ザルツボルドの思惑
俺達はシードルさんの所で取り合えず
薬草などを仕入れてから急いで北門へと
向かった。
「英雄殿お待ちしておりました」
「英雄は止めて下さい。コウと呼んで頂ければ」
「解りましたコウ様、では皆様方も出発して宜しいでしょうか」
「おー!」
勝鬨を上げるように元気良く腕を突きあげる
仲間達。
ホント元気だよな。
こちとら満足に眠れなかったので、
そんな元気もない。
だがここからは仕事だ。
切り替えていかないとな。
こうして俺達は馬車に揺られながら
エルツを出た。
ザルツボルドさんの両脇に
リムンとロリーナ、荷台にそれ以外が
荷物を抱えつつ乗り込んだ。
俺は何かあった時の為に、ザルツボルトさんの
直ぐ後ろに陣取った。
しかし馬車の乗り心地はあまり快適ではない。
ガタガタと獣道を進んでいた為揺れがある。
何も食べずに来て良かった。
そして馬を調達しようかと考えていた。
リウの方が100倍乗り心地が良い。
少し資金を貯めたらメンバー分の馬を
購入しようかな。
俺は荷物を持ちながら考える。
しかし荷物を持っている御蔭で、
外から見れば荷物の一つに見えるのは
妙案だ。
俺は乗り心地の悪さに辛抱しつつ、
揺れに身を任せていた。
「ザルツボルトさん、どうやら何事もなく首都まで行けそうですね」
「ええ、問題無いでしょう」
俺が暫くしてそう声をかけると、
当たり前のように言われた。
どう言う事だ?
何か不安があるから俺達を雇ったのではないのか?
俺は違う意味で警戒する。
だがザルツボルドさんは見たところ、
腕の立つ人では無かった。
感覚も危険を知らせてはいない。
俺を罠に嵌めて得になる事と言えば、
風聞で十傑に入れられている俺を倒せば
名を挙げられると言う事位か。
だが商人のこの人がそんな事をする利があるとは
思えない。
商人としての信用に傷が付くから。
そんな事になれば商売がし辛くなる。
あのクロウディス王がそれを良しとはしないだろう。
「コウ様、そう深く考えられますな」
不意にザルツボルドさんから声を掛けられる。
「すいません性分なもので……」
こっちに来てから色々不意を突かれたせいか、
一つの事に対して有り得そうな事を考え、
その中で有るか無いかの答えを出す癖が付いた。
パーティリーダーとしては、危険を察知して
自分以外が安全な方法を取るのが、
俺の考えだ。
何とかここまでそれで生き抜いてこれたが
これからはどうだろうか。
「そうですね。貴方の考えは正しい。危険を考慮して貴方が私の後ろに座ったのは流石です。何かあれば私を人質に首都まで行くとお考えでしょう?」
「仮にそうなった場合は。貴方の命も護りつつ首都まで突っ切ります。そして誰が糸を引いているのか教えてもらいます」
「……なるほどそれなりの経験をお持ちのようですな。ただ異質な能力と武具だけではないようだ。中身もしっかりとしてらっしゃる」
「そうですか?元々人嫌いで引きこもってたんで疑り深いだけです」
「疑り深いなら私の依頼を受けないという手もありましたのに」
「ザルツボルドさんは身なりが良い、失礼な言い方ですが儲かっている商人の方とお見受けします。その人が一人でふらりとエルツに来るのは、どうも腑に落ちない。依頼を受けないという手もありましたけど、どうも放っておけなかったんで受けました」
「ふふふ、やはり私の目に狂いは無かったわけだ」
「うんー。でも普通思う事かと」
「冒険者とはそこまで気が回る者たちばかりでは無いですよ。その日暮らしの日銭を稼いで、宵越しの金を持たない者達も多い。そう言う意味では貴方は身持ちが固い」
「それも性分です。元々生贄にされかけましたし。出来ればゆっくり夜は寝たいので」
「そしてこれも計算の内ですな?」
そう言われ前を見ると、
傭兵っぽい人達が10人ほど出てきた。
「そうですね。ザルツボルドさんは出る前に”私たち”と言ってましたからね。で、どうすれば?」
「出来れば腕前を見せて頂きたい」
「仕方ありませんね」
俺は荷物をどけて荷台を降りる。
皆降りようとしていたが、俺は手で制する。
これは俺を試す為のものだ。
「では」
俺は相棒を抜き、2刀流で先ず目の前の一人の
武器を叩き落とし鳩尾にしっかり柄で叩きこむ。
崩れたのを見て、次の一人に斬りかかる。
受けとめたがひざから崩れたので蹴りを入れ、
もう一人掛かってきたのでギリギリで避け
足を引っ掛けて肩で吹き飛ばす。
一人一人では無理だと判断したのか
今度は3人で襲いかかってきた。
だが迷いは無い。
右側の人の斧を黒隕剣で斬り落とし、
回り込んで真ん中の人の背を思いっきり蹴り飛ばす。
そして残って慌てている人の脳天に
兜の上から黒刻剣
の剣身で叩きつける。
次は4人で一斉に来たが、
あの魔族の神に比べたら剣速は遅い。
俺は黒隕剣を宙に浮かせ、
4人の武器に叩きつけて怯ませ、
その隙に一気に黒刻剣
で4人を薙ぎ倒した。
「まだやりますか?」
「いえ、結構です。貴方の腕を疑った訳ではないのですが、風聞だけでは信用する訳にはいかなかったので申し訳ない。ですが風聞以上です」
「それはどうも」
俺は相棒を鞘と腰に収めると、
倒れた人達を介抱した。
取り合えず大きな怪我はない。
「ただ惜しむらくは貴方の底が見れなかった事ですな」
「いえいえ、これが全力ですよ」
「では首都へ向かいましょうか」
「一つ良いですか?」
「なんでしょう」
「俺の腕を確かめた訳は風聞の検証だけですか?」
「それは追々お話します。驚かれると思いますよ」
「楽しみにしておきます」
俺は何だか腑に落ちないが、
傭兵さん達と共に馬車の横に付いて
首都を目指す。
油断出来ない。
皆も当然警戒している。
ザルツボルドさんの腹の底を見極められずに
俺達は首都へと向かった。




