宴の席
「さぁ皆、お腹すいてるでしょうから、じゃんじゃん食べてね!」
王妃は席に付かずに料理をテーブルに
山ほど運んできた。
女中の人達も何人かいたが、
皆王妃が自分で運ぶのを止めない。
寧ろ王妃様それはあちらに、
王妃様これは英雄殿の前に
など指示を出していた。
はいはいと言いながらその通りにする
王妃。
どうやら付き合いが長いのか、
気にも留めないようだった。
「では遠慮なく頂きます!」
俺は手を合わせて頭を下げると、
安心感から空腹を強く感じて食事に
がっつく。
魚の生け作りに骨付き肉や、
フルーツの盛り合わせ、
炒めた穀物など色とりどりの食材に
我を忘れて食べた。
「コウもようやっと俺達に慣れてくれたようで良かった」
「ホントね。最初はガチガチだったもの」
王と王妃は頷きあう。
俺はよく噛んで飲み込んだ後
「すみません王と王妃に無礼な感じで」
と返した。
「無礼も何も無い。前も言ったがお前はこの国の為に大きな事を2つも成し遂げた。それも最低限の戦力と被害でだ。今この都でも話題はお前の戦いぶりで一杯だぞ」
「そうね、聞かない日は無いわね。何しろ胡散臭いアイゼンリウトと、超絶拒絶体質のエルフの里で事件を解決したんだもの。ここに来るエルフの数も段々増えてきたし、交易も増した。国としては有り難い以外ないわ」
「そう言う事ですコウ様。私としても財が潤うのは有り難い。福祉などの政策にも回せますしな」
「ザルツボルド……こういう席で財政の話は止せ。お前は頭からずっぽり財務に浸かってるな」
「それはそうでしょう。御二人が豪気な所為で気苦労が絶えませんのでね」
「ザルツボルドも昔は天下無双の怪力神官だったのにねぇ」
王妃が意味ありげにニヤリと笑いながら言うと
「その話は止して下さい。もう昔の事です」
とザルツボルドさんは慌てて止めた。
ザルツボルドさんが天下無双の怪力神官……。
確かにあの筋肉の付き方なら頷ける。
でも想像すると面白かった。
そろばん片手に魔物を殴り倒す姿。
この世界にもそろばんはあるのだろうか。
でも神官だから書物かな?
などと考えて笑うと
「コウ様そう笑わないで頂きたい」
ザルツボルドさんのお叱りを受けて
すいませんと謝罪すると、皆笑った。
「私も怪力神官の名は存じておりますわ」
ウーナがそう言うと、ザルツボルドさんは
酸っぱい顔をして
「ウーナ、言うでない。元神官とは言え元上司なのだぞ」
「あら申し訳ありません。ですがザルツボルドさんはクロウディス殿下と同じ位に武勇伝をお持ちなものですから」
「……むぅ……殿下と同じと言われると悪い気はしないがよさんか。私を話のネタにするでない」
「でも多くの方がザルツボルド様に救われたのです。元部下としては、鼻が高い位ですのよ?」
「……ウーナも市井に紛れれば変わるものよな」
「私は私が信じる者の為に戦っています。それが昔とは少し違うだけの事ですわ。信仰を無くした訳ではありません」
「それは私とて同じ事だ。財務を行うのも道を説くのも私にとっては少し違うだけだ」
「お前らホント神官くさい話が好きだな」
王は骨付き肉の骨をポイと入れ箱に投げ入れると、
つまらなそうに言った。
「神官くさいとは何事ですか。この世にオーディン様が居て下さるからこそ、この世界はあるのです」
「だが庶事万端隅々までしてくれる訳ではあるまい」
「それは私達がやるべき事です。神の揺りかごに揺られて一生を終えたいのであれば、山にでも籠られれば如何かな?」
「おー怖い怖い。破壊坊主が怒った」
「……クロウディス王……いい加減にして下さい。お客様の前ですぞ」
「客は客でも説法を聞かせる客では無い。仲間として友としてこの俺が呼んだのだ。お前の所為で子供達が飽きてしまったではないか」
そうクロウディス王が指差すと、
窓の近くにあった弓矢の車の近くで
リムンや王女、王子が触りながらキャッキャしていた。
それに恵理やロリーナも混ざって
楽しそうにしていた。
「ぬぬぬ」
「全くお前はカタブツな所が玉にキズだ。反面実務に置いてはザルツほどのものはこの国には居ない。それは俺が保証する」
「……何ですか落としたり持ち上げたり」
「別に持ち上げも落としもしない。お前らが真面目だから真面目に返してやっただけだ。何の文句がある」
「別にありません」
「というか酒が足らんのではないか?未だにカタブツ口調が取れとらん!大きな事を成し遂げた友を迎えるのにそんな事では我が国の度量が疑われるではないか!」
熱く燃え上がり立ちあがる王。
この人威厳が凄くあるんだけど、王妃の言う通り、
冒険者みたいだ。
しかもヘラクルスさんと似た感じの。
「アンタ達演説したいなら外でやりなさい。ご飯が不味い」
「ん?俺は美味いが」
「アンタの問題じゃないのよ。英雄さんの飯が不味くなるのよ」
「それはいかん!酒だ!酒を持て!」
「酒ってアンタ前回それでしくじってるじゃないの!まだ懲りないの!?」
「いや酒は場の潤滑油ぞ!」
「アンタの場合それで滑りまくってるじゃない」
「……うむ……」
ションボリする王。
それを見たうちの女性陣は
次に俺を見てクスクスと笑っている。
いや俺こんなじゃないからな。
……え。こんなじゃないよね?
何だか人事に思えなくなって俺までションボリ
して来た。
食事を頂きながら、どこでも女性は強いなぁと
ゲンナリする。
「さぁ皆席について!これから英雄さんの武勇伝を聞く時間よ!」
王妃はいきなりぶちあげて子供達を呼び戻す。
駆け足で席に戻り、目を輝かせている。
ああ、凄い困った。
めちゃくちゃ苦手な、下手をすれば自慢話を
俺は皆の前でしなきゃならないのか。
肩を落とす俺を見て、女性陣はニヤニヤしている。
まったくコイツらは。
「ではありのままお話します」
こうして俺はこの世界に来た初めから、
冒険者としての活動、
アイゼンリウトでの出来事、
エルフの里での出来事などを
なるべく客観的に語り始める。
子供達は感嘆の声を上げながら、
女性陣は所々でツッコミを入れながら
宴の席は一応盛り上がったのだった。




