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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
のんびり冒険者譚

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これまでとこれから

「おかえりなさいコウ」

 ミレーユさんの声で一日の終わりを感じる。

 皆へとへとになって帰って来たので、

 俺以外は皆テーブル席についてぐでっとしていた。

「ミレーユさんこれ依頼完了書ね」

「はい確かに。これは今回の報酬ね」

「銅貨56。結構多いね」

「いつもの依頼より少ないけど」

「いや農家の人がこれだけ出すのは大変じゃないのかな」

「それでも人手が居るのよ。それに信頼のおけない人に任せられないし」

「そっか。じゃあ有り難く頂きます。そのままミレーユさんに。皆の食事代で」

「有難う」

 そうして俺は皆のテーブルに行き座る。

「皆、報酬で食事代とかに回したけどいいかな」

 そう問うと、皆無言で頷く。

 ホント疲れ切ってるな。

 俺も体力的に限界が近いが。

「皆さんお疲れさまっした!」

 オードルが元気に食事を運んでくる。

「お疲れ様。有難うオードル」

「いえいえ、うちの兄貴が何時も皆さんに世話になってますから。冷めないうちにどうぞ!」

 出際良く俺達の前に料理が並んで行く。

 肉に魚、野菜に果物まで。

 これは足が出そうじゃないか?

「コウさん、気にしないでくださいね。女将さんからのサービスっす!」

 オードルが俺が考えていた事を察してそう言った。

「有り難くいただくよ」

 ミレーユさんとオードルに向かってそう告げ、

 手を合わせて

「頂きます!」

 と言って食べようとしたところ、

 皆夢中でがっついていた。

 俺の分残るかな。

 心配になり俺も負けずにがっつく。

 そしてお腹一杯になると、皆無言で部屋に戻った。

 いつもやかましい恵理ですら大人しい。

 俺も正直戻ろうかと思ったが、

 出来れば一日の締めはミレーユさんと杯を交わしたい

 と思ってカウンターへ移動する。


「コウ、いつもの葡萄酒で良いかしら」

「ミレーユさんも」

「ええ、頂くわ」

 そうして俺とミレーユさんは杯を交わす。

「コウ、もうすっかり冒険者になったわね」

 一杯目を二人で空けた後、そうミレーユさんに

 二杯目を注がれながら言われた。

「どうですかね。イマイチ実感は無いですよ。ただ今はゆっくり時間が流れていて、落ち着けるって言うか」

「そうね。今のところそう大きな依頼もないし、暫くはこの感じが続くと良いわね」

「そうですね。エルフの里にも偶には顔を出したいし、イリア姫とも約束した手前アイゼンリウトにも顔を出さないといけないし」

「本当にこういう時間が持てるって良いわよね」

「ええ。死も生も問われない生活を送れる事がこんなに幸せだとは思いませんでした」

「以前の自分では考えられない?」

「はい。仲間が増えて知り合いも増えて。色々やりたい事ややらなくてはならない事が増えたので。クロウディス王が言ったように、このまま増えていくと、具体的に色々考えないといけないなぁとか思ったり」

「そうね。皆貴方を通して繋がっている。そしてその繋がりが今や里や国にも線が延びた。必要とされている自分に違和感は無い?」

「ありまくりですよ。元々引きこもりの無職なのに、この世界に来た事で与えられた力が偶々大きかった。そして相棒達に会えた事で、俺はこの大陸の十傑に入れられちゃってますからね。そんな大した人間じゃないのに」

「もう誰もそんな目で貴方を見ないわ。貴方に感謝をする人、仲間になって欲しい人、色々いるけど皆貴方を必要としているわ」

「有り難いけど、それは俺の力があればこそです。無かったらそんな存在じゃないですよ」

「私が言うのも何だけど、貴方が与えられた力、与えられた武器は一級品。でもね、それを使って戦ったのは貴方自身。そして正しい行いをしたのも貴方自身。悪い事をしようと思えば、貴方はそれが出来た事を、学んだわよね」

「はい」

「だったら力だけの自分なんて卑下するのはお止めなさい。貴方の中にある何かに惹き付けられて貴方の仲間達は、今も変わらず傍にいるのよ。そして今ここに居ない離れた仲間も、今も貴方と繋がっている。それは与えられるものじゃ決してないわ。貴方が選び勝ち取ったもの」

「……そうですね。こんな俺を信じて付いてきてくれる皆の為にも、俺は俺らしく綺麗事を言い続けないと」

「別に何時も綺麗事を言う必要は無いわ。事実貴方はそうでない事もしている。それを後ろめたく思う必要は無い。誰かの命を奪う事になってもギリギリまで粘り、どうしてもそうせざるを得ないからそうした。貴方の決断を貴方の仲間は否定しないわよ。恐れなくて良いから」

「有難うミレーユさん」

 俺達は二杯目を空け、三杯目にかかる。

 

「それ、私にも頂けるかしら?」

 俺の背後から声が掛かる。

 これまた懐かしい声だ。

「いつここに?」

「前に言ったでしょ?私は用が済んだら来るって」

「あら貴女は」

「ここではミレーユだったわね。私はアリス。一応普通の人間に化けてみたけど大丈夫かしら」

「ええ、気で探らなければバレないわ」

「そう、なら良かった。再会の杯を頂ける?」

 アリスは黒いワンピースに軽鎧を身に纏って

 冒険者のような姿で現れた。

 俺はバレンタインの時の事を思い出し、顔が熱くなる。

「コウ、私の方は向こうでの手続きが完了したから、これからは貴方の相棒として貴方の為に動くわ」

「いや、あの、何か物騒な言い方だな」

「そうかしら。私としては貴方が一介の冒険者のままでいるのはつまらないのよ。だからその為の準備をしないとね」

「いやでも、もう少しのんびりしたいんだけど」

「のんびりと言いつつも、良い経験をしてるじゃない。エルフの里では建築と法を、今日は農業。次は都市の水回り関連や商業関係の仕事を頂きたいわ。宜しくねミレーユさん」

「私もそのつもりよ。どうなるにせよ、この世界の事を学んでほしいし、そう言う事が必要な子が多いから」

「なら商談成立ね」

「ちょっ二人とも。話が大きすぎて付いて行けない」

 そう言うと、ミレーユさんとアリスは笑った。

 こうしてこの世界に来てのんびりとした夜がまた更けていく。

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