引きこもり、初クエストを始める
クエストを開始する
おっさんとファニー。
簡単に思えたクエストだが……。
リードルシュさんから貰った武器を携え、
俺とファニーは街に入ってきた時の門を出て
斜め左へと進む。
街の周りは低い芝生が生い茂っており、
見渡しは良い。
不意の襲撃は心配なさそうだ。
暫くその草原を歩いて行くと、
民家が幾つか見えてくる。
そしてその近くには畑があった。
畑に近付くと、丁度民家から
出てきた人と出会う。
麦藁帽子にこの世界のベーシックな服装である
布のシャツにベージュのベストに
ボトムスを履いていた。
足元は長靴の様なものを履き、鍬を持っていた。
「どうもこんにちわ」
俺は何とか普通に声をかけた。
昨日引きこもりが顔をのぞかせたが、
寝た事で少し回復した。
ファニーに頼りっきりになってしまったり
頼りないと思われたくないから良かった。
「ああ、どうも。アンタら冒険者か?」
「はい、ギルドから依頼を受けて参りました」
「助かるよ!」
声をかけた人は鍬を投げて
俺の手を取り硬く握った。
よほど困っていたようだ。
確かに農業で生計を立てているなら当然か。
「で、早速ですけどスライムの群れは
どの辺りに?」
「ああ、あいつらはこの畑の先へ進んだ
森から来るんだ。粘液で森も荒らされて
いるから解ると思う」
「しかし、毎回こんな感じなんですか?」
「いや、いきなりだよ。毎年収穫時期になると、
多少は居たしそれくらいなら俺たちでも
追い払えたが、今回は異常だ」
「そうですか……解りました。早速向かいます」
「お願いします!」
最初は気だるそうだった農家の人も、
別れ際には頭を下げて
俺達を見送った。
「気になるの」
「ああ」
俺たちは畑を踏み荒らさないよう、
遠回りをしつつ
農家の人から聞いた所へ向かう。
「なぁファニー。スライムってものは
いきなり発生するのか?」
「いや、スライムはある程度成長すると
分裂して数を増やす。
だが、その数は知れたものだ。
人が増える速度よりは遅い。
何もないところから出てきたか、
という問いに関しては
我は答える術が無い。千里眼を持って
いてもスライムの
研究をしようとは思わなかったしの」
「そうか。じゃあ質問を変えよう。
スライムを意図的に増やす事は可能?」
「それなら可能だ。家畜を飼育するようにな」
「とすると自然発生的な大量発生という可能性と、
誰かが意図的に増やした可能性の
両方が有り得ると言う事が」
「うむ。確率として高いと思われるのは後者だが」
「とすると目的は街の自給自足の阻害?」
「あるいはあの辺りの農家への嫌がらせか」
俺たちはあらゆる可能性を考えた。
考えなければ背中から討たれる事も有り得る。
「なるほど、これは酷い」
俺たちは農家の人が言っていた森の入口へ立つ。
そこには粘液で荒らされた跡があり、
木などは中心部まで削れている物もあった。
スライムは農家へ向かって一直線に進んでいる
訳ではないようだ。
「ファニー、スライムっていうのは
栄養をどう取るのかな」
「体内に取り込んで溶かせるもので、
生命のあるものだな。
簡単に言えばエネルギーを含んでいる物を取る。
なので畑を荒らすのも、木を溶かすのも、
生命力を奪う為には収穫された後では
ダメなのだ。息づいている状態での
捕食が必要になるの」
「なるほど、スライムって意外に凶暴なんだな」
「まぁな。しかしここまで露骨なのは珍しい。
お主も解っているようだが、スライム
自体は防御する機能が無いに等しい。
なので表だって出てくる事は少ない。
形作っている表面は刃物などで簡単に傷つき、
一度傷がつけばそこから内部のものが
流れ出し消えていく。
回復手段も無い。弱点は言わずと
知れた刃物と炎だ。
刃物は先に説明した通り、
炎はスライムが蒸発するから」
「……やはり気を引き締めて行くのが正解か」
「だの。ミレーユに他意はないだろうが、
依頼主には他意があるかもしれん」
「じゃ、行こうか」
俺たちは慎重に森の奥へと進む。
初クエストで簡単なものだと踏んでいたが、
どうもそうではないようだった。
初クエストには
なにやら裏がありそうだ
と考える、引きこもりのおっさん。
この先に新たな出会いと
問題があるのか!?