グラディウス王室
俺達はザルツボルドさんに先導されて
王座の間へと向かう。
大きな扉をザルツボルドさんが押して
現れたのは、この街を象徴するかのような
内装になっていた。
多くの剣や武器、そして窓の側には
大きな弓矢に車が付いたものや、
大砲のような物まであった。
いつ他国が攻めてこようが内乱が起きようが、
この城のが健在なら戦えるという物ばかりが
ひしめき合っていた。
そして中央に大きな丸いテーブルと、
椅子が10個あり、その奥に一段高い所に
立派な椅子が2つある。
何と言うか王と王妃の性格が見えてきそうだ。
立派な椅子とは言え、アイゼンリウトにあった
玉座とは違う。
稼いでいる商人なら持てそうな座り心地の良さそうな
椅子だった。
それを見て女性陣の顔を見ると、
皆頷いていた。
あれ可笑しい。
普通ここは女子としてはロマンが無いとか
そう言うのを言いそうな場面なのに。
「うむ。だがもう少し巧く内装に隠せないものか」
「だよねー。これじゃ威圧しちゃってるし。寧ろ何も無いですよー位の方がいざって時はアタシも良いと思うけどね」
「恵理ねーちゃんの言う通りだのよ」
「そうですわね。威圧するよりもいざと言う時に出した方が不意打ちになりますものね」
「鍛冶屋の立場から言わせてもらえば、これだけの技術があるというのは脅威になるから攻める気を失わせるには頷ける配置です」
「一応王様という威厳を示しても僕は良いと思うけどね」
何と言うか皆王様目線でコーディネートしてるな。
怖いな。
どこの王様になるつもりなんだ。
それにこれ聞かれたら確実に怒られるだろ。
ひやひやしている俺の肩に誰かが手を置く。
「わざとやってるのよ。貴方達が来るって言うから」
ミレーユさんよりも低く、しっかりした女性を思わせる
声色が俺の耳の側で聞こえる。
俺は驚いて飛び退くと、
そこには軽鎧を身に付けた、黒髪の女性が立っていた。
どことなくイーリスに似ている様な気がする。
「いらっしゃい。待っていたわよ」
凛として立つその風格は、王妃というより王様っぽかった。
「ど、どうも」
「この前はうちの人がお世話になったそうね。ごめんなさいね、相当酔ったみたいで、ヘラクルスに担がれて帰ってきたから挨拶もなしに」
「いえいえ、あまりおもてなしもできずに」
「おもてなしするのはこっちよ。まったくクロウディスはまだ冒険者気分が抜けないんだから」
腰に手を当てて、姉か母の様に居ない王を叱った。
クロウディス王は尻に敷かれているのか。
俺はそう思うと人事なので笑みがこぼれる。
「お前嬉しそうだけどお前も似たようなもんだからな」
俺の肩越しに、ぬっと髭面のおっさんが出てきた。
しかも良く分からん事を言いつつ。
この前よりも大分フレンドリーになっている
クロウディス王は、俺の肩をバンバン叩き
「そう硬くなるなよ!酒をあんだけ飲み交わした仲だろう?」
そう言って席まで連れて行かれた。
「クロウディス、お客様なんだから丁重に扱いなさいよ」
「客っていうか、同業者というか仲間だろ。で、お前は名乗ったのか?」
「あ」
そう言って忘れていた事を思い出し、
笑いだす王妃。
ここはこの国で一番偉い人というか
この国で一番フランクな人の部屋らしい。
「ごめんごめん。ついつい。私はクロウディスの嫁のリリエッタよ。宜しくね英雄さん」
そう言って俺に握手を求めてきた。
俺は慌てて軽鎧の隙間で手を拭いて握手を交わした。
それを見て王妃はまた笑う。
やはり田舎者くさいのだろうか。
俺は気恥ずかしくなってきた。
「ごめんね、貴方の噂があまりにも猛々しくて、もっとごつくて凄い人を想像してたものだから。優男な上に恥ずかしがり屋なのね」
「優男かどうか解りませんし英雄でもありませんが、照れ屋なもので」
そう言う俺に嘘つけと女性陣から非難の声が飛ぶ。
いや照れ屋だろ俺。
というか元引きこもりで無職が
明るく元気な優男な訳が無い。
「さぁさぁ堅苦しい挨拶は抜きにして、寛いで頂戴」
そう王妃に促され少し気を楽にしようと、
座りながら肩を動かしたりしてストレッチしていると、
俺の腕の隙間から目が見えた。
ぎょっとした次の瞬間、反対側の脇を突かれた。
横のファニーを見ると笑いを堪えている。
何なんだ一体。
「うぉあ!?」
次は背中をなぞられ、耳に息を吹きかけられた!
この部屋には妖怪でも居るのか!?
「どこかにモンスターがいるなぁ……ど・こ・か・なぁ!」
俺は細かく左右に首を振った後、
椅子の背もたれを両手でつかみ、
宙返りをする。
「キャア!」
「わぁ!?」
そこには小さな男の子と女の子が居た。
「どうも初めまして御二人とも。コウと申します」
俺はうやうやしく礼をすると、
二人は
「もう一回やって!」
「今の凄い、もう一回見たい!」
と挨拶もそっちのけでせがまれた。
それに対して王妃は二人の襟首を掴んで持ち上げ
「コラ二人とも、挨拶をちゃんとしないか!」
と叱った。
少ししょんぼりしていたので、
俺が盛り上げようと、相棒の黒隕剣を引き抜き、
「坊っちゃん嬢ちゃんご覧あれ」
と言って黒隕剣を宙へ投げると、
スイスイと泳がせる。
それを見てまた元気を取り戻した二人。
子供は現金だ。
リムンも最近は出会った時よりも元気で子供らしい。
「僕もやりたい!」
「私もやりたい!」
「いやそう申されましても、これは私めの飯のタネですので」
「メシのタネって何?」
「何々!?」
「ご飯の糧、ご飯を食べる為に身に付けた芸って事よ。それより二人とも、私の言った事覚えてる?」
そう王妃に肩を抱かれた二人。
「初めまして英雄さん。第一王女のリーゼと申します」
と小さな王女はスカートの端を持って足をクロスさせて、
お辞儀をした。
「初めまして英雄殿!お会いしたかったのです!僕はクロウと申します!」
丁寧にお辞儀をした後、手を握り締め
ワクワクした顔をしていた。
二人とも王子と王女ではあるが、奔放に育っているようだ。
良い事だ。
今から型に嵌められるよりは、これ位元気な方が良い。
俺は自分の事を振り返り、羨ましくもあり
嬉しくもあった。
こうして其々に挨拶を始める。
俺はアリスが何をしているのか非常に気になったが、
今はそっとしておく事にした。
こういう場はあまり望まないだろうというのもあったが、
アイツの不穏当な発言。
そしてここは何でもありそうな街。
不安を抱えつつ、夕餉が始まる。




