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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
戦いの道-タオ・ヂャンー

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天を睨む男

 長い巨大な階段を上った上にある、

 かわらの屋根の五階層の建物がある。

 その入り口で上半身裸になり、

 三つ編みにした後ろ髪を揺らすことなく

 腰を低くし、拳を突き出す男が居た。

 筋骨隆々の体から突き出される拳は、

 一切の澱みなく澄んでいた。

 音は後から届き、その拳の速さは

 並大抵の鍛錬では築き上げる事が出来ないものだった。

 だが男の目は空を睨む。


 男はこのブロウド大陸の中でも

 少数部族の生まれだった。

 使えるものが刻一刻と変わる中で、

 男が得たのは鍛錬する事のみ。

 やがて戦に強制的に参加させられた。

 戦いの中で飛び散る命。

 男は自らの行ってきた鍛錬が、

 命を奪う事のみしか出来ない事に絶望する。

 それでも部族を護る為に戦い続けた。

 しかしいつまで経っても一兵士。

 少数部族と言う事だけでなく、

 ただ殴る蹴るのみの男に対して

 上層部のウケは悪かった。

 そして致命的だったのが、

 男は発勁を撃つ事が出来なかったのだ。

 いつも相手を打ち倒す事のみを考え、

 空を睨み恨み続けた。


 男はある程度資金が出来てくると、

 兵を雇い纏め戦果を挙げて、

 政権闘争に加わるまでに至る。

 そして何故か当時の皇帝の公主に見初められ、

 皇帝にまで登り詰める偉業を成し遂げる。

 少数部族から皇帝になった事で、

 色々な事を言われたが、

 妻となった皇后はそんな事を忘れるほど

 優しく良い女性だった。


 月日は過ぎ、子供が出来る。

 血塗られた拳に乗った命。

 その命の重さに男は恐怖した。

 この命と同じ命を沢山奪ってきた。

 謀略で相手の一族を手にかけ、

 自らの一族が専横しようとすれば、

 自らの一族すらも消し去った。

 男が弱みを見せた時、

 透かさず魔が差し込む。

 この命を護る為には、

 自分に歯向かう者全てを服従させ

 安全を確保しなければならない。

 

 男は小競り合いが多かったブロンド大陸において、

 間諜を放ち戦乱を激化させる。

 そして弱った国を糾合した。

 皇后はそんな男に対して宥め、

 平和を望んだ。

 国を糾合し、前皇帝を凌ぐ国にしたが、

 皇后の一族のみが扱えるタオの術は

 皇帝よりも崇拝されていた。

 男はそれでもその力は皇后達特殊な者たち

 のみが扱える力だとして大事にしながらも、

 他の者も皆出来ないと信じていた。


 だがそれは現れた。

 遥か西の大陸で、

 タオの秘術よりも更に大きな力が、

 大地から天を貫かんばかりに立ち上ったのだ。

 男は一度絶望から救われ這い上がったにも拘らず、

 また地に落とされた。

 男のやり方を快く思わない者たちの中には、

 それが天の証と謡い、統治を批判した。

 悪戯に戦渦を広げる暴君であると。

 

 男は決意する。

 この国、この大陸だけでは足りない。

 全ての特別な力を持つ者を滅ぼさなければ

 自分は救われないと。

 その手始めに、皇后の一族を処分した。

 皇帝を貶めた罪として。

 だが皇后は幽閉に止めた。

 何故だか処分を下せない。

 本来忌むべき力の持ち主であるのに。

 

 公主が見当たらないと聞いて、

 男は気にも留めなかった。

 

 男は徴兵制を布き兵士たちを訓練する。

 怨嗟がとぐろを巻こうとも、

 もう止める事はできない。

 この世の中の特別な力を持つもの

 全てを滅ぼさなければ自分は生きていられない。

 

「とまぁ0か1かしかない男の話だ」

 ロキはその男の朝の日課である鍛錬を

 屋根の上から見ながら嘲笑する。

 武道家であれば、気を感じるはず。

 それすらも機能していないあの男は、

 その存在そのものが、世界の輪から外れていると

 考えた。

「で、父上。どうなさるので?」

「うーん、実のところあの手合いは良く解らないんだよね」

「確かに。権力を笠に着ているだけなら容易いのですが」

「そうなんだよ。やってる事は殺戮者であり、暴君であり、世界の均衡を犯す者なんだけどね。本人至って純粋に防衛本能で戦争をしようとしてるからね」

「極端な男だ」

「そうだね。でもそうでなければ、あそこまでには成れない。ひょっとしたら僕も危ない」

「父上でもですか!?」

「僕にだって天敵は居るさ。あれは誰の意見にも従わず、何の啓示も受け付けない。ただ己のみに特化した男だ」

「そうなると、コウでもどうにもならないのでは?」

「あれも似たような存在だからね。さてどうなる事やら。この大陸では僕らの加護は無い。コウ自身の力のみで切り抜けるか、はたまたこの国の神の加護を得るか。まぁ見守ろうじゃないか」

 そう言ってロキとナルヴィは消えた。


 風雲渦巻くブロウド大陸。

 この世界で生まれたこの世界の輪から外れた者と

 コウは如何にして戦うのか。

 その行方は暗雲に包まれていた。

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