竜人対元無職引きこもり
「コウ、ちょっと待って」
闘技場の入口まで案内された俺を、
アリスが入り口前で待っていて呼びとめる。
「よう。そっちは問題ないか?」
「色々問題あるわね」
「それは俺が今から剣を交える相手の事だろ」
「……気付いてるの?」
「ああ、俺の相棒が緊張している」
「そう言う感じ方な訳ね。でも正解よ。あれはこの世界の生物の頂点の一つ下である竜の一種で、生み出す力のみに特化した竜が生んだ竜人族の者よ」
「この世界に来て色々あったから、その位じゃ驚かない」
「まぁ見ての通り体が硬い。そして怪力もファニーに勝るとも劣らないものがあるわ」
「それも見て解る。さっきまで手加減していたからな」
「後は、これが重要なんだけど」
「おう」
「あいつにはアンタの魔法は通じないわ」
「通じないと言うのはダメージを受けないってことか?」
「そう言う事」
「でも足止めには使えるか」
「それはね。後は恐らく黒刻剣では傷を付けられない」
「それは不味いな。下手をすると黒刻剣が欠ける可能性があるのか」
「そう。この大陸で魔力を受けて出来たものだから」
「と言う事は黒隕剣ならいけるわけだな」
「恐らく」
「有難う。まぁ向こうもこっちをやる気はないだろうから程々に体験させてもらうわ」
俺は手をひらひらさせてアリスの横を通り過ぎる。
そして闘技場に出ると歓声が沸き起こる。
ホントどんな風聞があるのやら。
俺は溜息一つ吐いて、竜人の所へ行く。
「どうも。御指名に与って恐縮です」
「であるか。我はお主と戦いたいがために、このような余興に興じている」
「そうですか。おまたせしてすみません」
「ではない。我が早すぎたのだ。だが丁度良い具合に体は温まって居る」
「では俺の温めに付き合って頂けますかな」
「であろう。そうこなくてはな」
お互いに笑い合うと、
俺は黒隕剣を引き抜き、剣身を光らせる。
それを見て竜人は目を丸くしたが、
直ぐに元に戻り大剣を構える。
「では」
「行きます!」
そう俺が言うと、瞬時に間合いを詰める。
そして超近距離で黒隕剣を大剣に叩きつけた。
衝撃波が生まれ、客席はどよめく。
そこから俺は流すように速度を上げて
黒隕剣を叩きこむ。
それを顔色一つ変えずに全て大剣で受けとめる
竜人。
「あ、そうだ。忘れてました」
「であるか?」
「俺はコウと言います」
「であったな。我はアルブラハである」
「宜しくお願いします」
「であるな」
俺達は頬笑み、アルブラハさんは大剣で
薙ぐ。
それを俺は黒隕剣で受けつつ後ろへ後ずさる。
凄まじいパワーだ。
この世界に来て力はかなり優遇されていると思ったが、
それを凌ぐしこれを食らったら一溜まりもない。
「……であったな。お前は評判通りだ」
「そうですか?貴方が凄過ぎるのは解りますが」
「であればこそ、我もお前が凄い事が解るのだ。冒険者と立ちあったが、我の一撃をまともに受けたのはお主が初めてだ」
「相棒のお陰です」
「であったとしても俺は嬉しい。剣士としての礼儀を弁えるものを、我は侮りはしない」
「侮って欲しかったんですけどね」
「であろうが、お主も剣士として剣を交えたいと思ってくれたのだろう?」
「ええ、俺も速度とパワーをあげさせてもらいます」
「であるか。ならば我も」
そう言うと、アルブラハさんは竜の咆哮を上げる。
ビリビリと体全身にアルブラハさんの強さが上がったのを
感じる。
――相棒、我を抜け――
俺の頭の中に黒刻剣の声が届く。
いきなり解放するのか。
――あれは本気だ。こちらも奥の手を隠しては危ない――
―我も同意だ。あれは危険すぎる―
オッケー。
俺は背中の黒刻剣を引き抜き、
2振りの相棒を地面に向けて目を閉じ集中する。
湧きあがれ。
そして解き放つ!
「はぁっ!」
俺は腹の底から竜の咆哮に負けないように声を出して
相棒達を構える。
静電気が髪の毛を浮かし、
体が帯電する。
バチバチ言って痛いが仕方ない。
相棒、ここだとどれくらい集められる?
――魔力、理力、法力、霊力諸々まぜこぜだが――
なら全部吸い込むしかないな。
――やってみるか。この大陸のものではないものもあるが――
行こうぜ相棒!相手は最強に近い男だ。
――応!――
俺の周りに風が巻き起こる。
青や白、緑や赤、紫の粒子が俺の体に集まってくる。
これはキッツイ。
マジで色々なものが混ざってて、
血の流れが速まっているのを感じる。
心臓の鼓動も激しい。
「行きま、す!」
俺は地面を蹴ると、想像以上にスペックが上がって
居る事に驚きそのままアルブラハさんを
吹っ飛ばしてしまった。
これは不味いな。
剣を叩きこんだら斬ってしまう。
「ふふ……」
闘技場の壁に激突し、衝撃波で壁に窪みを作りながら、
アルブラハさんは笑う。
「やはりここまで遠出してきた甲斐があった!お前こそ我が求めていた剣士だ!」
そう言うとアルブラハさんは背中に羽根を生やし、
滑空して俺に斬りつける。
相棒達で受けとめたが、
その衝撃で地面に窪みが出来る。
だがバランスを崩せない。
「つあっ!」
俺はそれをはじき飛ばす。
アルブラハさんは空へと吹っ飛んだが、
「良い、お前ほどの男と剣を交える事が出来るとは!ただ一介の剣士としても俺は嬉しい!」
「であっ!」
俺は虚を突くべく跳躍し、
空中戦を挑む。
「面白い!面白いぞ人間!いや、コウ!」
俺達は空中で剣戟を交わす。
相棒欠けてないか?
――心配無用だ。集めたものでカバーできている――
なら上等だ。
俺は速度を上げる。
俺が上になり重力と落ちる力を加えて
アルブラハさんに剣撃を叩きこむ。
途中からアルブラハさんは防御に徹していた。
何か狙っているのか。
やがて地面が近付くと、
「我も本気を出させてもらう!」
そう言ってから二度目の咆哮を放つと、
体を緑の炎が覆う。
あれはヤバイな。
相棒達、持ちこたえられるか。
―無論―
――応!――
なら行くぞ!
俺は地面を蹴り間合いを詰める。
アルブラハさんも地面を蹴り俺との間合いを詰める。
剣と剣が交わる。
力比べを御所望らしい。
俺はこの吸収した力がどれだけ持つか解らないが、
受けて立つ事にした。
「うぉぉぉおおお!」
「はぁあああああっ!」
一進一退を繰り広げる俺達。
体力切れは期待できない。
俺は隙を突いて大剣を弾き、
距離を取ると、
「行けっ!」
剣を袈裟斬り、逆袈裟斬りをして空を斬り、
風の刃をアルブラハさんへ向けて放つ。
だがそれを咆哮で掻き消された。
ホント咆哮ってば便利。
などと考えつつも、どう攻略したものか
明確な答えを出せずに居た。




