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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
のんびり冒険者譚

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シスターの夜

 コウ様が急な依頼で外出した後、

 私は一人教会へと向かう。

 エルツでの仕事は教会の運営ではあるが、

 私は重要な任務が一つあった。

 それは冒険者の監視である。

 聖オーディン教会は、クロウディス王の認可の元

 布教活動を行っている。

 クロウディス王の政権下で

 怪しい動きが無いかどうか監視する目的も

 私達は独自に課していた。

 クロウディス王は善政を敷いており、

 どの国よりも安定している。

 それを転覆させようとするもの、

 乱を起こそうとするものが居ないかどうか

 監視するのは教会の維持に欠かせない。


「ウーナよ久しいな」

 闇夜に紛れて一人の男が私に近付いてくる。

「お久しぶりですオーノ神官」

 私は上司であるオーノ神官に対して

 うやうやしく頭を下げた。

「挨拶は良い。で、その後どうだ?」

「はい。問題はありません。エルフの里での裁きや、その後の動きも危険視するには値しません」

「魔族が2人居るようだが」

「そうですね。ですが乱を起こそうと言う気は無いようです。乱を起こすよりどこかに国を立てようと模索する者が一人おりますが、コウ様はその気が無いようです」

「そうか。あまり宜しくは無いが、仮に国を起こすとなった場合どうだ」

「仮の話ですが、国が起これば今の状態では不平分子が流れ込む位でしょう」

「そうなると我々としてはやりやすいな」

「はい。クロウディス王はコウ様を気に入られたようで、支援を約束されました」

「……なるほど。そうなれば当初の予定を変更するべきだな」

「はい。暗殺や謀殺は返って我らの立場を危うくします。あの方はそう言った事にも敏感です。そして対立したとなれば、下手を打つと我らの正統性も疑われるかと」

「あの男は神に接触した可能性があると?」

「そうです。私の見立てでは恐らく数度。そう言う意味ではクロウディス王よりも、我らの味方にしっかりと付けておく必要を私は感じています」

「ならば教皇様にも一度お会いいただいた方が良いな」

「ええ、なるべく早いうちに。あの方は一つ所に長く留まる御方ではありません。機を逃せば我らは乗り遅れます」

「良かろう。なら段取りはこちらで組む」

「お願い致します。私は御傍に使えてなるべくエルツに留まるようしておきますので」

「ウーナよ、頼んだぞ」

「はい。では」

 私は頭を下げて離れる。

 そして久しぶりに自分の教会に帰って来た。

 十字架の前に剣を突き立つ全知全能の神オーディン。

 私は小さい頃から祖父母に連れられ礼拝をしていた。

 そして力を認められ教会でも武闘派でしられる

 オーノ派に組み込まれた。

 

 鍛錬は実戦形式であり、

 魔物との戦闘も数多くこなした。

 シスターの服の下には

 その時付いた傷や刺し傷の痕が

 多くある。

 私はこれをあの人に見せたくない。

 汚れているとは感じていないが、

 恐らくどの娘よりもいかつい。

 シスターという顔をしているから、

 あの人は私を前線に立たせない。

 だがあの人ほどの腕と経験があれば、

 私の実力などとうにお見通しだろう。

 それでもそうしてくれているのは

 気遣いだと思う。

 あの人は何かの為に女性を前線に立たせたり

 しない。

 私が所属し祈る会は女性であろうと

 お構いなしだ。

 オーディンの名の元に身を捧げる。

 それを旨としている。

 私はそれを当然のように思ってきたし、

 そうありたいと思っていた。

 でも今は違った。

 この環境がとても心地良い。

 シスターとしての役割を務めつつ、

 あの方のフォローをする。

 私は教会に所属して以来、初めて

 シスターの振る舞いをしている。


 初めてあの人にあった時には、

 とても英雄には見えなかった。

 恵理風に言えば冴えないオジサンである。

 だが戦いにおいて、大事においては

 私が見た誰よりも雄々しく

 泥さえ厭わない。

 その姿に私も魅了された。

 そして依頼も小さな事を疎かにしない。

 英雄というとクロウディス王を誰もが思う。

 だがその始まりは誰も知らない。

 私が思うにクロウディス王も、

 あの人の様だったに違いない。

 小さな事からコツコツと積み上げ、

 年輪のように厚くそして今は国という大樹になった。

 恐らくあの人は王になる。

 望むと望まざるとに関わらず、

 そうなると私は確信していた。

 一冒険者では養えないほどの繋がりが、

 あの人には見える。

 女の勘と言うものを信じなかったが、

 生まれて初めて私はそれを信じたい。

 その為に力になりたい。

 その為なら、例え属する組織に反抗する事になろうとも、

 私はあの人と同じように泥を厭わない。


 オーディン様に祈りを捧げつつ、

 私は今信じる者の為に戦う事を宣言した。

 あの魔族の言葉に触発されたかもしれない。

 ならばこそ、今度は私が先を行かなければ。

 あの人に魔族は相応しくない。

 私こそがあの人を支えたい。

 新しい伝説を目の当たりに出来る機会を

 与えられる者はそう多くないのだから。


「ようウーナ」

 不意に声が掛かる。

 驚かそうと思って声をかけた感じでは無いが、

 偶然ではないようだ。

「コウ様、依頼は終わったのですね」

「ああ、そっちも礼拝御苦労さま」

「今回は私の決意表明のようなものです」

「そうなのか?」

「ええ、貴方を支える為に私も頑張ろうかと」

「いつも支えてくれていると思うけど?」

「……コウ様には敵いませんわね」

「パーティリーダーとしては当然だと思うけどね」

「これからは私も積極的に行きますわ」

「皆こんなおっさんに過大な期待をし過ぎだと思うけどなぁ」

「期待させて下さいまし。そして答えて下さいね。私達の為に」

 私は微笑んでそう告げると、

 照れたような顔をしていた。

 年は私よりも上だけど、可愛い人だ。

 そして強く勇ましい面をいつもは出さずに、

 私達を見守っている。

 ああ、私は本当にこの人に魅せられてしまった。

 この人が収める国があるのなら、

 私も見てみたい。

 何も聞かずに気付かせまいと振る舞うこの人の国。

 それはきっと優しく強い国になる。

 私もその柱の一つになる。

 きっと忙しくなるだろう。

 望むところ。

 何時か至る場所へ向けて。

「コウ様。私は貴方をお慕いしておりますわ」

「あ、有難う。でもおっさんに尽くしても良い事無いよ?」

「期待させて下さいね」

「う、重い」

 私はふざけておぶさる。

 それをそのまま受け止めてくれ、運んでくれる。

 暖かい背中で私は心地良い眠りに落ちる。

 このぬくもりの為に私は戦う。

 

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