
見回りの歩兵だった。
鎧もシルヴィ大陸とは少し違う。
鉱石を使っていない様に見える。
恐らく帷子のような物を着て
カバーするのだろう。
この装備で斬られたら終わりだな。
本来ならばれない様に、
衣服を頂戴しようと思ったが、
やられては元も子もない。
俺は思う。
俺だけ色々考えるのは不公平だと。
俺は素早く音をなるべく立てずに
森を移動する。
暫く走り抜けた所で、馬の鳴き声を聞く。
木の陰から覗きこむと、
そこにはあの街を統治している者の軍が
待ち構えていた。
「敵は空から来るかもしれん!警戒を怠るな!」
司令官と思しき白い鎧を着て白い馬に乗った者が、
高い声で指示を出していた。
……ん?高い声?
まさかあんな目立つ格好で副官とか
……無い事は無いか。
全軍集まっていると見て間違いない。
森の開けた場所で軍を展開し易い。
さてと、いっちょ参りますかね。
俺は意を決して森から出る。
「いよぅ大将がた!ご機嫌麗しゅう!」
俺は散歩で出くわした知り合いに声を掛けるような
テンションで兵達に声を掛ける。
俺が出てきた事で構えた兵士達も、
俺の言葉と雰囲気に唖然とする。
「何だ貴様は!?」
さっきみた白馬の兵が俺に問う。
「何だとは御挨拶だな」
「何?」
「ご存知なんだろう?」
「何をだ」
「反逆者だよ俺は」
そう告げると俺は手を前に突き出し
「神の息吹」
と唱えると、突風が吹き荒れ、
馬が暴れて兵が混乱する。
俺はその隙に乗じて、相棒2振りを引き抜くと
斬り込んで行く。
と言っても斬るのは不味い。
剣身の腹でなぎ倒して行く。
皇帝に対する不穏な動きであれば、
味方に付けられる可能性がある。
そして一番分かり易いのは力を見せる事。
これは万国共通だろう。
「雑魚相手に力を示して楽しいか?」
俺は黒刻剣で
背中に斬りつけられたのを防ぐ。
「反応は良し」
「それはどうも」
俺は間髪入れず白馬を吹っ飛ばす。
「これはどう?」
白馬から飛び上がり、
勢いをつけて振り下ろされる青龍刀。
俺は黒刻剣と
自分の腕を当て防ぐ。
凄まじい衝撃だ。
シンの纏っていた炎も無いのに
この攻撃。
気を練るというのを生活の一部にしている
部族なのかもしれないな、ブロウド大陸の人達は。
俺は隙を見て白い鎧を纏う者を
蹴り飛ばす。
しかし宙返りし、一気に間合いを
地面を滑るように詰めてきた。
そこからの斬撃は流れるようだった。
御行儀が良い訳じゃない。
実戦で磨かれた隙の無い連続攻撃。
「神の息吹」
俺は黒刻剣で
受けとめた後、増幅させた魔法で吹き飛ばす。
俺は改めて相棒達を構える。
「どうした大将。こういうのは卑怯と言うかい?」
「いいえ、言わない。素敵よアナタ」
「それはどうも」
「まぁあの小僧にアナタをどうにか出来るとは思っていなかった。でも今こうして相まみえて見ると、失策だったわね」
「俺をやれなかった事がか?」
「違うわよ。直々に私が赴くべきだったって事よ。アナタに余計な気を使わせてしまったわね」
「どう言う事かな」
「まぁ立ち話も何だし、御茶でも如何?」
そう言うと、何処からともなく
一人の着物を着た少女が現れた。
「心配しないで。この子はハク。私の従者。さ、行きましょう」
「鵜呑みにしろと?」
「するしかないでしょう。貴方は私の力が必要なはず」
そう言って白い鎧をあっさりと脱ぐと、
現れたのは隈のように眼の下を黒くした、
白い肌の女性が十二単姿で現れた。
「ようこそ異世界の方。わらわの国へ」
もし俺の仮説が正しいなら、
皇帝は化け物で間違いない。
これは本格的に対策を考えなければならない。
俺は女性の十二単の隙間からチラリとのぞく、
キツネの尻尾を見て血の気が引いた。




