39章 穿鑿
4人の前にいたのは―――武器製造課の常務取締役、八雲紫、その人であった。
工場を襲撃し、製造ラインを徹底的に破壊する反乱軍を彼女は睨みつけた。
眼鏡を掛け、マントを羽織る"天才治安保護兵"に彼女は苦い顔を示しながらも…。
「…壁?…フン、面白い冗談だな」
「貴方にとって一番いい相手じゃない。…貴方の下らない言葉を受け止めてくれる、唯一の相手でしょう?」
「おっと、それは違う」
彼女の発言を否定したのは早苗であった。
武器製造ラインを破壊している際にどさくさに紛れて盗んだガンブレードを右肩に担ぎ、薄笑いを浮かべていた。
「残念だが、私たちも菫子の言葉は受け止める。…"唯一"では無いんだな」
「…いちいち小賢しい…!…所詮、貴方たちは底辺職でしょう?…何を偉そうに」
「その"底辺職"によって支えられて生きてきたのがお前なんだよな?」
菫子の正論に彼女は狼狽えを一瞬見せると、右手でマシンガンを構え、銃口を4人に向ける。
黒塗りの塊を構えて、彼女は嘲笑を見せた。余裕から来たものなのであろうか。
「…でもいいじゃない、底辺職に就いてる奴らなんで幾らでもいるわ。
…寧ろ、貴方たち反乱軍の行動にはうんざりさせられるわ。―――だからここで死になさい。
…これは常務命令よ」
「常務…命令…?…ジュノア、そういうのは良く分からないけど、命令なんか聞かない!」
小さなジュノアにまで否定されたことに彼女は顔を真っ赤にし、瞋恚を見せた。
マシンガンの引き金に手を掛け、戦闘態勢を整える。
「…無様なものね。常務取締役が子供に馬鹿にされるなんて…」
「―――黙りなさい!所詮、貴方たちは馬鹿げた人形に過ぎないのよ!」
◆◆◆
「これで終わりよ!」
一気に解き放たれた銃弾の横殴りの雨。
それらは前に佇む4人に一気に襲いかかるが、彼女たちは周りの機械に身を隠し、銃弾をやり過ごす。
隙を見計らい、反撃を狙った。
「…チッ、遠距離攻撃は好きじゃないんだがな…!」
菫子は機械の裏を回り、紫の背中からのバックアタックを狙うことにした。
ベルトコンベアの影を疾走し、銃弾を避けながら遠回りしていく。
他の3人は菫子の行動を察しており、武器を構えていた。
「さあさあ…もうそろそろ終わりよ?」
「予言、当たったな…お前自身の運命だけどな!」
一気に後ろから走って斬りかかる菫子に反応し、彼女はマシンガンで大剣の重たい攻撃を防いだ。
摩擦音が響き渡る。ブレイパーツウェポンと黒き閃光のすれ違いに、2人は力を込めて抗った。
その間に3人は紫の後方から一気に攻撃を放つ。
「電磁銃の一撃を食らって!」
「貴方を紅に染めてあげるわ!」
「剣で一閃する!」
早苗は一気に剣を右手に疾走し、その横を迸る雷と紅き槍が通り過ぎて行く。
放たれた攻撃に紫は気づき、無理やり菫子から下がると彼女は身をかわした。
そして、それらの攻撃は菫子へ飛んだのだ。
「紫…哀れだな!」
彼女は大剣で放電現象と紅き槍を防ぐと、剣を構えて紫へ斬りかかろうと試みる早苗の補助をすることにした。
早苗は攻撃を避けた紫に追いうちの一撃を放とうとするが、瞬間的に構えられたマシンガンが早苗の身体を至近距離で放たれようとしていた。
しかし彼女はブレイパーツウェポンで早苗に向けられた銃弾を防ぎ、紫は驚きを見せた。
「なッ…!?」
「喰らえ!」
剣の一撃を被った彼女は勢いに任せ、そのまま飛ばされベルトコンベアに衝突した。
ベルトコンベアを背凭れに、彼女は左肩から腰まで掛けて直線状の傷を刻まれ、血が滲みだしていた。
◆◆◆
「終わったな…」
憔悴感の中、彼女は倒れていた紫を見下していた。
そして大剣を背中の鞘に仕舞い、機械に凭れ掛かる紫の胸倉を掴み、分からない事を一つ問い正した。
「…紫、捕虜たちの行方は何処だ。…常務取締役のお前なら知ってるよな?」
「…言ってあげるわ。
―――殆どの捕虜はバハムート・ブラフマーに焼かれ死んで、生き残った捕虜はアルカリュキオン採掘場の再興の為に働かせているわ。
…で、貴方たちの仲間は全員"処刑場"送りよ!いい気味じゃない!」
「何だと・・・!?」
怒りを露にした早苗は嘲笑うが如く笑みを浮かべる紫に殴りかかった。
一発の重たい拳が紫の頬を貫いた。
彼女は再び吹き飛ばされたが、何故か笑っていたのだ。
「…何が可笑しい!?」
「…貴方たちも処刑場送りになる運命だからよ!」
刹那、早苗とジュノアは一気に力が抜け、そのまま地面に伏せたのだ。
何が起きたのか。彼女の背から胸にかけて開いた穴から血が流れを見せる。
「早苗ッ!ジュノアッ!」
「…貴方、何をしたのよ!?」
「…宴会気分の野郎に相応しい最期だな、菫子」
後ろを振り返った時―――そこには眼帯をした、黒き翼を生やした治安保護兵が佇んでいた。
片手には大剣を、もう片手には今さっき火を噴き出したばかりの拳銃を持って―――。
「…貴様・・・!」
「さあ、素直に降伏するんだな。…幸いにも、こちらには仲間は他にも沢山いるからな」
続いて彼女の後ろにやって来たのは霊夢やチルノを筆頭とした治安保護兵達であった。
全員が武器を2人に向け、彼女たちを追い詰めたのだ。
「…菫子、私たちはまだ戦えるわよね…!?」
「…降伏しよう」
静かに声を上げ、彼女は持っていた大剣を地面に置いた。
彼女の視界にはウインクをしていた氷精と妖精の姿が映っていた。
「…え!?」
「…いいんだ、今は一先ずしておけ。これがさとり達を助ける手段になる」
◆◆◆
負傷した2人を含め、4人は縄で縛られ、手錠と共にヘリコプターに乗せられ、処刑場の監獄へと送られた。
菫子があの時、何故降伏したのか、レミリアは最初分からなかったが彼女が向いていた方向から何かを察したような気がした。
―――いずれにせよ、菫子の脳裏は先の計画で一杯なのだろう。




