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3章 侵略

血に埋もれた世界。

訪れたヘリの群れから姿を現した人々は無辜の民に剣先を煌かせていたのであった。

燃え盛る家々。それを嘲笑いながら彼女たちは進軍する。


「追い詰めたぞ・・・早苗。A町の町長よ」


炎で崩れそうな家の中に姿を見せていたのは真剣な目つきをする女性。

緑色の髪にカエルのアクセサリーをつけて・・・。

その蛙は笑っていた。そんな光景を楽しく見てるかの如く。


「・・・どうしてだ・・・私たちは何もしていないのに!」

「黙れ、こちとら上の命令でやってんだ・・・邪魔されては困る」

「多くの人たちを捕虜として連れて行く・・・貴方たちの心情が理解出来ません!」


早苗は徹底抗戦を見せていた。それが態度に示されている。

目に映る、赤の中の3つの影。

涙をこらえ、今はコイツらをやっつけるしか他に無かった。


するとルーミアは無線通信で他の治安保護兵に連絡を入れる。


「こちらB隊、まもなく鎮圧に入ります」

「了解。B隊は町長の鎮圧に専念して下さい、他は私たちが防ぎます」

「了解」


無線通信を終えると、3人は無慈悲にも武器を構えた。

それらは無実なる町を引き裂き、一気に絶望の淵へ叩き込んだ物であった。


「・・・貴方たちには・・・心は無いんですか!」


その時、菫子は何かハッとした気分になったのであった。

表には出さなかったが、何処か心が変わったような発言・・・不思議な気分に浸されたのであった。

しかし他の2人はそんな必死な問いに嘲笑を込めて返す。


「心?私たちにあるのは会社と給料だ」

「私たちだって心情を持つほど豊かじゃないのよ」

「だからと言って・・・やることが違います!私たちは暴動も何も起こしていない!」

「知ったことじゃないわよ。上の命令は上の命令、一応あんたをぶっ飛ばさなきゃいけないのよ」


そんな霊夢の言葉に憤慨と瞋恚を示した彼女は近くにあったショットガンを右手で構える。

涙は炎の轟音によってかき消され、哀れ無常なる世界がそこに展開されていたのだ。


「人の心を考えられないなんて・・・最悪だ!3人とも、ここで死ね!

地獄で永遠の罰を受けてください!私たちのためにも!」


◆◆◆


「終わりです!」


早苗は3人に向かってショットガンの引き金を容赦なく引く。

その銃声は空しく炎の音に書き消され、更には銃弾の進む方向も3人に捉えられていた。

3人は慣れた攻撃にすぐさま反応して避け、銃弾はそのまま燃えている木材に直撃した。


「来るな来るな来るなあああああああああああ!!!」


彼女の恐怖心はより一層攻撃を増させたのであった。

終わりを告げることが無さそうな連続射撃は3人を穿とうとするが、忍者の如き避け技で3人は早苗に迫る。


「ここで失せろ、その抗いが醜いんだよ」


ルーミアは隙を窺って早苗の真正面に移っては持っていた剣で一気に斬りかかった。

早苗はそんなルーミアの攻撃に気づき、すぐさま身をかわす。

しかし避けた先にいたのは―――菫子であった。


「終わりだな、早苗」


菫子は持っていた大剣―――支給された大剣〝オデュッセウスウェポン″を構え、避けた瞬間の早苗に一撃をお見舞いする。

強力な大剣の一撃が彼女の肩を斬り抜ける。

服が千切れ、露見した右肩から見えたのは皚皚の色―――骨であった。


「い、痛い・・・」


早苗は菫子に肩を斬られたが為に痛みを訴えて地面に右膝をつける。

燃え盛る炎と共に、流るる血は一つとなった。


◆◆◆


「ミッションコンプリート、早苗を確保。そちらの状況は」

「全員確保、後は家に隠れていると思われる少女を確保するだけです」

「了解」


ルーミアは傷ついた早苗を捕虜として捕らえ、連行する。

他の治安保護兵たちもルーミアに加わり、早苗は項垂れ乍ら絶望していた。


霊夢の無線に連絡が入ったため、菫子と霊夢はその少女を捉える為にその家に乗り込むことになった。

だが菫子は何かおかしいと思い始めていた。

―――何か間違えている。

燃え盛る町を歩き、流れる血を踏みながら目的地まで進む2人。

捕虜たちの悲しき抵抗の声も治安保護兵によって制され、少女もまた、今から捕えられようとしていた。


そして炎で崩れそうな家の中に入るとそこには―――少女が怯えて2人を見据えていたのだ。


「いいからそこのガキも捕まえるのよ!」

「おいやめろ!流石にそれはやめろ!」


不意に出た言葉・・・それは思ってもいないことであった。

が、彼女の身体は勝手にも少女の前で仁王立ちをしていたのだ。


「菫子!その餓鬼の味方になるつもり!?私たちのミッション内容をド忘れでもしたの!?」

「ミッションは分かっている!ここの鎮圧だろう!・・・でも、対象が違うだろうが・・・」

「・・・コイツは只の裏切り者、って訳か」


そこにやってきたのは早苗の連行を終えたルーミア。

突然の菫子の行動に呆れを含有した表情を浮かべていたのであった。


「まあそうねルーミア、あんたの言うことと同じよ」

「裏切り者、、、違うだろ!私は・・・こんな小さい子までに手を出さなくても・・・!」

「まあいいぜ、お前は好きにしろ。

・・・その代わり、お前はクビだ。治安保護兵をこの場で辞めろ。二度と姿を現すな」


言い捨てた彼女たちはそのまま菫子と少女の元から去ったのであった―――。

捕虜輸送用の飛空艇が到着し、霊夢たち同様に多くの人々が乗りこんでいく。


「・・・どうして・・・どうしてこんなことをするの・・・?」


不意に発せられた少女の言葉は菫子の耳の中に鮮明に響いた。

炎の音や崩れ落ちる音なんかよりもはっきりと、鮮明に―――。

落ち着いたその声に彼女は動揺せざるを得なかったのだ。


飛空艇は飛び立った。

あの中に私も入るはずだったのであろう。

だが心は、身体はその事を本能的に拒否していたのだ。


支給された大剣を背中の鞘に仕舞い、家と共に崩れる少女を何処か同情した目で見据えていた。

元凶である彼女に同情する資格は無い、それは彼女も理解していた。

でも・・・何処か間違っている。

―――自分も、そしてこの世界も。


「・・・何時から治安保護兵はこんなことをやらされていたのだろうか?」


静かな刻が、流れていく。

そして彼女は少女の為に、そして世界の為に剣を構えることを決意したのだ。

それは自分の勝手な決心では無かった。身も心も、自分の全てがそうしろと言ってきたのであった。

菫子は怖かった。でも、それが彼女に与えられた使命なら―――


―――やるしかなかったのだ。


「・・・私は、間違っていたんだ」


その顧みが、何処か世界を変えたのかもしれない。

回想終了です。

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