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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
のんびり冒険者譚

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建国の雄

 馬車は速度はのんびりと

 俺達の駆け足に合わせて進んだ。

 森を進んで行くが、行路として

 何度も行き来した結果、舗装された

 道よりも雑草や石などが多いが、

 通り易くはなっていた。

 それにしても俺への視線が熱い。

 ザルツボルドさんは相変わらずニコニコして

 いて底が見えない。


 恰幅が良く裕福な商人というスタイルを崩さない。

 傭兵の人達はチラチラ俺を見てくる。

 一体何がどうなってこうなったのか。

 これも風聞の一つなのか。

「コウ様、見えて参りましたぞ」

 森を抜けると下り坂になっており、

 その先にはこの位置からでも解るほど

 広い城下が広がっていた。

 だが城はそんなに大きくない。

 アイゼンリウトの城の3分の一位で、

 前の世界のランドマークタワーを

 低くした位の大きさだ。

 もっとドイツとかにある大きな御城を

 想像していた。


 だが城下の周りは川が流れており、

 攻め込まれても容易に攻め入れないような

 仕組みは作られていた。

 城壁には幾つも見張りの塔が立っており、

 首都としての機能は万全の様だ。

「外から見ただけでは解りませんが、グラディエは闘技場など多くの施設を有しており、仮に他国に攻め込まれても戦える都になっています。市民も活気に溢れており、冒険者にとっては憧れの場所としても名高いものとなっています」

「そうですか。じっくり見物したいですね」

「勿論見物して頂きます。必要であれば、図面なども目を通して頂けますよ?」

「え?」

「はは、これはタネ明かしになってしまいますな。取り合えず首都へ到着して荷物を私の店に下ろしましょう」

「はい」

 どうもこう痒い所に手が届かない状態が

 ずっと続いていて気持ちが悪い。

 一体何が起ころうとしているんだ。

 冒険者として商人と繋がりが出来るのは良い事だ。

 だがエミルの様に明朗なのは珍しいのだろうか。

 そうなると神経戦に発展して

 元引きこもりとしてはしんどい。

 この世界の全てを知っている訳ではないから、

 この世界の常識を持ち出されると勝ち目が無い。

 思えばこの世界に来てまだまだ知らない事ばかりだ。

 あの首都にはこの世界の多くの情報が集まっているに

 違いない。


 情報をしっかり仕入れて理論武装もしないと。

 皆を護る為には剣の強さだけでは足りない。

「コウ様、首都には大図書館も御座いますので、知りたい事はある程度知る事が出来ますぞ?」

 俺を見透かしたようにザルツボルドさんは声を掛けてきた。

 あームズムズする。

 だが思いなおせば自分もそういう事を相手にしていた

 事があったと思い、反省する。

 これは大分堪えるな。

「コウ様はもっと色々な事を知らなければなりません。一介の冒険者では居られなくなっていますからな」

「望んだ訳じゃないんですけどね」

「でしょうな。不快な表情をしてらっしゃる。ですがそう言う所はこれからはお控えになった方が宜しいですぞ。腹の探りあいに置いて、それは不利になります故」

「勉強になります」


 俺は一生懸命作り笑いをした。

 ひくついているのが自分でも解るが、

 皆クスクス笑っているのにはカチンときた。

 誰の所為でこんな思いをしてると思ってるんだ。

 ……って俺か。

 俺は項垂れながらも駆け足を止めない。

 これはこれで良いトレーニングだ。

 何時も瞬時に決まる勝負ばかりではない。

 持久戦をする為にも、不快さを解消する意味でも

 荷台から降りたのは正解だった。


 やがて下り坂が終わり、草原に出来ていた

 舗装された道を行く。

 そして渡り木が降りている城門前まで来た。

 近くで見ると遠くから見たよりも遥かに大きな門で、

 その大きさに愕然とした。

 そして左右を見れば果てしなく広がっているような

 城壁に固唾を呑む。

 まさに首都。

 アイゼンリウトとは国力が違うと思った。

「コウ様、参りましょう」

 声を掛けられハッとなり頷く。

 そして城門を潜る際に

「ザルツボルド様お帰りなさいませ!」

 と衛兵達が敬礼した。

 それを見てザルツボルドさんは口に

 指を当てた。

 衛兵たちは敬礼を解いて頭を下げた。

 そして続く俺を見て目を丸くし、

 また敬礼した。

 何なんだ一体。

 この世界には写真なんてものは無いだろうし、

 俺の顔が割れているとは思えないんだが。

 特徴と言えばボサボサの髪に少し団子鼻、

 背丈も普通くらいだし、筋骨隆々という程でもまだ無い。

 うーん相棒かな。

 俺は色々と考えながら首都の中へと進む。


 やがて中央広場のような場所へと来る。

 そこまでの道でも色々な商店が、威勢よく

 客を呼び込んでいたし、値切ったり交渉が行われたり、

 冒険者も多く見受けられた。

 武器屋も道具屋もエルツの比じゃない。

 人が多く居て酔いそうなくらいだ。

 噴水の周りには大道芸や大きな掲示板があり、

 人が沢山集まっていた。

 田舎者まるだしで目を丸くして見る俺に対して

「コウ様、そろそろ私の店が見えてきます」

 と声を掛けられ慌てて普通にして頷く。


 だが進んでいくと城が段々と近くなる。

 ザルツボルドさんの店ってどこだろう。

 そう考えながら、俺は進む。

 やがて聳え立つ城の城門まで来てしまった。

「ザルツボルドさんお店って」

「ええ、ここが私のお店ですよ」

「これって城ですよね」

「はい。グラディウス城です」

「……城がお店って」

「我が国は何でも扱っております。市民が飢えぬ為に食糧の備蓄から、他国への傭兵派遣まで」

「ザルツボルドさん……まさかこの国の財務大臣ですか!?」

「その通りです。グラディウス国の建国以前から財務を担当しております、ザルツボルドと申します」

 なんというかなんというか。

 財務大臣がこんなホイホイ出歩いていいものなのか?

「部下は優秀なものを集めています。国が賑やかであれば、勿論悪いものも居りましょうが、良い人材も集まってくるものです。ですから私は自由にある程度動けるのですよ」


 笑いながら言うザルツボルドさん。

 俺は一切笑えない。

 何か騙された気分だ。

 なんとも言えない表情の俺に

「さ、荷物は部下たちに任せて、我らは王の下へ参りましょう」

 馬車は傭兵だと思っていた人達が蔵へと

 運んで行った。

 俺はドッと疲れて城壁に寄りかかる。

 なんて回りくどい。

 疲れる。

 引きこもりたくなってきた。

「コウ、行くぞ」

 ファニーと恵理がニヤニヤして近付いてくる。

「お前らなぁ」

「まぁあの男が只者でない事は雰囲気で解っていたであろう?」

「そうそう。何か裏がありそうだったじゃん。それを見抜けなかったのは」

「俺がまだまだってことだな」

「「そういうこと」」

 ハモりながら答えるファニーと恵理に

 両脇を固められながら、グラディウス城の中へと

 入っていくのだった。

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